2-47 レイン 神威裁判
本日もよろしくお願いします。
私はレイン・オルタス。
現在、女王陛下の護衛を務める白騎士です!
とまあ、そんな自己紹介をしましたが、護衛とかできてません。完全に観客ですよ!
ゲロスと教皇がゴブリンに変わりながら壮絶な死に方をしたことで、この場にいる全員がガックガクです。
ゲロスざまぁ! とは意外にも思いませんでした。
学園島で教わったゴブリン返りがマジモンだと証明されてしまい、ああはなりたくないと魂が悲鳴を上げた感じです。創造神様の加護を失いたくないと本能が思っているのかもしれませんね。
ゲロスたちがそんなふうになっちゃいましたが、それで神威裁判が終わったわけではなく。
『アルテナ聖国の5つの商家を立案、実行等、重大な戦争犯罪に加担したものとして、先に述べた高位神官と同等の裁きを下す。これ以外に35の商家は戦争幇助に加担したものとし、罪一等を減じた処罰を与える。ただし、従業員全てに罪があると勘違いしてはならない。関係している罪人の名簿及び個別の罪科の目録は追って公示する。また、この者らの現世における裁きはアアウィオル王国の法律に委ねるものとせよ』
法の神がヤバいです!
晒されるのは今回の戦争に関わることだけに限るようですが、もう罪を暴くマッシーンです!
「かかかか神よ! お、お言葉ですが、人と人が争うことは大昔から起こっていることにございます! そこには先祖から続く禍根があり、恨みを晴らす大義もありましょう!? やり方はたしかに間違っておりましたが、人というのは策を弄する生き物! どうかそれを加味して、ご慈悲をいただきたくーっ!」
キラキラした服を着たオッサンが異議を申し立てます。
すげぇ度胸です!
オッサンの言い分はたしかに情状酌量の余地がありそうに思いますが、現在進行形で心を読まれているのに、大丈夫なんでしょうか?
『悲しいかな、人が恨みを晴らしたく思う生き物だというお前の発言は一理ある。しかし、お前やこのアルテナ聖国の民にアアウィオル王国へ対する恨みなどないではないか。特にお前はアアウィオル王国が神敵ということが、アルテナ聖国とゾルバ帝国の画策した嘘であると知っている中心人物だ。そんなお前に大義があるのか。さらに、お前は先ほどゴブリンに戻ったゲロスと共謀してアアウィオル王国で奴隷狩りをしていたな? ならば、むしろ恨みを持たれるのはお前の方ではないのか?』
「ち、ちがっ! それは命令に背けず!」
神は全部お見通しなのですぅ!
と、そんなふうにアルテナ聖国の人たちが続々と裁かれている最中のことです。
「み、ミーシャ。ちょっと聞いてほしい」
私の隣で男の先輩がさらに隣にいる白騎士仲間のミーシャさんに小声で話しかけたのです。ミーシャさんはスレンダーでちょっとボーイッシュなところがある真面目な子ですね。
「え、い、今ですか?」
「あ、ああ、今だ」
「……神の御前なので手短にお願いします」
「その、あれだ。あの、この前、お前のパンツが無くなった事件があったが、あれの犯人は、その、あれだ。実は俺なんだ。どうか許してほしい」
「「「っ!」」」
唐突なカミングアウト!
きっと法の神様が想像以上にヤバいお方だったので、ビビったのでしょう。
近くで聞いていた私たちは息を呑みました。
全員の心が、「嘘やろ」と一致した気がします。
ミーシャさんがカッと顔を赤くして拳を振り上げます!
レッツ・必然の暴力!
しかし、その拳が振り降ろされることはありませんでした。
騎士総長のラインハルト様がその手首を掴んだのです。
「ミーシャ、悔しい気持ちはわかるが、神の御前だ。慎め」
「そ、総長……っ! くっ、このド変態が……っ!」
ミーシャさんは、そう言ってゴミムシを見るような目で先輩を見下しました。
まるでリゾート村で売っている復讐ものの小説のラストシーンみたいなやり取りですが、相手はパンツ泥棒です。最低です。
ミーシャさんは先輩の隣に座っているのも嫌なのか、ラインハルト様と一緒に離れたところで傍聴を続ける様子です。
あの、私もそっちに行っていいですかね?
なんかこの人、ミーシャさんに罵られて、はあはあ言っているんですけど! 助けてぇ、ロビンくーん!
そんなことをしている間にも神威裁判は続き、人々がガンガン裁かれていきます。
高位神官、下っ端神官、大物商家、諜報員、英雄教会の名士、そして。
『次にアルテナ聖国民の審判を行なう』
それを聞いた瞬間、聖国の人たちは驚愕の表情になりました。
自分たちは扇動されていたわけですし、罪はないと思ったのかもしれません。
実際に、諜報員が裁かれた際に、石を投げる扇動をしていた犯人が晒されていました。サクラみたいなことをしていた人たちがいたわけですね。
『扇動されていたとはいえ、お前らがこの数か月に行なった所業は目に余る。アアウィオル王国に関わる者ならたとえ親しい者であっても襲おうとし、その財産を奪ってきた。お前らの罪の一部は上層部の者が負う罪となるが、だからと言ってお咎めがないわけではない』
法の神が仰っていることは、アアウィオルが神敵にされてからの数カ月間で実際に起こったことだとキャサグメ様に教えてもらっています。
アルテナ聖国中の町や村でアアウィオル国民を探し、リンチしようとする事件が起こっているのです。
そう、あくまで『リンチしようとする事件』です。
なんでも、キャサグメ様のお仲間やアアウィオルの暗部が暗躍してこれらを未然に防いだようですね。ただ、避難した彼らが残した家や財産は一切が破壊あるいは奪われてしまったという話です。
凄く恐ろしい話ですが、もっと恐ろしいのはキャサグメ様たちの実行能力です。アルテナ聖国はそこまで広い国ではありませんが、それでも明らかに手数が足りないと思います。もしかしてリゾート村以外にも兵力があるのでしょうか?
そんなことを考えていると、聖国民に対する法の神の裁きが終わりました。
やはり情状酌量はあるようで、他と比べれば大した罪ではなさそうです。逆に扇動を命令した人により多くの罪が加算される審判みたいです。
しかし、罪は罪。
今まで神に愛されていると勝手に思っていた人たちは絶望していました。
まあ、ここに来ている聖国民はアアウィオルが破滅する姿を期待している人たちなわけで、過激派が非常に多いみたいですし、いい気味です。
暴力を嫌うような人だったら、教皇やゲロスみたいなヤツがブヒブヒ言う裁判には来ませんよ。
「おぉ、か、神よ! わ、私たちは神の戦いに参加していると思っていたのです!」
1人の男が言います。
何も言わなければこれ以上ダメージを負わないものを、アホですね。
『ネトゥリーよ。此度の事件に乗じて女を奪うために心優しきイーガーを告発したが、それはいったいどのように神と関わるのだ? イーガーを告発した報酬で仲間たちと飲んだ酒は美味かったか?』
ドクズやん!?
「う、うわぁああ、うわぁあああ! お、俺は悪くねえ! イーガーは神の意思に背いていたんだ! お、お、俺は騙されて……わ、悪くねえんだ! う、うわぁあああああ!」
恐怖のあまりそんなことを叫んで、男の人が傍聴席である階段から立ち上がり、どこかへ逃げようとしました。しかし、ここにはキャサグメ様たちが結界を張っています。
その結界にしたたかに頭を打って跳ね返り、気絶してしまいました。
「ご慈悲を……っ。ご慈悲を……っ」
「私は騙されて……どうかご慈悲を……っ!」
裁きに該当しそうな人がそこら中で懺悔する会場は、もう死屍累々の有様です。
聖国民の罪は他と比べて軽いかもしれませんが、中には重い人もいそうですね。
懺悔会場に法の神の言葉が響きます。
『次にゾルバ帝国』
スーパードライです!
この状況を見て、私はなんとなくキャサグメ様が神威裁判を行ないたくないと言った理由がわかった気がしました。
神威裁判は一度始まってしまえば、自業自得とはいえ、絶望する人が続出してしまうのです。それに対して反論しようものなら、心の中や過去の所業すらも引き合いに出されて白日の下で論破されてしまいます。
戦争という大勢が関わることとなれば、そんな人がそこら中で生まれるのは必定ですし。
なによりも、神は万能すぎます。
キャサグメ様は言っていました。
『いちいち神に審判をお願いするのは子供と同じ』だと。
神の万能性を見た後では、その言葉はとても重いもののように感じました。
神の手を借りて裁きを行なえば、法の発展、思想の発展、果ては文化の発展はないようにも思えます。
その世界は平和ではあるかもしれませんけど、それも父母に頼った平和だと考えると情けなくも思えます。
キャサグメ様たちの性格を考えると、私はこれが最後の神威裁判になるような気がしました。
さて、ゾルバ帝国を名指した法の神でしたが、審判が下る前に外交長官のオッサンが待ったをかけました。
「し、審判を始める前に、申し上げたいことがございます! 此度の戦争は国家間の問題にございます。確かに卑怯な手を使いましたが、それも過去の禍根と同胞への被害を抑えようとした結果、必勝を考えてのことにございます」
つまりは、神は口を出すなと。
あるいは喧嘩両成敗を狙っているのでしょうか?
『お前の心は過去の禍根や同胞への被害など微塵も感じていなかったようだが』
なんにせよ、邪悪な考えで戦争を起こしていたのなら無謀です。さっきの商人のオッサンと同じ展開ですね。
外交長官は汗をダラダラと流して言いました。
「私は貴族故に、家と国家の繁栄を考えております!」
めげないですね!?
あとがないからですかね?
私の中で、もうゾルバ帝国への憤りとかなくなっちゃってます。
このあとどうなるのかドキドキしながら見守る観客そのものです。
『お前の言葉としての主張はわかった。しかし、お前はひとつ大きな勘違いをしている』
「へ、そ、それはどういう……?」
『此度の侵略戦争はアアウィオル王国の勝利ですでに決着がついている』
「は……そ……え?」
キョトンとする外交長官。
あー、なるほど。外交長官の中では侵略戦争が成功しており、今も罪がガンガン加算されていると思っていたんですね。
プークスクスです!
……と、いけません。侵略者であろうとも人が死んでいますからね。憐れみましょう。
『現在はそこにいるエメロードの慈悲で逆侵攻に待ったがかけられているが、実行するかはともかく、命令が下されたとしたら全ての都市が陥落するだろう。つまり、我が審判を下そうが下すまいが、お前たちは捕縛される』
外交長官と皇太子、それに枢機卿や商人たちが、魚のように口をパクパクして女王陛下に視線を向けます。うわっ、漏らしている人もいますね……。
「す、すでに戦争で勝っているのならば、神まで降臨させる必要などなかったではないか!」
枢機卿の1人が泣きながら叫びました。
すっごい自分勝手な言い分ですし、会話の前後関係もちょっと怪しい感じです。きっともう碌に思考していないのでしょう。
これに対して、今まで黙っていた陛下が大きなため息を吐きます。
「先ほどの偽りの神威裁判とて裁判は裁判だった。あの時点でお前らが正々堂々と裁判を行ない、妾たちに神敵という冤罪を着せたと白状したのなら、妾たちは本物の神威裁判は行なわなかっただろう」
「……っ!」
「神々の名を利用することで絶大な権力を持っているお前らの所為で、世界中が我らの敵に回っている現状、いったい我らにどのような選択肢があった? お前らのような悪党の戯言に付き合って、世界大戦でも始めた方が良かったか? 各国から暗殺国家と恐怖されるくらいに血の雨を降らせた方が良かったか? 妾たちはな、平和を望んでいる民を巻き込んだ大戦争などしたくないし、周辺国からの評価を大切にしたいと思っているのだよ。創造神様の加護を失ったお前にはわからんと思うがな」
陛下はそこまで言うと、アルテナ聖国の首脳陣を冷たい目で見回しました。
「恐れ多くも神々の名を私欲のために利用し続け、世界中の民を欺き苦しめてきた罪を償え」
陛下の言葉を聞いて、枢機卿は泡を吹いて倒れてしまいました。ビクンビクンしてますし、あれはヤバいかもしれませんね。
ところで、空にいたカメラマンの妖精さんたちが、今のセリフを言った陛下を色々な角度から撮影していました。あの魔導カメラから生放送されている各国にはどんなふうに見えていたのでしょうか。めっちゃカッコよく見えたのではないでしょうか?
話がひと段落したのを待っていてくださったのか、法の神が仰います。
『では審判を続ける』
やっぱりスーパードライですぅ!
『ゾルバ帝国皇室および貴族家14家をゾルバ帝国における最大の戦争犯罪人とする』
そうやって始まった審判は、ゾルバ帝国の終了のお知らせでした。ちなみに、貴族家14家は上層部ですね。戦争利権に噛んでいる他の貴族も大量にいるみたいです。
ただ、国家間の問題と言えばその通りなので、アルテナ聖国よりも少し軽めな審判な気がします。
まあそれでも、外交長官と皇太子が絶望する程度には上層部に与えられた審判は苛烈ではありますが。特に彼らの現世での処罰の決定権がアアウィオルの法律に委ねられた時点で詰みです。彼らもゴブリン返りっぽいですし、もう助からないでしょう。
ほかにもアルテナ聖国と同様に、役人や商人、英雄教会の名士や一般民にまで言及されています。
名簿を貰えるという話ですが、きっとあまりに多いのでそうなっているのでしょうね。
この審判に対して、陛下は浮かない顔です。
その気持ちはさすがの私でも理解できます。
仮にゾルバ帝国がアアウィオルに併合されたとして、土地とセットでついてくる男性優位主義に染まった男たちが非常に邪魔なのです。
それに、これから陛下は多くの国とかなり強い同盟を結ぶかと思いますが、侵略戦争をふっかけたゾルバ帝国の民が一番美味しい思いをするとなれば、納得いかない国もあるでしょう。
さらに、アルテナ聖国も終わったも同然ですし、その2国の面倒を見なければならないかもしれないと考えると、陛下が浮かない顔なのは仕方がありません。
『最後にアアウィオル王国の審判に入る』
「「「っっっ!」」」
完全勝利で忘れていました!
キャサグメ様いわく、神威裁判は平等な裁きを与えてくるのです。
ドキドキです!
私の名前が呼ばれたらどうしましょう!
私は正義の心を持って今日まで生きてきたつもりでしたが、陛下と眺めていた戦場で割と「ざまぁ」って思っていましたし、本当に正義の心があるのか疑わしくも思えるんです。
怖い……っ!
こ、こんな時はロビン君と過ごしたプールの日々を思い出すに限ります!
冷たい水でひんやりしていると思ったらふいに熱を感じるロビン君の肌っ! 水着姿のお姉さんと一緒にウォータースライダーに乗ることで、思春期の男の子の海パンの中がどのような変化を起こすのか、チラ見して観察した日々を思い出すのです!
んー……っ! んー……っ!
勇気がムクムクしてきました!
ソスウってやつを数えるよりも効く私が編み出した精神安定術を行なっていると、いよいよ法の神が審判を下しました。
『此度の侵略戦争において、戦犯となる者はこの場にはいない』
よ、良かったですぅ!
2万人くらい殺しちゃってますが、侵略されている側ですし、戦いを嫌う人たちは救っていますし、行軍中の相手国の兵士を助ける活動までしてますからね。諸々を加味して、セーフだったのかもしれません。
近くでラインハルト様も音が聞こえるくらいの安堵の溜息を吐いていました。
無理もありません。裁かれる可能性が一番高かったのは、命令系統の一番上である女王陛下ですしね。和平への外交努力が神様的に足りなかったとかもあり得ましたからね。
『しかし、この場にいない者で戦争犯罪を行なった者がいる』
そこから始まったのは、アアウィオル王国内にいる戦争犯罪人の暴露でした。
スパイとして動いていた貴族も数名いましたし、武具の横流しをしていた兵士もいたようです。
そして一番多かったのが、アアウィオルが敗北した後に奴隷売買の販路を開く密約をゾルバ帝国と交わしていた商人たちでした。わかりやすい売国奴です!
ほかの裁きと同じようにあとで名簿や罪の目録が貰えるようですが、この事実を聞いて、陛下はどう思っているのでしょうか。
「こっちは被害者だと思ったのに、結構裁かれる人がいるんですね」
「ああ、そうだな。まったく愚かなことだ」
私の呟きに答えたのは、さっきの変態パンツ泥棒でした。
お前に言ってねえですし、愚かなのはお前もですよ!?
すっかり審判が終わると、法の神は仰います。
『これにて審判を終わる』
舞台の上で陛下やキャサグメ様が平伏したので、私たちも慌てて平伏しました。
特になにかお言葉がかかることはなかったです。
陛下はあんなに頑張っているのだから、なにかお褒めの言葉をいただけてもいいのになって思います。
……いえ、違いますね。
神様も王様も変わらないんだと思います。
お褒めの言葉一つとっても、人の生活を変えてしまうほどに重たいはずです。
だから法の神は、基本的に審判しかせず、異議が申し立てられたら答えるだけなのでしょう。
あれ?
でも、そうすると、裁判に関係ないことを少しでも語り掛けられたキャサグメ様は?
目の前で祈りを捧げているティア様は?
天に還る光の中で佇む2人と、そんな2人を従える女王陛下。
お褒めの言葉は頂いていませんが、女王陛下はやっぱり神様に選ばれているんでしょうか?
そうだったら、そんな陛下から選ばれちゃった私は……っ!?
こ、こいつぁ、自伝を書く準備をしなければならないかもしれないですね!
なんにせよ、こうしてゾルバ帝国とアルテナ聖国との戦いは幕を閉じたのでした。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。
誤字報告も助かっています。ありがとうございます。




