S級斧使いセンパイは気づいていない【side:後輩オーク】《3分恋#11》
S級同士のパーティーなんて、効率が悪い。
なぜギルドは、そんな采配をしたのか――その理由は、1回目の依頼ですぐに分かった。
「おう、お前がオーク族のヴィズか! オレはロゼ、よろしくな」
「……うす」
人間。それも身体より大きな斧を担いだ、いかにも活発そうな女。年下だとは思うが、このギルドの所属年数は上らしい。
「お前、拳士か! オレも近距離の斧使いだし、2人でつっこんでボッコボコ戦法でいくぞ」
「……うっす」
この時点で、不安要素は色々あったが――この人がギルドから心配されているのは、彼女の特殊な「スキル」にあった。
「センパイ、一度引いてください……!」
討伐対象は、S級プラス判定の巨大竜。
炎と尻尾の打撃で傷だらけだというのに、彼女は笑っている。
「あはははは! バカ言うなヴィズ、ようやく楽しくなってきたとこだろ!」
「……バーサーカーか?」
ただ、戦う間にも彼女の傷はゆっくり塞がっていく。
この女斧使いは、スキル:【超回復】を過信して突っ込んでいく戦闘スタイル。見ていて痛々しい。
「……死んだらどうすんだか」
結局、初めての共同依頼は大成功。討伐した竜のヒゲを背負いながら、彼女は上機嫌だった。
「これギルドに届けたら、飲み行こうぜ!」
「……別にいいですけど」
休んだ方がいい、と言いかけた口を閉じた。
太ももの傷は明らかに治り切っていないし、白い頬についた傷も残っている。
「家飲み、しません?」
そんなに無理して飲みたいのなら、こっちにも考えがある。道中、アルコールを調達し、俺の宿へ誘った。
やはり、と言うべきか――この女、昨日会ったばかりの男の部屋に、なんの疑いもなくついてきた。
「会った時から分かっちゃいたが、ヴィズは静かなのが好きなのか?」
彼女は部屋に呼んだ理由を、そう捉えたらしい。
能天気そうに見えて、意外と人を見ている――。
床板へあぐらをかいて座った彼女に、ベッドへ移動してもらうと。買ってきた酒を、手に取った。
「あっ、お前! 先にひとりで――」
んなわけない。
口に含んだアルコールを、彼女の傷ついた腿へ吹きかけた。
「なっ……何やってんだ?」
「治療ですよ、一応」
今日、まともに顔を合わせたばかり。
別にタイプでもない、うるさい女。
でも――傷を見るのが、なぜか辛かった。
「こんなの、オレなら3日もすりゃ消えるぜ?」
「3日もこんな傷口見るの、イヤですって」
本当に。
真っ直ぐで、向こう見ずで、なぜか放っておけない――。
ふと、肩に手が触れた。
小さくて、傷だらけの温かい手。
「オレのこと心配するヤツ、初めてだ」
ありがとう――無垢な声が、頭に溶けていった。
「……はぁ」
何度か一緒に依頼をこなした後。
その日は、彼女との待ち合わせ1時間前にギルドへ向かった。
「……転職したいんすけど。拳士から、戦僧侶に」
あの無鉄砲を守りきれる自信はない。
でも、俺なりの方法で側にいられたら――。