第五章「タクミとの合流」
見慣れない車がアパートの前に停まっていたのを確認した瞬間、あいりとひかるは荷物を抱え、裏口からアパートを出ようとした。
そのときだった。
「——あいり!」
鋭い声に、あいりがビクリと振り返る。
そこにいたのは、兄・タクミだった。
薄暗い路地の向こうから、焦った様子で走ってくる。
「あんた、なんで……」
「話を聞いてくれ……俺、後悔してる」
タクミは肩で息をしながら、真剣な目であいりを見つめた。
「俺が間違ってた。お前を巻き込まないためにひかるを売ったが、お前を傷つけただけだった…しかも、お前はこんな状況でも助けに行くくらいひかるは大切な存在だったんだな…」
あいりは言葉を失ったまま、ひかると顔を見合わせる。
ひかるはタクミを睨みつけていたが、その表情にも揺らぎが見えた。
「氷室が動いてる。もう時間がねえ。あいつ、ヤバいんだ。人を殺すことに何の感情もねえやつ。俺も何回か会ったことあるけど、あいつの目はやばいんだ…」
タクミは視線を落とし、低く呟く。
「一度目をつけられたら、終わりだ。氷室が処理すれば痕跡が一切残らねえ。だから、お前らを隠す場所はもう街中にはない」
「……どこに行けばいいの?」
あいりの問いに、タクミは顔を上げた。
「俺が昔から使ってる拠点がある。まぁ、秘密基地みたいなもんだ。誰にも教えてねぇ。とりあえず、そこに移動しよう」
「信じていいんだよね…?」
「あぁ、必ずお前たちを守る」
*
タクミの運転するワゴン車に乗り込み、三人はアパートを離れた。
後部座席にひかるとあいりが身を潜める。
道中、タクミは後悔と反省を静かに語り続けた。 あいりは黙って耳を傾け、ひかるは無言で外を見つめた。
やがて車は郊外の倉庫前に停まる。 タクミが鍵を開けて中へ案内する。
「ここなら、当面は安全だ。」
殺風景な部屋に寝袋とカップラーメンなどの食品が揃っている。 ひかるとあいりはその光景を見て、ようやく少しだけ肩の力を抜いた。
「今度こそ守る。……信じてくれとは言わねぇ。でも、もう逃げるしかない。氷室からも、全部からも」
あいりはタクミの目を見た。
「だったら、最後まで付き合って。絶対に、ひかるを死なせない」
その声に、タクミはしっかりと頷いた。