プロローグ
「良太のやつ昔はあんなにモテなかったのに一丁前に彼女なんか作りやがってぇ〜」
そう呟きながら俺、幸輔はこの世の不条理を嘆きながら、夜道を歩いていた。
いやはや、世界は残酷なものだ。
どうやらこの世では持つ者、持たざる者の間には大きな壁があるようで、壁を越えるため努力のできない者、努力の実らぬ者はただ、壁をうらめしく見つめることしかできない。
あいつもこちら側の人間だったのに……いや、恨むのはちがうな。
あいつは壁を越えたのだ。
俺が竦み、足踏みばかりしていた巨大な壁を。
あ、良太というのは俺の幼馴染で、昔から無口、無表情、堅物の三拍子が揃った真面目くんだ。
そのせいで顔は良いのにモテず、高校卒業までずっと俺とつるんでいた。
が、しかし数年ぶりに連絡が来たと思ったら唐突に彼女ができたと報告したのだ。
その報告を聞いた時は、さすがの俺も仰天したものだ。
それと比べて俺は典型的な薄幸体質のようで、コミュ障で人とうまく喋れないうえ、外に出れば鳥に糞をかけられ、道を歩けば小石につまずき盛大に転んでは自転車に轢かれ、路地裏を歩こうものなら怖いお兄さん達に幾度となく絡まれてきた。
そのせいもあってか無事、年齢=彼女いない歴の立派なDTである。
……まあ別に悔しくなんかないけどね!
まあ、25にもなって女の気配がない息子に文句を言うような両親も、中一の時に失ってしまったので急かされるようなことはないけど。
「良太もリア充に仲間入りしたんだし、俺もそろそろ彼女作らないとな〜」
今思えば踏んだり蹴ったりな人生だった。
日頃から騙されたことなんて数知れず、家では叔父叔母に暴力を振るわれ、学校では隠キャ呼ばわり、良太とクラスが違ったときはぼっちで孤独な日々を過ごしていた。
『………はぁ』
「ん?」
何か聞こえたような・・・まぁ、気のせいか。
気づけば家まであとちょっと、幾度となく鳥に糞をかけられた橋まで辿り着いていた。
ふぅ、こういうことばかり考えていると悲しくなってくる。
こういうネガティブな思考も不運の原因なのだろう。
もう早く帰って、ヤケ酒して寝るか………
物思いに耽っていたその時だった。
「おい!?何してる!!!」
前にいた少年が橋の手すりに立ち、肩を震わせながら眼下を見下ろしていた。
「まてまてまて、早まるな!!」
少年は俺の声が聞こえなかったかのように反応せず、その体を前に傾けた。
「っっっ間に合えっ!!!」
俺は全速力で駆け出し、少年の腕を掴む。
「くそっっ!」
手すりに股を掛け、渾身の力で内側に少年を引っ張った。
少年は驚いた様な目をしながらも、引き戻される。
ふぅ、危なかった……
『ごめんね………』
そんな声が聞こえたかと思うと、バランスを保っていた俺の身体は空中へと傾く。
「……あ」
何故だろう、少年がどんどん小さくなっていく。
ああ、落ちているのか。
少年が何かを叫んでいる。そこに人が集まっているのも見えた。
あの様子から察するに、彼は自殺を試みようとしたのだろう。
じゃあ俺は余計なことをしたのだろうか?
いや、相当運の悪い俺だ。ここで死なずとも、いずれ何らかの形で死ぬだろうとは思っていた。
最後にこんな形でも人の命を救えたのなら良かったか。
まあ俺も何度か自殺をしようと思ってしまったことがあった。
彼もそうなのだろう。
良太、俺、死ぬかもしれない。幸せな時期にごめんな。
俺の分まで幸せになれよ………
そう思うのを最後に俺の意識は途切れた。
こうして俺、一条幸輔の災難続きの人生は幕を閉じた。
初投稿で拙い文章のところも多いですが、読んでもらえると嬉しいです!