10 妹
「ここがオレの実家だ」
そう言いながらアルクは小さめの古い家を指差した。
「オレの家は親父がいなくてな、母ちゃんが女手一つでオレと妹を育ててくれたんだよ」
なるほど、逞しいお母さんだな。
そう思っているうちにアルクはドアを開け、中に入っていく。
「ただいまー!」
アルクが言うが、反応はない。
「ありゃ、留守かな?」
俺たちが首を傾げていると、突然後ろから女性の声が聞こえてきた。
「うちに何か御用ですか?」
声の方へ振り向くと、そこには15歳ほどの灰色の髪を短く切った少女が立ち、此方に訝しげな視線を向けていた。
「もしかして……アルマか?」
アルクの言葉に、少女は一瞬首を傾げ、ハッと驚いた顔をし、笑顔になったと思いきや今度は怒った顔になった。
表情が忙しい人だな…などと失礼なことを考えていると、
「アルク兄…?」
「そうそう、アルク兄だぞ。元気にしてたか?」
「……どこ、行ってたの?」
「王都で冒険者をしてたんだ。お前もおっきくなったなぁ。それで、母ちゃんはどこにいるんだ?」
アルクが尋ねると少女、アルマはうつむき、泣くのを必死に堪えたような声で言った。
「母さんは……寝てる…」
「寝てる?なんでだ?」
「病気に……なっちゃったから……」
そこまで言ったところで、耐えきれなくなったのか泣き出した。
「うああああああん!!」
「び、病気に!?医者には見せなかったのか?」
アルクは尋ねるが、アルマは涙が出てうまく喋れないようだ。
少しして落ち着くと、アルマは母の現状について語り始めた。
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アルマの話によると、アルクの母、ハンナは病気自体は重いが、治せない病気ではないようだった。
ただ、戦争のため位置的に近いドズマン皇国が医療品を買い占めたことで、深刻な物資不足が起きているのだ。
そのせいで薬が買えず、母の容体はどんどん悪化しているとのことだ。
「そんなことが……」
そう呟くアルクの表情は暗い。
アルクの目線の先に俺も目を向ける。
そこにはやせ細ったアルクの母、ハンナが静かに横たわっていた。
薄暗い部屋の中に気まずい沈黙が流れる。
俺としてもこれは放っては置けないな。
何か手はないものか……
「アルク!」
悔しそうに拳を握りしめるアルクに声をかけると、
「……まだ手があるかも………薬屋いこ」
ああああもう!!うまく喋れないのがもどかしい!
しかし、珍しく大きめな俺の言葉に少し表情を和らげ、
「ああ、そうだな。まだ諦めるには早い!アルマ、母ちゃんを見ていてくれ!」
「うん、わかった………………アルク兄も気をつけて」
その言葉にアルクは一瞬目を見開き、安心させるように言った。
「おう!!待ってろよ!!!」