鈍色の情景
目の前には鬱屈した現実と、私の影には煌びやかな過去が映っている。
きっとそれだけの話だ。
若い時分の私は野心に満ちていた。
空に向かって手を伸ばせば、中天を照らす太陽さえ掴めるなどと勘違いしていた。
挫折というものを知ったのはいつの出来事だろうか。
よく覚えていないがやはり若い頃だったような気がする。
ある時、私は気がついてしまったのだ。
自分はEXILEのメンバーにはなれない、と。
衝撃だった。
いっそ死んでしまおうかと悩む日々が続いた。
夢を諦める事がこれほどまでに苦しいものか。
身を切られるよりも何倍も苦しい。
だって私には歌が歌えないし、あんな風に飛んだり跳ねたり絶対に出来ない。
仮に出来たとしても警察に逮捕されてしまうだろう。
「ふじわらしのぶは減免偏差値が低い」
知っているよ。
毎朝、鏡をみているからそんな事はとっくに気づいている。
だけどEXILEのメンバーになる事だけは諦めたくない。
私のような暗黒物質から生じた粘着質のアメーバだって人の前で歌って、踊って、多くの人を勇気づけられる人間になりたい。
何よりも上から目線で他人を見下したい。
全人類を奴隷化して家畜として虐待したい。
そんな細やかな願いが、夢があったっていいじゃないか。
だけど私にはそれが出来ない。
身長が足りない、運動神経は絶望的、音痴で、音感もゼロに等しい。
ああ、なんて私の人生は悲しいんだ。
私にはEXILEのセンターに立って、奴隷&家畜化した人々を毎日公開ギロチンショーをする権利さえないというのか。
他の人々はそうすることを許されているというのに、どうして私だけ無実の人々を監獄に放り込んで火炎放射器でウェルダンにしてやることがゆるされないんだ⁉
人は皆、生まれながらにして平等じゃないのか⁉
世の中には小さな悪事を働いて許されるゴミクソ野郎どもで溢れているというのに、どうして私だけがこれほどの理不尽を強いられなければいけないんだ。
そうだ。いつだってそうだった。
世の中は理不尽で埋め尽くされている。
幼い頃から私には何一つとして許されていなかった。
よその家の子供は誕生会を開くと、家にたくさんのお友達が集まって幸福な時間が過ごせた。
だけど私が札幌ドームで世界からえりすぐりの美女だけを集めた乱交パーティーをやろうと言っても誰も集まってくれなかった。
エスコンフィールド(※北広島市)が出来てただでさえも過疎ってるのにどうして皆、私のいう事だけ冷たい目して聞こえていないフリをするんだ?
私は、私による、私の為の、私の大乱交パーティーをしたいだけなのに…。
もう涙で前が見えない。
やる気も起きない。
この小市民の切なる小さな願いが、大きなエゴに潰されるのが救いようのないこの世界の現実だ。
勝負の結果はあらかじめ約束されており、裕福なごく一部の人間だけが特権と栄誉を独占し、私のような財産も力も持たない人間は最初からいないものとして扱われる。
こんな世の中は絶対に間違っている、と私は言いたい。
私だって監獄に無実の罪でぶちこまれた囚人の首に爆弾つきの首輪をつけて殺戮のバトルロワイヤルとかさせたい。
優勝者は助けてやるみたいと希望を見せておいて、閉会式の時に全員の首輪を爆発させたい。
どうしてこんな健気でありふれた小さな望みが受け入れられないんだ。
いつだって私は夢をかなえる為に努力は欠かさなかった。
毎日、オナニーしてご飯食べて、オナニーして寝る。
そうやって弛みのない努力の日々を送ってきたはずなのに結局は何物にもなれなかった。
髪の毛は薄くなったけどな。
こんな結果、あんまりじゃないか。
夢をかなえる為に使った私の時間を返して欲しい。
全人類は今すぐ食料と金を私の全て差し出して、私に謝罪するべきだ。
だが私の苦労が報われる日も、全人類が謝罪して集団自決する日も永久に訪れないだろう。
この絶望を抱きながら、私は今日も生きなければならないのだろうか。
誰か知っているなら教えて欲しい。
どうすれば特大のロードローラーを作って、私の仮想敵たちをぺちゃんこに出来るのか。
ああ、私の未来は絶望だけが約束されているのだ。
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