2-48 エメロード ボッコボコ
本日もよろしくお願いします。
妾の名前はエメロード・アアウィオル。
お疲れ系の女王だ!
法の神が神世の世界へとお戻りになる光を見送ったことで神威裁判は終わった。
舞台の上にはいつの間に現れたのか、無数の巻物が転がっている。
法の神が仰っていた罪人の名簿と罪科の目録だろう。
「ラインハルト、巻物を確保せよ」
妾が命ずると、騎士たちがすぐに舞台を制圧して、巻物を確保した。
神から賜ったとなれば神書だ。
罪人の名簿ということだが、普通の紙と考えてはならない。
確保を邪魔する神殿騎士はもういない。全員が完全に妾たちに畏怖してしまっている。
「ラインハルト、キャサグメ、ついて参れ」
妾は2人に言って、裁判員席の背後にある大神殿に続く階段を上り始めた。
それに付き従うのは、声をかけた2人と数人の騎士。
「この辺りでよろしいのではないでしょうか」
キャサグメが言うので、妾は振り返って眼下を見下ろした。
階段の途中なので神都の全景とは言えないまでも、そこからは多くの聖国民の姿が一望できた。
しかし、見えたのも束の間。
妖精たちがワッと集まってきて、めっちゃ撮影してくる。
他の者からは見えないとはいえ、妾には見えているので凄く邪魔である。必要なことではあるのだけれど。
『我が名はエメロード・アアウィオル! アルテナ聖国の民よ! 心して聞くがいい!』
妾の声が神都中に降り注ぐ。
『アルテナ聖国は数百年の腐敗の沼から抜け出さなければならない。統治していた教皇は神にツバを吐いて死んだ。枢機卿や高位神官たちはこれから罪を償う人生だ。しかし、それでは残された民は困ろうというもの。よって、新たな指導者はこちらが調査し信頼のおける者に一任する。この人選に文句は言わせぬぞ。お前らが選んだ結果が現在の腐敗したアルテナ聖国であり、傲慢な思想に染まった民を作り出したのだから』
妾はそこで一呼吸置いて、妾の演説を聞くアルテナ聖国民を見回した。
……いや、妖精たちのせいで実際にはあまり見えないんだがな。
妖精たちが手をブンブン振って興奮しているのがすっごく気になる。多くの世界に生中継されている大切な演説なのに。もうちょっとクールなカメラマンはいなかったのか。
妾は腹筋に力を入れて続けた。
『お前らは神の代行者などではない。神に祈ればいかなる罪も許される特別な民などということもない』
『お前らは神から選ばれてなどいない。神の愛はお前らだけのものではなく、万人がこの世に生を受けた際に賜るものだからだ』
『お前らは神に見放されてもいない。お前らのこれまでの行ないもこれからの行ないも神々はご覧になっていると知れ』
『神は祈るばかりの者を愛さない。敬虔なる信者を名乗りたくば、大志を抱き努力せよ。哲学を宿し優しくあれ。邪念を持つのは人の性なれど、それに打ち勝つための強き心を育み、己と戦うのだ』
ふぅ。
よし、このくらいでいいだろう。
ボッキボキに心を折ってやったぞ。
それを確認し、妾は宣言した。
『これを以て、アルテナ聖国の敗戦を申し渡す』
歓声はない。
敵国だもの。
代わりに妖精たちが、テンションを上げていた。
ところ変わってブロジード侯爵領、王家の別荘。
その執務室で、妾とラインハルトはキャサグメたちと対談していた。
「これでひとまず、神の命をひとつ完遂したな」
「はい、これも陛下のご協力あってのことにございます」
椅子に座ったまま、キャサグメが頭を下げる。
「いや、お前らがいなかったらこちらもどうなっていたかわからん」
リゾート村にいる古の英雄たちは、神の命を受けて現世に蘇った。
その命令は、実のところとても多い。
キャサグメ曰く、全てを達成する必要はないようだが、絶対に成し遂げなければならない命令もあった。
そして、絶対に成し遂げなければならないことの一つが、アルテナ聖国の腐敗を終わらせること。
神様も割とアルテナ聖国の指導者層にはお怒りだったようで、なんとキャサグメたちは殺人許可すら貰っていた。
直接的なことをしなかったのは、暗殺しても良くはならないと考えたからのようだ。
ちなみに、以前、彼らの正体が告げられた秘密の会談で、キャサグメは、『決して神聖教会に正体を悟られたくはない』と言っていたのは、これから潰す相手にすり寄られたくなかったからである。【1-17参照】
さて、ここで注目したいのは、今回の戦争の理由についてだ。
元々は妾の政策やリゾート村の裏からの働きによって奴隷の入手が困難になったため、ゾルバ帝国とアルテナ聖国が結託してアアウィオルを襲ったのが始まりだ。
ここにリゾート村に続く転移門の存在が加わったことで、アルテナ聖国が表に出てきたわけである。
キャサグメたちとしては、アアウィオルが狙われているこの状況は大変に美味しかったのがわかる。つまり、迎賓館を襲ったあの日から、この筋書きはできていたのだろう。
「アルテナ聖国は良くも悪くも信者の国だ。多少のテコ入れをすれば、今回の件で変わっていくだろう。それよりもゾルバ帝国だ。例の物はできているのか?」
「ここに」
キャサグメはそう言うと、小型の魔導映写機を起動した。
それは神威裁判の全容を撮影した映画だった。
「妾の姿が映画になるとはな。んふっ」
キリリとしていて超カッコイイ。
リゾート村で『デッドリーモコニャンVSレッドドラゴン』を見て驚いたものだが、そんな妾もついに映画化か。
妾が上機嫌と見たか、早送りでラストシーンに飛ばされた。
そこではアルテナ聖国民に説教している妾の姿が映されていた。
「おー!」
めちゃくちゃ邪魔だと思っていたが、妖精たちもやるではないか。
「さすがは陛下。発声も身振りも完璧にございます」
キャサグメが褒めてきた。
妾は学園島で様々なことを学んでいるが、キャサグメにも師事していた。
演劇の英雄など必要なのかと疑問に思っていた頃もあったが、彼から学べることは意外にも多かった。発声はもちろん、人心を引き付ける身振り、相手の感情を読み取る観察眼、等々。
まあキャサグメは何かと忙しいので、大抵は女性の先生に教えてもらっているのだが。
そんな訓練の成果か、映像の中の妾は最高に神々しかった。
以前の妾の演説を客観的に見る術がないので比べようがないが、きっとカリスマ性が10倍ぐらいになっているはずだ。
ハッ、みんなが生暖かい目で見てきている!
なんだよ、その目は。妾が自分大好きなの、お前らは知っているだろうが!
「こちらも」
キャサグメがもう一つの映像を見せてきた。
こちらはちょっと喜べるような映像ではない。
戦争を記録した映像なのだ。
妾はテンションを下げつつ、頷いた。
「ラインハルト、ヴァルキリー騎士隊の準備はできているな?」
「ああ。女ばかり2000名」
「うむ、それではゾルバ帝国を終わらせるとしようか」
現在、妾は空を飛んでいるぞ!
向かう先はゾルバ帝国の首都・帝都だ。
本当ならキャサグメたちの転移魔法でパパッと行ければ一番なのだが、奴らは基本的にアアウィオル国内でしか力を貸してくれない。転移魔法も戦術的にアホみたいに高い効果を発揮するので使ってくれない。
なので、今回の作戦は妾たちの力で行なわなければならないのだ。
妾も女王として飛行魔法を習得しているので、馬よりもずっと速いぞ!
そんな妾が従えているのは、2000人の女性騎士たち。
今回の任務のために特別編成されたヴァルキリー騎士隊である。
全員が鍛え抜かれた体をしており、リゾート村で磨いた美も持ち合わせている。
この任務が終わったら、記念にみんなでお風呂に入りたいものだな! 2000人ならば肉池肉林だ。
「エメロード、見えてきたぞ!」
ラインハルトが言う通り、地平線上に巨大な都市が見えてきた。
ちなみに、この中でラインハルトと執事長だけが男である。
「では、ラインハルト、いったん休憩にしよう」
飛行魔法にも魔力を使うので、その回復のために小休止。
2時間ほどの休憩を終えて、魔力を回復した妾たちは残りの行軍をあっという間に終えた。
そして、いま目の前の帝都外壁では蜂の巣を突いたような大騒ぎになっていた。
アアウィオル王国の旗を掲げた集団が空から現れたのだから当たり前だ。
「整わせれば死者が出よう。全軍、突撃! 道を拓け!」
妾が王錫を帝都に向けて命令を発すると、妾を警護する50名以外の女性騎士たちが外門に向かって凄まじい速度で突撃した。
1人の女性騎士が閉じた門に向けてパンチを食らわした。
その一発で巨大な門が爆散する。
「あれはタンポポ神拳か。こわぁ……」
「あれは白騎士のミーシャだな」
「あまり殺させないように気をつけろよ」
「最近ちょっと嫌なことがあって男性不信になっているが、たぶん大丈夫だろう」
「人選大丈夫!?」
そんなことを話していると、妾の頭上でキャッキャする声が聞こえた。
カメラマン妖精だ。タンポポ神拳を見て血が滾っている様子。こわぁ……。
「では、エメロード。行こうか」
「ああ」
妾は木っ端みじんになった外門に向けて歩き出した。
「敵襲ぅうう! 敵襲ぅううう!」
「ここを通すなぁーっ!」
「相手はたかが女だ! 怯むな!」
と、そんな怒声が聞こえるが、それ以上に悲鳴が多い。
そこら中で兵士たちがぶっ飛ばされ、増援したそばからまたぶっ飛ばされる。
増援のスピードは間に合っておらず、妾がいる本隊は悠々と帝都へと足を踏み入れた。
「これが帝都の町並みか。なるほど、うわさに聞く通り文化的だな」
ゾルバ帝国は魔物がとても少ないため、農業が盛んだ。
食料の豊富さと魔物に建物が壊される心配がないことが影響してか、建造物に文化的な一面がある。
しかし、そんな街並みもいまではそこら中に兵士が突き刺さって景観を悪くしていた。
「うぇええええん、お母さーん!」
ふいにそんな声が聞こえてきた。
騒乱で負傷したのだろう、道端で倒れている母親とそれに縋って泣く幼女の姿があった。服装からして下級の民だと思う。何等民かはわからない。
妾はそれに近づくと、母親に回復の魔法をかけた。
母親はすぐに目を覚ますと、妾の顔を見上げて驚愕し、幼女を身に抱えて平伏した。
「お、お許しを……! お許しを……っ!」
そう言う母親の顔に手を添えて頭を上げさせると、妾は母親の瞳を見つめた。
20やそこらか、まだ若い女だ。
「あ、あ……め、女神……さま……?」
ん気持ちいいぃ!
いや、違う。
慈悲慈悲。
「こちらこそ騒がせてすまないな。すぐに終わるから我慢せよ」
妾はそう言うと母娘を残して、再び歩き出した。
妾の行く道にはすでに敵はいない。
編成が済まされた部隊だとさすがに無力化だけでは済ますのが難しくなる。死者を出すのは不本意なのだ。だから、ヴァルキリー騎士隊はガンガン攻めて、陣形が構築される前にボッコボコにし続けている。
というか、予め潜入させている影衆の工作により指揮系統はすでにまともに働いていないはずだ。
ところどころにヴァルキリー騎士隊が立っており、進む妾たちの背後を守っていた。
ぶっ飛ばされた兵士が壁から生えている建物が続く大通りを進むと、貴族街の壁が見えてきた。
すでに大門は木っ端みじんになっており、タンポポ神拳の猛威が窺えた。
防備が何段階も高くなる貴族街なのに閑散としていた。やっぱりと言うべきか、貴族の屋敷の豪奢な柵や生け垣に兵士たちが突き刺さっている。
兵士たちの悲鳴は遠くからしか聞こえない。制圧は順調な様子だ。
貴族街は緩やかな坂になっており、その頂上には帝城がある。
しばらく進むと、バキーンとけたたましい音が鳴った。
「どうやら帝城の結界が破壊されたようだな」
迎賓館でも聞いた結界が破壊される音だ。
帝城を守っている結界のはずなので、我が軍の進行の早さは凄まじいものだ。
いよいよ妾たちは帝城に乗り込んだ。
もちろん城門は木っ端みじんにされており、タンポポ神拳の狂気を感じさせる。
さっそく見えてきた前庭には帝国の兵士と騎士が入り混じって倒れていた。
「陛下、目標は予定通り玉座の間にいるようです」
前庭を進んでいると、執事長が言った。
潜り込ませた影衆と何かしら連絡を取り合っているのだろう。
帝城の中には兵士がいなかった。
ただし、そこら中に戦闘があった形跡があり、ヴァルキリー騎士隊が各扉の前に立っていた。きっと扉の中にはボコボコにされた兵士たちが詰め込まれているのだろう。
「あれほど理不尽だと思った手法を妾が使うことになるとはな」
「……」
迎賓館襲撃事件を思い出して呟くと、ラインハルトが苦い顔をした。
「まあそう嫌そうな顔をするなよ。自分でやってみてわかるが、これが一番手っ取り早く、双方の被害が少ない」
そんなことを話している内に、玉座の間が見えてきた。
なぜ玉座の間だとわかるかって? 豪奢だった大扉の残骸が転がっているからだ。
「制圧は?」
「すでに済んでおります」
「見ての通りか。では行こう」
妾は爆散して風通りのよくなった玉座の間の前に立つのだった。
読んでくださりありがとうございます。




