9 街
イアン→イリスに統一しました。
「あっ…っす……」
コミュ障全開の俺の言葉に2人は顔を見合わせ、チャラい方が言う
「オレはアルク、こいつはイリスだ。どっちもAランクの冒険者をやってる。よろしくな。」
そこまで言ってから、真面目な方、イリスが口を開いた。
「見たところ君は冒険者か?若いのに逞しいことだ」
「…冒険者?」
「その様子だと冒険者を知らないのか。まあ、君の歳だとあまりいないもんな」
やっぱり俺、そんなに小さいのか……
前世では人権程度の身長はあったのだが、この様子だと子供くらいの身長になっているのかもしれない。
自分の容姿をよく見たことはあまりなかったな。
考え込んでいる俺にアルクは言った。
「君、名前は?」
「……コウ」
「コウもこの先の街、ルザリーを目指しているのか?まあ、この先にはそれしかないが」
「うん」
「俺たちもしばらくルザリーに滞在しようと思っているから、一緒に行かないか?」
これはありがたい。お言葉に甘えてついていくとしよう。
ついでに冒険者登録もしておきたい。
「お願い…します」
それより、この口調を早いことどうにかしないとな……
Side アルク
「なあ、お前はどう思う?」
夜になり、コウと名乗る少年が寝静まった後にオレは相棒のイリスに問いかけた。
「…道を歩いている時、俺たちの後ろに人はいなかった。あの少年が来るとしたら魔の森からだろう。」
「だよなぁー」
ルザリーまであとちょっとと言う時、あの少年が現れた。
伊達にAランク冒険者をやっているだけあって、警戒は怠っていなかったはずがあの少年の気配は直前まで一切感じなかった。
「あの子、何者なんだ?」
「わからん。が、強者であることは間違いない。」
「そうだな。でも、危険な人物でもなさそうだぞ?」
「…なぜそう言える?」
「俺が振り向いた時な、あの子、怯えるような、少し寂しそうな、そんな顔をしていたんだよ」
「………実際、たびたび起こる戦争によって親を失った子も多い。うまく喋れていないのもあの子なりに事情があるのだろう」
「だったら冒険者として、あの子を守るのが責務だよな」
「そうだな。」
そうして夜は更けていった。
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Side コウ
翌日、俺たちの旅は順調に進んでいた。
時々感じる2人からの妙に生暖かい視線が不気味ではあるが。
はっ!まさかこいつら俺に気が………?
まさかな……
まあ、少なくとも俺にはそっちの趣味はない。悪いが2人には諦めてもらおう。
そういえば改めて自分の容姿を確認してみたのだが、思っていたよりも若かった。
いや、若いと言うより子供だ。見た感じ10〜12歳くらいだろうか?小柄なため、もっと下にも見えなくはない。とりあえずこれからは12才で通すとしよう。
そんなこんなで、ルザリーに到着した。
中世ヨーロッパのような石造の家が立ち並び、屋台なども賑わう大きな街だ。
周りをぐるりと外壁で囲まれ、その中心には大きな館が建っている。イリスの話によると、ここら一帯、ルザリー領を治める、ルザリー辺境伯の館とのことだった。
東西南北に構えられた門の近くには冒険者ギルドが設置されている。
その中でも俺たちは1番大きい北門ギルドに向かった。
「ルザリー冒険者ギルドへようこそ、ってアルクさんにイリスさん!?」
ガヤガヤと騒がしいギルド内に入ると、受付嬢のお姉さんが目を丸くして言った。
「ハハハ…こんにちは、今日はこの子の冒険者登録をお願いしたいんだけど」
アルクが苦笑いをしながら受付嬢に伝える。
「しょ、少々お待ちください!」
お姉さんは急いで奥の方に引っ込んでいった。
「……おい、あれって王都で噂のAランク冒険者の2人じゃないか?」
「………龍討伐の異名を持つあの2人か?」
「……じゃあ2人と一緒にいる子供は誰なんだ」
「…あの子、めちゃくちゃ可愛くない?」
何やら噂話が聞こえてくるが、2人は意に介した様子もない。
少しするとお姉さんが戻ってきた。
「それじゃあ君、この紙に情報を書いてね。」
俺は渡された紙に従い名前を書き、出身のところで手を止めた。
はて、俺はどこ出身なのだろうか?俺はとりあえず魔の森、と書き込みお姉さんに渡した。
すると一瞬首を傾げながらも、イリスの方をちらりと見て、アイコンタクトをすると紙をしまい、拳大の水晶を取り出した。
「じゃあ、ステータスを確認するからこれに手をかざしてくれるかな?」
俺は言われた通りに手を翳す。するとステータスが浮かび上がってきた。
【名前】コウ 【性別】男
【年齢】12 【魔力】192387/192387
【体力】125411/125411
【レベル】64
【スキル】???
???
???
無属性魔法 Lv.10
水魔法 Lv.10
光魔法 Lv.9
炎魔法 Lv.5
体術 Lv.8
鑑定 Lv.-
やばい、嫌な予感がして咄嗟に年齢と加護は改竄したが、レベルとスキルは隠せなかった……
「れ、レベル64〜!?」
お姉さんが驚いている中、突然イリスとアルクは笑い出した。
「ハハハ!レベル60越えか!まあ魔の森出身となれば当然か!」
「…レベル…60は高い?」
と俺が尋ねるとアルクが答えた
「普通の冒険者で高くて20、オレたちでも30後半だし、世界最強と呼ばれる冒険者でもレベル50だと言われてるぜ」
なんだって!?
世界最強ならレベル100とかありそうな気もするが、思ったより低かったようだ。
「ここまで高いと誰かに利用されないか心配ね……」
驚いたままフリーズしていたお姉さんがそう言った。
幸いにしてこの3人以外には聞かれていないようなのでとりあえず秘密ということになり、後日、人が少ない時間帯に改めて登録することにして俺たちはこそこそとギルドを後にした。
ちなみに受付嬢のお姉さんはエレンさんと言うらしい。
ギルドを出たところで、イリスはこれから泊まることになるから宿を取ってくると言い、別行動になった。
俺とアルクは少し歩き、今は街の中心付近の住宅街を歩いていた。
「オレ、ここ出身なんだ。親になにも言わずに冒険者になって出ていっちゃったからさ、妹も怒ってるだろうしそろそろ謝んないとと思って。」
そうなのか……
「……親、大事にした方がいい。」
オレがそう言うと、アルクは目を細めて俺の頭をガシガシと撫でた。
「そうだな…」
そう呟くアルクだったが、地味に痛いから撫でるのはやめて欲しい。
俺が目で訴えると申し訳なさそうに笑って再び歩き始めた。