21 剣術を学ぼう
初めての出会いから数日後、二人の修行を始めることにした。
剣術にハマっていると豪語した俺だったが、別に剣術のスキルを持っているという訳では無い。
とりあえずリムには家にあった『剣術指南書Ⅰ』をクロには俺の愛用書である『初級魔法大全』を読ませ、俺は久しぶりに街へと転移しイリスの元へ向かった。
冒険者ギルドに向かい、依頼を確認しているイリスを見つけて話しかける。
「おーいイリス、お願いがあるんだけどー」
「おお、コウか。久しぶりだな、どうかしたか?」
俺は瞬時に腰を90度に折り、頼んだ。
「俺に剣術を教えてください!!」
コミュ障が人に物を頼むときは、変に小細工をするよりも真っ先に頭を下げる方がいい……と俺は思っている。
「剣術か?それはいいが、剣術スキルを使えるレベルまで極めるには長年の修行が必要になるぞ?」
「大丈夫!スキルさえ手に入ればこっちで地道に上げるから!!」
「そうか……ならいい、ついてこい。」
イリスはそう言うと、冒険者ギルドの広場に向かう。
広場は、昼間でみんな依頼に行っているということもあり空いていた。
イリスは訓練用の剣を持って広場の中央に立つと、俺を手招いて対面に立たせた。
「剣術には様々な流派があるが、一部を除いてどれも剣術スキルをもとに派生していっている。」
そこまで説明したイリスは剣を中段に構え、続けた。
「剣術の中では世界三大流派と呼ばれる流派がある、剣撃の流れやいなしなどの技術に重きを置いた『龍流派』、一撃一撃の威力を重要視する『剛虎派』、相手の行動を読み急所を正確に貫く戦法で戦う『静鶴派』だ」
「『龍流派』では剣術スキルの【斬】系統、『剛虎派』では【打】、『静鶴派』では【突】を主に伸ばしていくことになる。」
なんだよそれ……カッコよすぎだろ!!!
俺は少年心をくすぐる説明を聞きつつ、イリスに問いかけた。
「イリスはどれを使えるんだ?」
「俺の流派は『龍流派』だがスキルに関しては満遍なく上げているな。」
イリスはそこで言葉を止め、すこし目を逸らして続けた。
「師範が言うには、俺は本当は『剛虎派』の才能があるらしいのだが、ちょっとした事情で『龍流派』に所属している。」
ほう、まあここはあまり触れない方が良さそうな過去だな。
「それじゃあおれも、【斬】【打】【突】のスキルを満遍なく習得するとしようかな」
「わかった。まずは【突】からいくぞ。」
そう言うとイリスは剣を持った右手の肘を上げて肩の前で剣を前に向けて、左手は胸の前に置いて構えた。
「スゥーー……」
目を閉じ、深く息を吸うイリスの剣が薄い水色に光り始め、同じ色の鶴?のような紋様が背中に浮かび上がり、点滅し始めた。紋様が1番強く発光したところでイリスは目を見開き、高速の剣撃を繰り出す。
「シッッッ!!!」
『突・蜂鳥ノ刺シ』
訓練用の粗雑な片手剣が俺でも頑張ってやっと目視できるほどの恐るべき速さで空気を貫くと、イリスの体から光り輝く羽が生えた……ような気がした。
実際光が集まり羽のような形でイリスの背中に現れたが、直ぐに消えてしまった。
「す、凄い!!」
俺の賞賛にイリスは少し照れたようにそっぽを向くと、続けた。
「つ、次は【打】だ。」
一瞬で真面目な表情に戻ったイリスは今度は少し大きめな剣を持ってくると、肩の上に乗せ構えた。
今度は赤みがかった光が剣に現れ、背中には虎の紋様が浮かび上がる。
「セイッッッッ!!!!!!」
『打・猫拳』
イリスが剣を振り下ろすと辺りに小さな嵐が来たかと思うほどの暴風が吹き荒れ、砂埃が舞い上がった。
剣撃を終えたイリスが慌てて言う
「大丈夫か!?」
「だ、大丈夫だ……問題ない……」
幸い、目や口の中には砂は入らなかった。
それにしても凄い一撃だったな……あれをまともに受けたら一溜りもないだろう。イリスは敵に回さないようにしよう……
俺はまたもやそう心に誓うのだった。




