03:すべては始まった
辿り着いたところはさっきと同じような石畳の建物だった。周りと違うところと言えば古惚けた茶色いドアが付いていることだけで他は周りと変わりない。
「入れ」
櫻谷は石畳のドアを開けると命令されるように言われたのが少しむっとしたがおとなしくドアの中に入る。中は普通のビルの中だった白い壁と天井に応接室にあるよな赤いソファーが2つずつ向きあい窓からは夕日とビルが見えている。さっきまでのあの空の赤さでここは茜の世界じゃないと分かった。
「どうやら帰って来たみたいだね」
部屋にあるもう1つのドアから紺色の背広に赤いネクタイの格好の黒い短髪の背の高い優男が俺の姿を見て微笑んで言った。
「戻って参りました櫓木さん」
「ただいま」
後から入ってきた2人がその優男を見てかしこまったように言う。
「お帰り智鶴さんにネロくん」
優男はそう言ってほほ笑むとソファーに座るように指示し俺達は赤いソファーへと座る。
「まずは自己紹介だね。私の名前は櫓木 栄灯」
「俺は・・・標葉 朱根といいます」
「うん、知ってるよ。さっき智鶴さんが教えてくれた」
そう言って笑う櫓木とう男の人はペラペラと饒舌にしゃべりだす。何では知らないけど鐘や俺については触れなかった。
「この仔はネロくんと言ってね。茜の世界の住民なんだ」
「えっ。あそこに人が住んでいるですか?」
「うん住んでるよ。でもごく僅かみたいだし私も今まで5人しか会ったことないけどね」
櫓木の隣に座っているネロっていう奴を見る。さっきから瞬きもせずじっとこちらを無表情で見つめていてまるで蝋人形のような印象がする。怖ぁ・・・茜の世界にはこんな奴ばっかなのか?
「私達が所属している組織の名前は《クウィド》というんだ」
クウィドという組織は詳しくは言えないらしいが茜の世界で活動しているのだという。
「取りあえずさぁ朱根くんはしばらく此処を出入りしてよ」
お決まりみたいなニコニコと人が好さそうな笑みで櫓木は俺に言った。
「此処にですか・・・?」
「そう。別にいいよね」
怪しさ漂ってるし信用できそうな人たちなのかは分からないからここは断るほうがいいと思うけど・・・もしかしたら沙耶のことを詳しく知ることだできるかもしれない。
「いいですよ」
俺はそう言うと櫓木という人はニコリと笑って嬉しそうにお礼を言ってくれた。その後今日は遅いということで帰らされた。
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「何をするつもりなんですか?」
「何って」
「彼は一般人ですよ?何で巻き込もうとしてるんです」
標葉が帰って行った後に櫓木さんに私は質問する。すると櫓木さんは外を眺めながらいつもの笑顔で答える。
「彼はあの鐘を持っている」
やっぱりそうなるのか。楠原沙耶が標葉に託したと思われる鐘・・・ロストベル。本当だったらネロに渡すはずだった鐘が彼女がそれを拒否し裏切り、そして・・・。
「それに、もう鳴ってしまった。もう彼しかあの鐘を使えなくなった」
「・・・それもそうでしたね」
あの鐘の音が鳴ってしまったからもう後戻りはできない、すべてはもう始まってしまった。