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2話

誰も知らない世界に連れてこられて数時間、俺は原生林を歩き回っている。


とにかくこの世界から出る方法を、誰でもいいから原住民を探していたのだが。


誰一人いない。


まあ、これぐらいの困難はこれまで幾度となくあった。正直もっと辛いことだってあった。

それもこの先の明るい未来の為ならと、なんとか耐えることが出来た。


が、今回は訳が違う。


必死の思いで手に入れた絶頂期を手放すなんて考えられない。俺は帰らなくちゃいけないんだ元の世界に。


あてもなく歩き回った。


数時間後、出る方法など無いのだと悟りスーツを脱いでうつ伏せで落ち葉の山に突っ込んだ。


目の前には湿った落ち葉しかない。



するとこれまで気が付かなかったが少し落ち着いた事と視界が暗くなったことで、アイコンが右上の端っこにある事に気が付いた。震える手で丸いアイコンに触れる。


触れた瞬間、目の前に文字が浮かび上がり驚いて飛び起きた。


ゲームでいうステータス画面か?なになに…




職業:なし


レベル:1


スキル:採集(植物やモンスターからアイテムとして使える部位を鑑定し収集する事ができる)




そこにはこれ以上に無いぐらいシンプルなステータス画面が映し出されていた。




・・・・・ククク。


あっはっはっはっはっはぁ…!はぁ…。だりゃ!


落ちていた小石をぶん投げた。


吹っ切れたぜ。

これぐらいの困難は幾度となくあった、もっと辛いことだってあった。

じゃあ、それで終わりな訳ねぇよな。


これも俺に与えられた試練の一つだ。

成りあがってやるぜ、ここから!

そして必ず取り返す、おれの輝かしい絶頂期と未来。

よし、そうと決まれば…


…とりあえず人探しだな、結局何の情報もないんじゃ話にならない。あと腹も減ってきたから木の実か何かないか。



ガサガサッ



茂みから小動物がの様な気配を感じた。



好機、とすぐさま茂みに腕を突っ込む。


ん?なんだか思っていたよりも固いな、そして無機質な冷たさ。危険を感じ手を引っ込める


が遅かった。それは茂みから飛び出してきた。



その姿は小動物などではなかった。毛はなく、つるつるとした外骨格、頭胸腹の3節に分かれた体と、細い六本足。

一言でいうならそれは自転車サイズのデカい蟻だった。


オラッ。

素手による殴打で仕留める。


外骨格を剥がして中身をほじくるが、どうも食えそうに無い。


しばらく解体していると、柔らかい袋の様な臓器を見つけた。食えそうもないので引きちぎる。

すると袋がはじけ、中から酸味の強い臭いの液体が飛び出した。当然全身酸っぱい臭い。


…服、脱いどいてよかった。


結局蟻からは何も取れなかったので、その場を後にすることにした。


どどどどどど…


遠くから何かの群れの様な足音が聞こえてくる。


どどどどど…


こっちに近づいてきた。


音のする方向をみた。

迫ってきていたのは先ほど倒したデカい蟻、しかも1匹ではない。ざっと見ても100はいる。

流石にこれは相手しきれない、焦りながら脱ぎ捨てたスーツを回収し走りだした。



…もしかして、俺の事追いかけてる?


先ほどから小道に逸れたりして、蟻の大軍を巻こうとしているのだが、どうやら仲間をヤった報復に来ているようだ。

流石に疲れてきた、ここは戦いを挑んでみるか?倒せない敵ではないが…


そう思いながらも足を動かす。



これぐらいの困難は幾度となく…いやまあ、蟻の大軍に襲われるのは初めてだが。

切り抜けられないピンチではない、何か策は、あたりを見回す。


やられた仲間の報復をするぐらいだからそれなりの知能はもっているだろう、どうしたものか…

長考するが妙案は浮かばない。



「こっちだよ!」



突然脳内に声が響く、それも子供の。


あたりを見回すが近くには人影はない。

が、その声がどちらの方向からしたのは感覚的に分かった。

渡る世間は鬼ばかりではない、やはりどんな世界でも救済の女神はいるのだ。

そんな事を考えながら進行方向を変える。


「思い切り飛んで!」


しばらくすると再びあの声が脳内に飛び込む。

一瞬焦ったが、ええいままよとコンマ1秒で覚悟を決め全力でジャンプした。


すると木の上からすっと手が伸び腕をつかまれた、そしてグイっ引き上げられる。


どどどどど…


蟻たちが迫ってくる。が


どどどどどど…


彼らは木の上に登って切ることなくそのまま通り過ぎていった。


「ふぃ…助かった。」

改めてその救世主の顔を見る。

背丈は9歳児ぐらい、潤いのある若々しい肌と新緑を思わせる髪とくりくりの大きな目はまるでおとぎ話に出てくる森の妖精の様だった。


「人がこの森にくるなんて久々だよ、あ私はアルピー、森の精やってます。」


森の妖精だった。


「俺の名前はタドル、さっきはありがとうな助けてくれて。危うく死ぬところだったぜ…。」

「ところであなた勇者様よね!」

「え?」


俺は困惑した。勇者、俺が?


「もしかして、きたばっかりなの?」

「ああ、うん今来たばっかりだ。」

「じゃあ、いろいろ知りたいよね。でもまずは…。」

少女は顔を赤らめている

「…服着よっか。」


俺はパンツ一丁だった、しかも9歳児の少女の前で。


俺はヒルマタドル、25歳。数時間前まで人生の絶頂期を迎えていた誰も知らない一般国民だ。


これぐらいの困難はこれまで幾度となくあった、が。


もしかしたら過去一番、冷や汗をかいているかもしれない。




::::::::::::::::::::::::::::


ヒルマタドル


職業:勇者


レベル:1


スキル:採集(植物やモンスターからアイテムとして使える部位を鑑定し収集する事ができる)


・日本から召喚された一般国民。好きな女性はハッキリと相手に自分の意見を言えるタイプらしい。


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