12 異常事態
ついこの間ぶりに戻ってきた魔の森は、心なしか静かなように感じた。
「変だな……?魔物が少なすぎる。魔の森にはもっと魔物がいたはずなんだが……」
「たまたまじゃねーの?キラービーやらブラッドウルフやらに出会わないうちにイーターフラワーを探そうぜ」
そう会話するアルクとイリス。
「……イーターフラワーはキラービーより弱い?」
俺がイリスに問いかけると、
「ああ。イーターフラワーなら俺たちでも倒せるが、キラービーやファングウルフは流石に厳しい。」
……なるほど。
俺が一人で倒したとはしばらく言わないようにしておこう…
俺がイリスと話していると、いつのまにかずいぶん遠くまで
行っていたアルクが叫んだ。
「いたぞ!イーターフラワーだ!!」
アルクの叫び声を聞き目を向けると、頭の上にラフレシアのような花を乗せ、茎にあたる位置には口を思わせる裂け目があり、そこから鋭い牙をのぞかせた魔物が三匹、こちらに顔を向けていた。
「「「キシャーーーーー!!!!」」」
植物のくせに甲高い鳴き声を上げると、三匹はこちらに近づいてくる。
「1人一匹で行けるか!?」
イリスの言葉に、俺は1番近くのイータフラワーとの距離を詰めた。
「キシャァァァァァ!!」
雄叫びと共に放たれた極太の蔓を避け、これまでの魔物狩りで何百回と繰り返した定石通り、俺は準備していた魔法を放つ。
『水魔法 水斬撃』
俺の手から放たれた三日月状の水の斬撃がイーターフラワーを真ん中から二つに切り裂き、紫色の液体を飛び散らせながら断末魔を放つこともできずにイーターフラワーは事切れた。
よし、まあこんなもんか。
思ったよりも耐久力がなかったが、レベルが低い個体だったのだろう。
他の2人は大丈夫だろうか……
イリスの方をみると、使い込まれた片手剣とやや小ぶりな盾を用い堅実な動きで蔓を防ぎ着々とダメージを蓄積させている。
やはりイリスは性格の通り、安定した立ち回りで攻撃を捌きつつ攻撃する、といった戦い方のようだ。
次にアルクの方に目を向けるがもう終わりそうな様子。
その手に持つ槍は、普通のものより短めな小回りのきくものだった。
俊敏な動きで攻撃を避け、やや細身のその体からは想像もつかないようなパワーで突き、イーターフラワーの顔?に風穴を開けている。
これがAランク冒険者か…魔法なしでこの動きをするのは俺には到底無理だな……
そう感心しているうちに、両者とも戦いを終えたようだ。
「もう倒していたのか?さすがレベル60、早いな…」
「まあ、これくらいなら楽勝だな!」
イリスは薄らと笑みを浮かべながら、アルクは、驚くべき速さで解体を終えたのか大量の花弁を手に抱え、歩み寄ってきた。
「……たまたま…レベルが低かった」
冷や汗をかきつつ俺が言うと、2人は顔を見合わせ、やれやれといったように息を吐いた。
2人ともどうしたのだろうか?
まあいい、それより2人を見ていて思ったが、俺も早く冒険者登録したいな…
「さて、目的の魔物も討伐したことだし、早いとこ帰るか」
そうアルクが言った時だった。
ドドドドドドドドドド!!!!!!!
なんだ!?
激しい地響きと共に、何かがこちらに向かってきているような…
「まずい!大量のイーターフラワーこっちに来ているぞ!!」
イリスが叫ぶ。
音の方向を見てみると、100匹ほどのイーターフラワーがこっちに突進してきていた。
「逃げるか!?」
「だめだ!ここで逃げたら街の方へ向かってしまう!!」
イリスは必死な顔で叫ぶと、臨戦態勢に入った。
「どうにかしてここで食い止めるっっ!!」
そうしてイーターフラワーの群れと衝突する。
イリスが先頭の魔物を牽制し、俺とアルクで殺す、繰り返してだんだん数が減ってきてはいるが次々と魔物が押し寄せ、押されていた。
さすがの俺たちでもでも、このままじゃまずい……
「魔法を使う!どうにか耐えて!!」
2人が頷き、俺は大規模な魔法の準備を始めた。
大量の光属性の魔力を練り、魔力の奔流によって俺の体は少し浮かび上がる。
両手の手のひらに魔力が集まって、淡い光を放ち始めた。
「準備できた!伏せて!!」
2人一斉に伏せるのを確認し俺は魔力を解き放った。
『閃光波動』
手から放射状に光の奔流が放たれ、100匹近くいたイーターフラワーが次々と倒れていく。
「す、すげー…」
「これがコウの実力か……」
アルクとイリスが目を見開いているのを尻目に見つつ、俺は魔力が減った時特有の倦怠感を覚えながら地面に着地した。