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恥ずかしがり屋の侯爵令嬢は、公爵令息の手のひらで転がされる

作者: 美知加

「ウィル様とリアナ様だわ!今日もお美しい・・・。」

「本当にお似合いですわ・・・。」

「お二人の出会いが偶然だったなんて、信じられません。」

「街でウィル様とリアナ様がぶつかったときに、ウィル様が一目惚れしたのでしょう?」

「しかも、お二人とも平民に変装した状態だったとか。」

「顔よし、性格よし、身分よしの男性が、身分の分からない女性と運命的な出会いを果たした・・・。」

「物語のようにロマンチックですわ・・・。」

「憧れのお二人ですわね・・・。」



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



そんな声を聞きながら馬車に乗り、現在はウィルと二人きり。


「リアナ、お疲れ様。」

「うぅ・・・恥ずかしかった・・・。」


私、リアナ・ギミュードは、ギミュード侯爵家の長女。

今年で十七歳。


「何であんなに注目するの・・・学園から帰るだけなのに・・・。」

「美しい顔立ち。シルバーの綺麗な髪。宰相の娘。注目される要素しかないな。」


そう話すのはウィル・ラフズダール。

ラフズダール公爵家の長男で十七歳。

私の婚約者でもある。


「いやウィルが悪いのよ・・・ウィルといるから私まで注目されて・・・。」


甘い顔立ち、ブロンドの髪、王族に次ぐ高位の家柄。

注目を集めない訳がない。


「あと、ウィルとの出会いが美化されすぎ。」

「一部割愛されているだけだ。」

「・・・言う相手が間違っていたわ。」

「僕以外に言ってみたら?」

「言うわけないじゃない!体臭に興味を持たれたとか、ナンパ紛いのことをされたとか・・・。」



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



あの日、私は街で買い物をしていた。

しかし、休日の街はどこも人が多く、とある通りで男の子とぶつかってしまった。


「ごめんなさい!大丈」

「あなたは嫌な香りがしないな。」

「は?」

「お嬢さん。名前を教えていただけますか。」

「へ?」

「お茶でもしながら話しませんか?」

「ふぇ!?」


それがウィルとの出会いだった。

私とウィルが、十二歳のときのことである。


「改めて、僕はウィル・ラフズダールです。」

「リアナ・ギミュードです。」


とりあえずカフェに移動して、まずは自己紹介をする。


「ギミュード侯爵家のご令嬢でしたか。裕福な平民かと思いました。」

「あなたも・・・まさかラフズダール公爵家のご令息とは・・・。」


貴族の子どもは身代金目的で誘拐される場合があるため、影(護衛)をつけるのはもちろんのこと、平民の姿に変装することが多い。

そのため、お互いに貴族だと気づかなかった。


「突然誘ってすみません。あなたからは嫌な香りがしなかったのでつい・・・。」

「・・・あなたも気になるの?」

「はい。なので、我が家では毎日入浴しています。」

「私もそうなの!!」

「・・・続きは我が家で話しましょう。」


そう言われてラフズダール公爵家に行くと、ガゼボでウィルと二人きりになった。


「他の人に聞かれたくない話があるかもしれないので、二人きりにしてもらいました。ただ、使用人は見えるところにいるので、安心してください。」


私が頷くと、ウィルが話を続ける。


「あなたは・・・僕と同じように、前世の記憶がありますか?」

「・・・!あります!」

「やっぱり。僕は九歳のときに思い出しました。」

「私も同じくらいに思い出しました。」


話してみると、私とウィルには共通点が多いことが分かった。

前世は日本人だったが、不慮の事故で命を落としたこと。

前世を思い出してから、他人の体臭が不快で困っていたこと。

シャワーしかないことに耐えられず、自宅にバスタブを作ってもらったこと。

毎日入浴していること。


「十歳になると、お祝いのパーティーがあるだろう?あれだけは参加したが、会場内の香りに耐えられなかった。それ以降、パーティーへの参加は拒否している。」

「私も同じ。そのパーティーだけは参加したけど、気分が悪くなって早々に帰ったわ。」


入浴は多くて週に一回、少ないと一ヶ月に一回が普通という国。

それなのに、貴族の間では香水をたっぷりつけることが流行している。


「あの体臭と香水が混ざった空間にいて、よく平気だと思ったわ。」

「あれが普通なんだろう。そういえば、二番通りのケーキ屋を知っているか?」

「知ってる。新食感のケーキがあるお店でしょう?」

「あれ、シフォンケーキだよな。」

「ええ、シフォンケーキだったわ。」

「スフレチーズケーキが食べたかったんだが。」

「私も!日本でお気に入りのスフレチーズケーキがあって・・・。」


そんな話をするうちに、私たちは打ち解け、お互いを名前で呼ぶようになった。

そして、気づくと夕方になっていた。


「ウィル、そろそろ帰るわ。また会ってくれる?」

「うん。リアナが僕の婚約者になるならね。」

「・・・はい?」


笑顔で凄いことを言われた。


「出会ってすぐだけど、共通点は多いし、身分も問題ない。何より、僕たちが一緒にいれば、パートナーの体臭に悩むことはない。同じ悩みを抱えているんだから、一緒にいた方がいいと思わない?」

「いや・・・でもすぐに婚約は」

「リアナは体臭がキツい人と結婚したいの?」

「うっ・・・。」


結局、私は丸め込まれて、ウィルの婚約者になった。

私の親もウィルの親も、この婚約に大喜び。

社交の場に行かない我が子を見て、パートナーが見つかるか不安だったらしい。

しかし、いくら条件が良いとはいえ、婚約者をこんなに簡単に決めていいのだろうか。


「リアナ。」


両家顔合わせの日、大人たちの会話が終わるのを待っていると、ウィルに話し掛けられた。


「君は、僕が婚約者になったのは、体臭が理由だと思っているね?」

「はい。」

「僕は君を愛しているよ。」

「・・・はい!?」

「こんなに可愛くて、話が弾んで、前世のことまで隠さなくていいんだ。惹かれるのは当然だろう。」

「でも、同じ悩みを抱えているからって」

「好きでもない人と婚約する男なんていないぞ?」

「ええ・・・。」


そんなの知らない。


「で、でもっ、何でこんなにすぐ」

「その見た目と身分なら、男たちが放っておかない。さっさと婚約しないと危ない。」


危ない?


「大体、リアナのギャップが悪いんだ。見た目は完璧な侯爵令嬢なのに、実は目立つのが苦手で恥ずかしがり屋なんて、ずるいだろう。」


悪い?ずるい?


「つまり、リアナのせいということだ。」


意味が分からない。

確かに、前世の性格を引き継いだ影響で、人から注目されるのは苦手で恥ずかしいと言ったけど。


「とにかく、絶対にリアナを手放したくないんだ。」

「・・・えーっと・・・。」


正直、罠じゃないか不安。


「まあ、すぐに信じなくてもいい。」


それは一安心。


「これから分からせてあげるから。」


ん?


「覚悟してね。」

「ひぇっ。」


怖い。

覚悟って何だ。


そう思ってから早五年。

私とウィルは、すっかり仲の良い婚約者になった。

何も隠す必要がない人と一緒にいるのは、想像以上に心地よかったのだ。

ウィルからの愛は重・・・凄かったが。



* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



「侯爵令嬢らしく大人しくしてるんだから・・・注目しないで・・・恥ずかしい・・・。」

「大人しくしてるって・・・品があると言われるだけじゃ・・・。」

「ウィル?何て言ったの?」

「こういう姿を見せるのは僕の前だけにしてくれと言った。」

「人前でやるはずないじゃない・・・。」

「ギャップ萌えが起きるからな。」

「私の場合は萌えにならないわよ。中身が残念だと思われて終わり。」

「いや・・・リアナの場合は庇護欲を・・・。」


ウィルが何か呟いているけど、疲れたから無視する。


「何でウィルは平気なのよ。」

「僕の場合、前世の記憶はあるけど、性格への影響は少ない。公爵令息として教育された、ウィルの性格が強く出ている。」


私もそうなりたかった。


「しかも、僕が目立たないと危ないし。」

「ん?」

「リアナは自覚がないから。」

「んん?」

「事業のきっかけになったことも、積極的に広めるように言ったし。」


実は、私とウィルはお父様たちを説得して、体臭を改善するための事業を進めてもらった。

その結果、現在は毎日入浴する習慣が定着し、体臭が気になる人は激減した。

そして、私たちがきっかけで事業が始まったことは、有名な話になっていた。

ついでに、私たちがいつもいい香りなのは、パートナーを愛しているからだという話も広まった。


「面倒な入浴を毎日できるのは、パートナーへの愛が強いからだって話は・・・。」

「言い出したのは僕じゃないけど、都合がいいから放っておいた。」

「訂正してよ!日本人だった名残よ!」

「男どもがリアナが入浴するところを想像するのは腹が立つから、きちんと」

「そうじゃなくて!嘘を否定して!プライベートの話を広めないで!」


プライバシーを知らないのか。


「だって、見せつけないと牽制にならないし。」

「?」

「これくらいしないと、王太子がリアナを諦めないだろうし。」

「!?」


どういうことだ。


「王太子って何の」

「リアナは気にしなくていい。目立つ人たちと関わりたくないだろう?」


・・・それはそう。

気にならないわけではないけど、深く追及しない方が賢明かもしれない。


「話は戻るけど、令嬢たちの話は、あながち嘘ではない。こんな異世界で、前世の記憶を持つ女性と出会えたんだ。リアナとの出会いは運命的だったし、物語の一つや二つ」

「書かないでね?」


確かに、ウィルとの出会いは運命的だったかもしれない。

でも、婚約者とのあれこれが物語になるなんて・・・。


「恥ずかしい?」

「当然でしょう!」

「王太子妃にならないためでも?」

「・・・し、知らない!ウィルなら他の方法でどうにか出来るでしょう!」

「よし、リアナの期待に応えよう。実は」

「待って。嫌な予感しかしな」

「じゃあいつ聞く?リアナに隠し事はしたくないな。」

「うっ・・・。」


これからも、ウィルに勝てない日々は続きそうだ。

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