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せめてオルゴールだけでも  作者: ほだか
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さてどうしよう

 さてどうしよう。


 葬儀の翌日、朝目覚めてから何度これを考えただろう。母が亡くなって一週間が過ぎようとしている中、私は何をするわけでもなく怠惰に過ごしている。さてどうしよう。そうはいっても、叔父の好意で母と暮らしていたマンションはそのまま引き継いで利用させてもらえることになり、生活は特段変わることはない。母の遺品整理は、後日、生活が落ち着いてから、親戚で集まり仕分け作業をするということになった。ということは、現状何もすることがないというわけで……。


「あー、暇だ」


 そう独り言をこぼしても、返事をくれる友達はいない。というか、そもそも友達なんてほとんどいない。中学二年の時だったか。その時から、幼馴染のサク以外の友達は、もう必要ないと感じていた。


 私は、きっと人よりも臆病にできていると思う。自分はこういう人間ですと、自分をさらすことが嫌いだった。自分を何も隠さず、そのままの発言で相手がどう考えるか。そうするときっと、変な奴だと距離を置かれるか、最初のうちは気を使って合わせられるかの二択なのだと気が付いた。距離を置かれても、気を使われたとしても、円滑なコミュニケーションにはどちらも遠くなってしまうだろう。生活するにあたって、対人スキルは必要不可欠だ。そして、人間関係は取り返しがつかない。それならばいっそ、自分からひとに合わせることを、人間関係を構築するまでの、とりあえずの処世術とした。これを始めてからの生活は、確かに悪くはなかったと思う。対人関係で角が立つことは少なかったし、もともと主体性というものが欠けていた私には、とても楽なものだった——


『なんかあいつムカつかない?』

『うん』


 合わせて。


『あいつの言葉に返事しちゃダメだよ、仲良いって思われたら嫌でしょ?』

『分かったよ』


 ……合わせて。


『なんであいつ平気そうなんだよ。もっと嫌がることしないと何も感じないんじゃない?』


 ——とても楽なものだったのにと、思う。合わせることに決めたのなら突き通せばいいものを、何らかの不安にとらわれた私は、自分が思っている以上に臆病だったのかもしれない。


『ねぇ、もうやめない?多分こんなこと間違ってるんじゃないかな』


 人間は皆間違うものらしい。私が人生で一番間違えたことは、その時疑問を持ってしまったことだろう。自分の口から突いて出たその言葉に、周りはもちろん、私自身も固まった。動けなかった。自分そのものが、意識と関係なくするりと抜けていってしまったように思う。何人かいた女子達の中の、真ん中の子が言い放つ。


『だったら初めから言ってよ』


 それを境に、そのグループに居づらくなった私は、人と一緒にいるということをしなくなった。あれだけ使いやすかった処世術も、長期間使うと傷が出てくると知り、もうどうでもよくなってしまったのだ。


 学校にいて、なにも誰一人とも話せる相手がいないということはない。家が近所で、小さい頃よく遊んでいた、幼馴染のサクがいたからだ。勉強ができて、頼りになって、かわいくて。人との接し方なんて今からすぐ変わるなんてどうせ無理だし、またあとで考えようか、と問題を先送りにしてから約四年が経つ。未だ友達がいない自身に対して嫌悪感を再燃させていると、プルル、と携帯の通知音が鳴った。なんだろうとメッセージを開く。


『久しぶり、元気だった? 久しぶりにさ、神社行こうよ』


 私の唯一の友達、サクからだった。


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