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0話

 魔界カラスの鳴く、紫色の空の下。

 草木の生えない黒い砂の荒れ地に、空間を塗りつぶしたかのような一際黒い闇が渦巻いていた。


 周囲の光を吸い込むような闇が広がって、赤い髪の悪魔が現れた。



「あたし、生まれたみたい」


 あたしはリズリリス・ヘイルアイズ。たった今、闇から生まれた。発生したばかりほやほやの悪魔だ。

 ここ、土と砂しかないのかな。


「ほおう。産まれたての悪魔か。ちょうど良く居合わせたようだな」

「んー?」


 何もないかと思ったけど、誰かがいたみたい。

 振り返るとドクロのお顔があった。被ってるボロボロの布から、骸骨のお手てが出てる。


「今日の俺、ツイてるようだな。知ってるか、悪魔ちゃん。――産まれたての悪魔はまだ何にも所属してないんだぜ。つまり、学園入学前の悪魔はまだ魔界の民としての権利がない。庇護も、な。カッカッカ!」

「ふーん。そうなんだ」

「そうなんだぜ。――来い。ソウルリーパー」


 ドクロのお顔がカクカクと震えて笑ってる。空間から、骸骨のお手てに大きな鎌が出てきた。

 あたしに向かって振られた鎌を後ろに跳んで避ける。


「チッ。なかなかに高位の悪魔のようだな。…だが、その分強い魂が期待できるぜ」

「おじさんは、あたしの魂を食べたいんだ」

「おじさんじゃねえ。死神マドロー様だぜ!」


 死神なんだ。

 あたしに向かって振り回してくる鎌を何度も避けてるけど、これなら。


「ほいっ」

「ぐげぎゃぷっ」


 お顔を一回殴って、お腹を蹴り飛ばした。荒野の上を跳ね飛んで行った。なんだか面白い。

 あたしは地面に落ちた鎌を拾ってから、ふよふよと飛んで、向こうに行っちゃった死神を追いかけた。


 この鎌、とっても持ちやすくて手にすっぽり収まる感じ。鎌を振り回してると、荒野に転がってる死神を見つけた。


「ぐ……ご、あ…。おま、え……」


 頑張って立とうとしてるけど、起き上がれないみたい。手は動くみたいだから、どうしようかな。

 鎌の先を死神に向けるとビクって震えた。


「ひっ! な…なにをするつもりだ」

「食べていい?」


 お腹が空いてたなあ。ちょうど死神に襲われるなんて、あたし、ツイてるのかも。


「い、いや。ダメだ!…俺を食べたら、魔界の法違反になるぞ。そ、それに、他の死神が軍を成して仇討ちに来るぞ!」

「んー。それ、嘘だよね。魂が震えてるよ」


 魂を見てると、嘘も分かるんだなあ。

 悪魔のあたしと違って、死神は嘘を吐くのにあんまり抵抗はないのかな?


「ということは、襲われた時は襲い返しても法で許されるのかな?……そうみたいだね」

「っや、やめてくれ!! すまなかった。二度とお前を襲わないから…この通り、許してください…!」


 死神が地面にドクロのおでこを擦りつけてる。可哀想。


「でもあたし、お腹空いてるんだし、死神もあたしを食べようとしたんだから、いいよね?」

「よ、良くない! わ、分かった、腹が減ってるなら、人間の魂をやる。あ、悪魔の好物だろう?…それでどうだ!」


 この死神、よっぽど食べられたくないみたい。あたしを食べようとしたのに、不思議だな。


「うーん。でもその魂、あなたを食べた後でもらえるよね?」

「…か、かか鎌もやる!!」

「それも、だよね?」


 そろそろ我慢できなくなってきた。いいかな?いいよね。

 鎌を構えなおしたら、死神が慌てて叫んだ。


「ひっ、ヒィアア!! 待て待て!――鎌の所有権だけは、所有者から譲渡されないと無理だ!…だから、な!?」

「そうなんだ」


 これは嘘じゃなさそう。うーん、どうしよっかな。

 この鎌、手にしっくりきてなんだか良い感じなんだよね。


「…お腹空いちゃったから、とりあえず人間の魂をちょうだい?」

「わ、分かった、分かりました!…こ、こちらです。へ、へへ」


 死神が笑いながら空間から魂を取り出した。

 あれ?この魂、とっても美味しそう。表現が難しいけど、柔らかそうで温かそうな感じ?


 お腹の音が止まらないまま、死神から魂を渡してもらった。


「いただきまーす!…あむ。――美味しいっ!」


 なにこれ、美味しい!トロトロで柔らかくて、素敵。

 すぐに食べ終わっちゃった…。もっと食べたい!


「死神、魂まだある?」

「あ、ああ。…助けてくれよ?」


 死神からおかわりの魂を受け取った。だけどこれ、さっきのより冷んやりしてて濁ってる。


「んー?…いただきます。あむ。……っ!」


 まずいぃ。美味しくない、ベタベタする。まずいー!


「なんで、美味しくないの?」

「…どうやら、お前は悪魔としては珍しく、明確に味覚があるようだな」

「そうなの?」


 あたし、こんなの知っちゃったら美味しい魂しか食べられないかも。どうすれば美味しい魂になるのかなー。


「おい、悪魔の娘。取引しようぜ」

「うーん? 取引?」

「ああ、俺はお前の好みの魂の種類を一緒に探す。お前は俺の魂を取らない。どうだ?」


 それって、良いかも。あたし、ツイてるね!


「うん、いいよー。それなら今回は魂を取らないでいるよ! あ、鎌ももらうね、ありがとう!」

「はっ?…え、ちょっ」

「それじゃ、行こー」


 死神の骸骨の手を掴んで、引っ張る。

 美味しい魂、楽しみだなあ。いっぱい食べるぞー!

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