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一話

 あたしはリズリリス・ヘイルアイズ。王立悪魔学園五年生の首席だ。闇より生まれて十七年が経つ。

 今日、あたしはこの学園を卒業する。


「答辞。王立悪魔学園五学年、リズリリス・ヘイルアイズ。私たちは、今日この日、この学園を卒業します。本日、卒業を迎えられたことを、偉大なる魔王閣下に感謝の意を表します」


 壇上に立つあたしは、下に並んでいる悪魔の列を見る。

 同じく卒業する学友たちと、脇に控える教師たちに対する感謝の言葉を述べて、暗記した原稿を読んでいく。


「私たちは、これから多くの人間と契約して、悪魔としての本懐を遂げ、悪魔社会に貢献することを、ここに誓います」


 そして、あたしはこの学園を卒業した。



 赤と紫の花びらが散っている。花びらが何枚も重なって咲く、レッドタイルの花びらだ。


「リズー!」


 呼ばれた方へ振りかえると、黒い髪の悪魔の子があたしを追ってきている。


「リズ、卒業おめでとう。ウチらもこれからは大人の悪魔だね!」

「うん、ロズも卒業おめでとう。いっぱい契約結ぼうね!」


 彼女はローゼヘナ。あたしの同級生で、唯一の親友。


「そうよ。ウチはたくさん契約して、爵位持ちの悪魔になるの」

「いいね、それ。あたしはね、この契約で人間さんを幸せにするんだ!」


「きゅう。人間を幸せにする悪魔なんて、悪魔らしくないでございます」


 甲高い声がして、あたしの影から小さな悪魔が出てきた。

 この子はシリシア。人差し指くらいの背丈で、着ているドレスはゴシックロリータというみたい。


「でもでも、お互いお得なほうが、いいでしょ!」

「ご主人ちゃんの言うこと、良く分かんないでございます」

「えー。…っと、わあ」


 そうこうお話していたら、足元に赤い魔法陣が浮かんだ。早速お喚(よ)ばれされちゃった。

 こんなに早く契約を求められるなんて、あたし、ツイてる!


「行くよ、シリシー。…ロズ、またね!」

「行ってらっしゃい、リズ!」


「やれやれ、でございます」



△▼△▼△▼△▼△


 饐(す)えた臭いの漂う、あちこちに穴の開いた木造の部屋の床に、赤い魔法陣が浮かぶ。

 渦巻く魔法陣を前に膝まづく、中年の男が呪文を唱えている。


「我の願いを叶える悪魔よ。魔界より――出でよ。我は契約を願う者なり」


 鮮血のような光が渦巻き、そして、紅い髪の若い女悪魔が魔法陣から現れた。


「お喚(よ)ばれされました!――あたしは悪魔のリズリリス。汝(なんじ)の魂を贄(にえ)として、お願いを叶えるよ。魂の質(しつ)によって叶う範囲はあるけどね」



 あたしの初仕事だ。気合が入る。喚ばれた場所は、窓のない暗い部屋の中みたい。

 召喚した人間さんはあごひげが長いおじさん。


「なんだ、随分とフランクな口調の悪魔だな。…大丈夫か?」

「勿論。こう見えても実力はお墨付きだよ?」


 あたしは空間のポケットに手を入れて、黒い穴の中から黒鎌を取り出した。

 鎌から魔力を迸(ほとばし)らせると、鎌の刃が伸びる。


「うおっ。…分かった! 分かったからしまってくれ」


 おじさんも分かってくれたそうなので、鎌をポケットに戻すと、おじさんは勢いよく頭を下げた。


「すまなかった。…病に侵された娘を助けてくれ。……病に侵され、神にすら見捨てられたあの子は、もう、お前にしか治せない!」

「いいよー。ふむふむ。おじさんの魂の全量となら、釣り合いが取れるね」


 おじさんの胸のあたりにある魂を悪魔の目で見ると、健康でツヤや質量も良い感じだ。


「そうか。良かった。頼む」

「えっとねー。契約が成立したら、もう取り消せないけど、いい?」

「問題ない。俺の命一つで済むのなら、安いもんだ」


 真っすぐな目であたしを見つめてくるおじさん。


 瞳孔(どうこう)は開いているけれど揺らぎもないし、体の力も極端な力(りき)みがない。何より、魂が揺らいでいない。

 うん、これなら大丈夫そう。


「じゃあ、契約するね。願いを叶えたら、契約成立だよ?」

「何度も言わせるな。頼むと言ったんだ。…サラの病気を治して、サラを健康にしてくれ」


 おじさんの声色も、問題ないね。最初から良い契約者さんだなあ。

 指先にあたしのチカラを集める。


「汝の願い、聞き届けるよ!――ほいっ。…これで、おじさんの娘さんは治ったよ?」

「――もう、叶ったのか?…少し見てくる!」


 おじさんはドアを開けて出て行っちゃった。

 慌ただしいなあ。学園主席のあたしにかかれば、簡単なことなのに。


 椅子に座って足をぶらぶらさせて、しばらく待っているとおじさんが帰ってきた。


「ふはは!! アザが…消えてるぞ!――修道院の連中め、ざまあみろ!!」


「治ってたの、確認できた? 良かったね!」

「ああ、ありがとう。……絶望的だった。見ていることしか、出来なかった。だが、サラはこれで生きていられる。――本当に、ありがとう」


 何度も頭を下げているおじさん。

 良かったなあ。こんなに幸せそうなら、きっと、良い魂をもらえそう。


「おじさん。契約の対価、そろそろもらっていいかな?」

「ああ…そうだな」


 あたしが手を差し出しても、おじさんは目を閉じて、逃げなかった。

 契約履行の瞬間に逃げる人間さんもいるって聞くから、やっぱり良い契約者さんだ。


「サラの人生に、幸あれ。……愛している」


 あたしはおじさんの胸に手を入れて、最初の契約者さんの魂を抜き取った。


 うん、やっぱり。素敵な魂だ。柔らかくて、ちょっぴりドロっとしてるけど、暖かい。


「それじゃ、いただきまーす!…あーむ」


 うん、しっかり幸せ感じてたみたい。ちゅるっとして、ちょっとだけ苦くてしょっぱいけど、もったりした甘さがいっぱい。


 なかなか好きな味。人間さんもあたしも幸せ。良い仕事したなあ。


「パパ? 起きてたの?――あのね、私、体が……」


 ドアが開いた。

 開いたドアからは、十代前半くらい、かな?

 ちっちゃい人間さんが入ってきた。

【悪魔契約基本の五ヶ条】

・悪魔は契約に於いて嘘を吐けない。

・契約の代償は、願いの大きさに応じた契約者の魂である。

・悪魔との契約は、契約者の願いを叶えた時点で成立する。

・契約成立後、契約内容や条件の変更及び取消はできない。

・願いの成就後、悪魔は速やかに契約者の魂を徴収できる。

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