第13話 上手くいかない日の走り方
週末の練習試合。相手は市立高校。
真歩はサイドに立っていたが、アップの時から身体が重いのを感じていた。
トラップが少し跳ねる。
パスが足からわずかに離れる。
「いつも通り」のはずが、今日は全部ずれる。
(何これ……なんで……)
試合が始まっても感覚は戻らない。
凛が良い角度でボールを預けても、真歩は一歩遅くて追いつけない。
千春が後ろから声をかける。
「大丈夫、落ち着こー。」
でも、その言葉すら遠く聞こえる。
相手ベンチの声が飛ぶ。
「17番狙え!今日軽いぞ!」
それが、胸の奥を刺した。
(……わかってるよ。今日ダメなの、私が一番知ってるのに。)
真歩は「取り返さなきゃ」と思って、さらに前へ走る。
でも、焦りがミスを生む。
ミスが焦りを呼ぶ。
悪循環は止まらない。
前半終了。
真歩は下を向いたままベンチへ戻る。
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ベンチの後ろ、川沿いの柵に寄りかかって、加藤がいた。
相変わらずボロいコート、片方潰れたスニーカー。
でも目は、よく通る。
加藤「真歩。今日の自分、何点?」
真歩は答えられない。
言い訳が喉まで来るのに、声にならない。
加藤は笑わない。怒らない。
ただ、静かに言った。
「ええ日だけ前に出るんは、まだ“途中”や。
悪い日にどう走るかで、人間は決まるんや。」
真歩の呼吸が止まる。
「今日のお前の仕事はな、“前に行く”ことちゃう。
“前に行こうとし続けること”や。」
隣で聞いていた凛が、小さく頷いた。
凛「真歩ならできる。」
その言葉は軽くて、でも揺るがなかった。
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後半。
真歩は、相変わらず体は重かった。
最初のタッチも上手くいかない。
けど──走るのは止めなかった。
スピードが遅くても、走る。
相手に詰められても、前を向こうとする。
息が上がっても、声を出す。
千春「真歩、いいよ。その続き。」
凛はボールを持ちながら、真歩が動けるところへパスを出す。
真歩のために、トランジションの幅が変わる。
「前みたいにできない」じゃない。
“今日の真歩”で戦っている。
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ラスト数分。
真歩はもう足が上がらないほど消耗していた。
それでも裏へ走る。
ボールが出る。
真歩が触る。
相手DFに止められる。
倒れ込む。
それでも、立ち上がって戻る。
相手コーチが小さく呟いた。
「……あのサイド、しぶといな。」
審判の笛が鳴る。
試合終了。
得点なし。アシストなし。
でも、真歩の胸は、不思議と静かだった。
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帰り道、川沿いの風は冷たい。
真歩「ねえ凛。今日、全然うまくできなかった。」
凛「知ってる。」
真歩は苦笑しながら続けた。
「でも……逃げなかった。」
凛は笑った。
「それが一番むずいんだよ。」
千春が前を歩きながら振り返る。
「真歩。今日、強くなってたよ。」
真歩の足は重かった。
でも、心だけは軽かった。
“良い日だけ前に行く選手”では終わらない。
ここからだ。
ここから、本物になる。




