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2-49 エメロード 石像の刑と皇妃

本日もよろしくお願いします。


 妾の名前はエメロード・アアウィオル。

 敵国の城に乗り込んだノリノリの女王だ!


 妾は、タンポポ神拳によって木っ端みじんになった大扉の前に進み出た。

 そこからの光景を見て、何とも言えない笑いが込み上げてくる。分類するなら自嘲や苦笑いだろうか。


 そこら中に近衛兵が倒れており、それを制圧したのはヴァルキリー部隊の女たち。


 城務めの貴族もこの場に集められており、怯えは当然のこと、中には状況を分かっておらず怒りに顔を染めた者もいる。


 そして、一番目立つ玉座には皇帝。

 その近くに立っているのは皇后やたくさんの側室とその子供たち。後宮にいた彼女たちもまたここに連れてこられたのだ。


 これがあの日キャサグメたちが見た光景か。

 ただな、帝国貴族たちよ。妾はキャサグメたちほど甘くはないぞ。


「き、貴様ら! ち、朕を偉大なるゾルバ帝国皇帝と知っての狼藉か!」


 玉座の間へと足を踏み入れた妾に、皇帝がツバを飛ばして叫ぶ。


「わ、我らにこのようなことをしてタダでは済まぬぞ!」


「ええーい、兵士共は何をやっている! であえであえ!」


 それに便乗して貴族たちも喚き散らかす。こいつらは大臣だろうか? 重職に就けるのはやはり男性貴族だけの様子だ。


 それにしてもこの状況で啖呵を切れるのは凄い胆力だ。

 あの時のゲロスもそうだったが、自分が死ぬ可能性があるとは露程も疑っていないのだろう。


「やれ」


 妾は騒音を無視して、ヴァルキリー部隊に命じた。

 その瞬間、玉座の間を制圧していたヴァルキリー部隊が一瞬にして貴族たちを跪かせた。


「「「ひぃい!」」」


 まさか問答無用で武力行使がされるとは思っていなかったのか、この時になってようやく喚いていた貴族たちが恐怖した。

 妾が歩を進める先で皇帝も玉座から引きずり降ろされ、一段下がった床に転がされた。


 入れ違いで玉座までたどり着いた妾は、玉座に座ってふんぞり返ろうと思っていた。

 しかし、これは、うーん……座れたものじゃないな。濡れているのだ。


 妾は玉座を蹴倒すと、その場に魔法で石の玉座を作り出した。

 キャサグメたちのように物を出し入れする魔法が使えれば格好もつくのだが、まあ仕方ない。


 石の玉座に座り、改めて妾は足を組んでふんぞり返った。


「さて、お前らとは初めて顔を合わせるな。妾はアアウィオル王国15代目女王・エメロード・アアウィオルだ」


「え、エメ……! どうして貴様が!? 朕の聖軍は! 朕の竜騎士部隊はどうした!? 貴様の国を蹂躙しているのではないのか!?」


 皇帝がやたら高い声で喚いた。


「そんなものはとっくに殲滅している」


 そう告げた瞬間、皇帝たちの表情が驚愕に変わり、すぐに邪悪な笑みを見せた。

 妾の首に剣が突きつけられたのだ。


「蛮族共め、その場を動くな!」


 それをやった皇子の一人が勝ち誇ったように叫ぶ。

 こいつは側室たちが並ぶ場所にいたからな、チャンスとでも思ったのだろう。


「おー、でかしたぞ、ヘドウィン!」


「ふはははっ! 女狐エメロードの命が惜しくば武器を捨てろ!」


 形勢逆転とばかりに活気づく皇帝と貴族たち。

 中には立ち上がる者もいるが、次の瞬間、ヴァルキリー部隊が膝の裏を蹴りつけて、また跪かせた。


「き、貴様ら、動くなと言っているだろうが! 女王の首を落とすぞ!」


 皇子はそう言うが、ヴァルキリー部隊は関係なく貴族たちを押さえつける。

 妾も皇子を無視して続けた。


「さて、これから貴様らには罰を与える」


「貴様ぁあああ、この私を無視するな!」


 まったく意に介さない妾に激昂した皇子が、剣に力を入れた。

 しかし、妾の態度や護衛のラインハルトが動かないことからわかる通り、無駄である。


 学園流の局地的マジックバリア。

 女王という立場上、妾は習得した魔法の中でこれが最も得意だった。この場で妾のマジックバリアを単独で突破できるのはラインハルトくらいなものだろう。


 この皇子ごときでは妾に傷一つつけられないし、もっと言えば、もはや剣すら動かせまい。そういうふうにマジックバリアで固定しているからな。


 皇子はラインハルトに顔面を掴まれてポイッと皇帝の隣へ放られると、すぐにヴァルキリー部隊によって他と同じように跪かされた。


「話の腰を折るな。本当に疲れる連中だ」


 キャサグメがゲロスを早々に石に変えた理由が痛いほどわかる。ゴブリン返りは話を聞かず、己の立場を理解しようとしない。話が進まないのだ。


「これから素行の悪い帝国貴族と民たちを石に変える。お前らの罪を多くの者が許す時、石から解放してやろう。逆にその罪が決して許されないと判断された時、石に変わったお前らは砕かれて気づかぬうちに死んでいくだろう」


 かつてゲロスを石に変えた魔法ストーンドール。


 あの時はとんでもなく恐ろしい魔法に思えたが、学んでみればレジストが簡単な魔法だと知った。だが、レジストを知らない者にとっては確殺の魔法になる。


 妾はこれを罪が深いゾルバ帝国の貴族や国民の罰とした。


 これ以上ごちゃごちゃと喚かれても疲れるだけなので、妾は刑を執行した。妾に嗜虐趣味はないからな。


「ストーンドール」


 跪いたままの皇帝が、憤怒の表情をした石像へと変わった。


「ストーンドール」


 その隣で尻餅をついた皇子が、怯えた表情の石像へと変わった。


「「「ストーンドール」」」


 ヴァルキリー部隊の魔法使いたちが、貴族たちを石に変える。超凶悪な魔法を前にして逃げ出そうと腰を浮かした石像たちだ。


 そこに2人分の石像が追加される。

 アルテナ聖国でボコした皇太子と外国長官の石像だ。


 喚き散らしていた皇帝や大臣たちはすっかり静かになった。

 しかし、それで玉座の間全体が静かになったわけではない。


 皇妃と側室、年端のいかない子供たちが石像にならずに残っているからだ。


 ある者は腰を抜かして座り込み、またある者は子供を抱えて泣き、早々に気絶している者もいる。

 叫び声を上げているのは、どうやら皇太子や皇子の母親のようだ。


 妾は石の玉座から立ち上がると、そんな女たちの下へ歩み寄り、一人の女の前に腰を屈めた。


 正室クローゼアだ。

 クローゼアは10歳の皇女を守るように抱きしめて怯えた。


「自信のない者の目だ」


 妾がそう告げると、クローゼアは唇を震わせて俯いた。


 クローゼアは男性社会であるゾルバ帝国の皇妃でありながら、産んだ2人の子供は女児だった。すでに嫁いだ17歳と、いま抱きしめている10歳の娘だ。

 たくさんいる側室たちは皇位継承権を持つ男児を生み、クローゼアの居場所はどこにもなくなった。いいや、それどころか邪魔者とすら思われていたというのが、影衆からの報告だった。


 そんな女が、自分大好きな女から悪口を言われたわけで、惨めさは大変なものだろう。すまんな!


「この国の女の多くがそんな目をしている」


 続けてそう言うと、クローゼアは一度顔を上げるが、また俯いてしまった。


 その時、妾の頬に小さな衝撃が走った。


「は、母様を、ば、ば、馬鹿にするな!」


 妾を殴りつけたのは、クローゼアに守られた皇女ヴェルゼアの小さな拳。

 その啖呵は、生まれてこのかた大声を上げたことがないのがわかる小さなものだった。


 帝国貴族共の安全圏から見せるプライドではなく、自分の命をかけたプライドの示し方だ。


 そして、その瞬間、今まで震えていたクローゼアが妾の前に両手を広げて躍り出た。


 ああ、いいじゃあないか!


「いい目ができるではないか。ふふふっ、クローゼア殿、誇るといい。あなたの娘が此度の戦争で唯一アアウィオル人に傷をつけた。それは5万の兵でもできなかったことだ」


 覚悟を決めた瞳をする母親と、その背中にしがみついて声を押し殺して泣く娘。


 申し分ない。


「この者らに決めた。娘共々連れていけ」


 妾の指示でクローゼアとヴェルゼアはヴァルキリー部隊に確保され、玉座の間から連れ出された。


 そうして残された側室たちに告げる。


「これよりゾルバ帝国はアアウィオル王国の統治下に置かれる。全ての領地で今日起こった制圧と同じことが行なわれる手筈だ。解放軍など来ることはないから期待はするな。お前らは裁判にかけられるが、罪を犯していないのならば、そこそこの生活はさせてやる」


 よし、この場はヴァルキリー部隊に任せて、次だ!




 バルコニーから飛行魔法で飛び立ち、市街地へと向かう。

 上空から見た町はほとんど民の姿は見られず、たまに見かけても、帝都から逃げ出そうとでも考えているのか慌てた様子の民ばかりだ。


 ヴァルキリー部隊を従えた妾は、上空で拡声魔法を使って民に告知した。


『ゾルバ帝国の民よ、聞くがいい。お前らが仕掛けたアアウィオル王国への侵略戦争はゾルバ帝国の大敗で終わった。そして我々は今日、この帝都を制圧した』


 キャサグメに師事したおかげで、妾の拡声魔法は効果範囲が広い。広大な帝都中に響き渡っているはずだ。


『これよりこの地はアアウィオル王国の法律を基準にして統治される。治安を乱す者は処罰する。この国の男は特にその気が強い。女たちよ、大切な男がいるのならばしっかりとその男を制御しろ。治安を乱した後に許しを乞うても遅いぞ。では諸君らの賢明さに期待する』


 妾の演説が終わると、帝都の4か所で巨大なキューブが出現した。


 以前、キャサグメが闘技場でお披露目した魔導映写機だ。

 それに映し出されたのは、当然、此度の事件の全容を記録した動画である。


 いまは制圧して間もないので誰も視聴者はいない。

 しかし、これを昼夜問わずに延々と流し続ける。


 戦争におけるアアウィオルの尋常ならざる強さと、神に反逆してしまった自分たちの愚かさを民の心に叩きこむ。


 荒療治だが、階級制度と奴隷制度で成り立っているこの国を変えるには、このくらいしなければ100年はかかる。アアウィオルにとって全然いらない国なのに、長い年月などかけていられない。

 あと、治安維持部隊を各都市に送る余裕がないというのもある。この映像を見て、せいぜい大人しくしてもらいたいものだ。


 妾はアアウィオルの女王なのだから、自国の発展が最優先なのだよ。




「わ、妾たちはこれからどうなるのでしょうか?」


 帝都の外。

 魔法で作った簡易宿舎の中で、妾はクローゼアと対談した。


 クローゼアは先ほど見せた命の輝きはどこへ消えたのか、また自信のなさそうな怯えた目をしている。妾にパンチしたヴェルゼアも同じで、あの時の激情は見る影もない。


 ちなみに、クローゼアの一人称は『妾』である。妾と被るからやめてほしい。


「あなたと娘はこれから修行の日々だ」


「しゅ、修行……?」


「ああ。あなたにはゾルバ帝国の女王になってもらう」


「え」


 妾は紅茶で喉を湿らせて、会話に間を置いた。


「ゾルバ帝国は本当に面倒なことをしてくれた」


「も、申し訳ありませんでした」


「そちらは敗戦国となったが、賠償金を払わせたら貴族共は生活水準を維持するために重税で民を苦しめるだろう。中途半端に土地を切り取っても、国民性の違いで統治が面倒だ。放っておくのが一番だが、そうすれば帝国貴族共がつけあがる」


「……」


「あなたは奴隷になってしまうと思っているかもしれないが、はっきり言ってゾルバ帝国人を奴隷にしてもアアウィオルでは役に立たん。それどころか、奴隷が作り出す歪な主従関係はアアウィオル国民にゴブリン返りを増やすきっかけにすらなる」


「ゴブリン返り……?」


「ゾルバ帝国やアルテナ聖国で流行っている病だよ。まあそれもこれから学んでいくことだ。なんにせよ……はぁー、今回の戦争は本当にこちらにメリットがないものだったよ。まったく」


「も、申し訳ありませんでした……」


 しゅんと俯くクローゼア。たしか35歳くらいだったはず。

 皇妃のような立場の女は多少なりとも気が強いところがあるが、クローゼアはとても大人しい女で、それでいて男に都合が良さそうな女であった。


 皇妃からしてこの気質だし、ゾルバ帝国の女は完全に飼いならされてしまっている。学園島はこの女を変えられるだろうか?


「話を戻すが、今はアアウィオルの統治下となったが、ゾルバ帝国は最終的にあなたに統治してもらう」


「な、なぜ妾なのでしょうか……?」


「ゾルバ帝国における女の立場の弱さをあなたが一番知っているからだ」


「妾は……」


 ほら、またしゅんとした!


「俯くな」


 妾はクローゼアの顎に人差し指を添えて、顔を上げさせた。


「あ……」


 涙ぐんだ目で妾を見つめるクローゼア。


「あなたが生んだ子供たちは誰かから蔑まれるものではない」


「……っ!」


 妾の言葉を聞いて、クローゼアは震える唇を噛み、目にたくさん涙を溜めた。


「女王になったあなたが俯き続けるのなら、国民の女たちもまたそのような人生になるだろう。だが、あなたが顔を上げ、前を向いて生きようと頑張るのならば、きっと国民の女たちの瞳にも煌めく炎が宿るだろう。それはあなたの子供も同様だ」


「え、エメロード様……」


「クローゼア殿。後宮のお人形はもう終わりだ。命を燃やせ」


 妾はニッと笑って見せると、クローゼアの視線を背中に感じながら天幕を後にした。

 この女、押せば簡単に落とせそうだな、と思いながら。


 翌日。


「ひぁああああああ!」


「お母様ぁああああ!」


 籠に入って空を飛ぶクローゼアと皇女。

 その叫び声もなんだかちっちゃい声だ。


 そんな2人を連れ、妾はヴァルキリー部隊の一部と共にアアウィオルに帰国するのだった。


読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。

誤字報告も助かっています、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんか、みんなシアワセなハーレム世界が出来ちゃいそうw
[気になる点] 些細な点ですが… >「あなたが生んだ子供たちは誰かから卑下されるものではない」 「卑下する」は自分を下げてへりくだるときの表現で、他者を見下すといった場合では使わないというのが、一般的…
[気になる点] そう言えば、ゴブリンの息子の首は結局使い道無し?
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