17 奴隷
Side ???
不気味な森の中、武装した数人の男とやけに煌びやかな服を着た男、見窄らしい布切れで身を包んだ数人の男女が歩いていた。
寒い、痛い、お腹が空いた。
最近そんなことばかり考えている気がする。
それもそう、私たちは奴隷だ。
親の顔も、生まれた場所も、自分の名前すら分かりやしない。
ただ一つだけわかるのは、私の味方は今隣にいる少女だけと言うことだ。
物心ついた時から一緒にいる、この少女。薄汚れた黒髪に猫の耳、虚なその目には何も映っていない。
「おい!お前ら!!ぼさっとしてないで早く歩け!!」
そう言って豪華な服を着た奴隷商の男は私たちの腹を殴る。
「ぐっ」
痛い、苦しい、悲しい、虚しい…
どれだけ従順になっても、どれだけ神に祈っても、私たちは救われない。
そう思っていた。
「ギャー!!」
「まずい!餓狼の群れだ!」
数人の男が叫ぶ声がする。
どうにか見ようとするが、さっき殴られたせいで目が霞んでよく見えない。
「おい、奴隷を囮にしろ!!」
その言葉に、私と少女は突き飛ばされた。
何か分からないけど恐ろしいものが周りにいるのを感じる。
何か鋭利なもので身体中を切り裂かれる感触。
激しい痛みが小さな体を襲った。
嫌だ…怖い…助けて……
私たち、ここでしぬのかな?
そこで私たちの意識は途切れた。
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Side コウ
今日は、魔の森の西側を探索しようと思う。
南側はなんだかんだこの一年で探検し尽くしてしまったし、魔物の量も減ってきている。
そのため、西側には色々新しい魔物もいるのではないかと思ったのだ。
『風魔法 飛翔』
俺が魔法を使うと、体の周りから気流が発生しゆったりと浮き上がった。
この魔法は風中級魔法の飛翔、魔力で風を生み出し飛ぶ魔法だ。
ロマンと実用性を兼ね備えた魔法だが、この魔法にも欠点がある。
飛び上がっている間は常にあり得ないほどの魔力を消費するため、俺くらいの魔力量がないと飛ぶこと自体ができないし、俺でも長時間発動するのは不可能だ。
そのため、魔法を小出しにしてなるべく魔力を抑え最低限の魔力消費にしているが、これがなかなかに魔力調整が難しい。まだまだ改良の余地アリだ。
「アォーーーン!!」
ん?
何かの鳴き声が聴こえる。
俺はスピードを上げ、鳴き声の方向を目指した。
これは血餓狼…いや、餓狼か!
俺は急接近して手刀で首を切り落とし仕留めると、その顔をまじまじと見てみた。
口の周りに…血か?
周りを見てみると、ウルフが通った後には血痕が残されていた。
とりあえず行ってみるか。
俺は身体強化を発動し、ウルフが来た方向に走った。
新幹線並みのスピードで景色が流れる中、前方に人がたくさん倒れているのが見える。
さらに近づくと、兵隊のように武装した男が数人、謎にキラキラした服を着た小太りのおっさんが一人、見窄らしい格好をした男女4人ほどが倒れていた。
生存を確認するが、全て息絶えている。
人の死体を見るのはこれまでに何度かあった。
調子に乗り油断した冒険者は魔物に殺されるし、自慢になることではないが盗賊に襲われ反撃の末に殺したこともある。
人を殺す感覚は、相手が悪人だったとしてもしばらくは慣れないだろう。
「ん、なんだ?」
埋葬のため死体を一箇所に集めていると、後ろから物音が聴こえた。
音の方向へ走ると荒い息をした少女が二人、倒れているのが見えた。
二人はまだ生きている。飢えたウルフがこの集団を襲ったが、満腹になったところで放置したのだろうか。
「大丈夫か!?」
急いで少女たちに近づき、傷を確認する。
足や肩、腕に爪で引き裂かれたかのような傷があり、身体中に古傷のようなアザも見られた。
爪による傷は先のウルフによるものだろうが、このアザはどうしたのだろうか。
二人ともどこか薄汚れ、服とも言えないような粗末な布を身につけているのも気になる。
まあとにかく二人とも相当危うい状態だ。
『光魔法 上級回復』
俺の十八番である、光魔法を使い傷を癒す。
すると瞬く間に傷が消え、荒かった息も落ち着きスゥスゥと寝息を立て始めた。
これでひとまず安心だな。
俺は一度離れ、死体を地面に埋め石を立て簡易的な墓を作ると、二人の少女を丁寧に抱き抱え、家に向かってゆっくり飛び始めた。