2-44 レイン いつか見た光景(良い意味ではない)
本日もよろしくお願いします。
私の名前はレイン・オルタス。
天竜勲章を貰っちゃったスーパーな白騎士です。
私はリゾート村で最初に強くなった白騎士ということで、現在、結構な好待遇です。まあ、傾国クラスのスタンピードで大活躍しましたし? 当然と言えば当然です。
とはいえ、元々私よりも強い人たちが続々と修行を始めて強くなっちゃったわけで、私の立場もちょっと危ういです。凄い技を数多く覚えましたが、基本となる剣術で差がありますからね。ロビン君も言っていましたが、これからも精進の日々なのでしょう。
しかし、好待遇は好待遇。
実際にどのような待遇かと言えば、女王陛下の旅のお供に任命されちゃうくらいです。しかも女性騎士なので、陛下と行動を共にする機会が一番多い役目です。
白騎士がすでにエリートなので、これはもうハイパーエリートと言って間違いないでしょう。
さて、陛下と一緒に転移して、すでに偽装の旅をしていた騎士たちと合流。
私はお馬さんに乗っての護衛です。さすがに陛下と同じ馬車には乗れません。
その後、私たちはゲロスからのド汚い歓迎を受けました。
ヤバいですね、あいつ!?
私だけかもしれませんが、一周回って笑っちゃいそうになりましたよ!
あとで先輩の騎士にこっそりと聞きましたが、私と同じだったようです。背後からティア様の怒気が漏れなければ、噴き出した可能性もあります。陛下がバカにされている状況でそれは完全に不敬なので、降格待ったなしです。仲間割れを引き起こす恐ろしい男ですよ!
「あいつ、ヤバいな。イラつきや憐れみを通り越して笑っちゃいそうになったぞ」
ゲロスが立ち去ると、陛下自身もそう仰います。我々と同じ心境だったようです。
しかし、ヤバい歓迎は終わりませんでした。
「神をも畏れぬ神敵が!」
「世界の毒め!」
「きゃぁああああ! 神敵よ!」
「死ねぇい!」
「うぇええええん、ママァーっ! こあいよぉーっ!」
「み、見ちゃいけません! いきますよ!」
神都へと入った私たちに待っていたのは、市民からの罵詈雑言と投石のパレードだったのです! 市中引き回しの刑だってここまで酷いことにはなりませんよ!?
この光景を私はどこかで見たことがあります!
そう、キャサグメ様が舞台の上で的になっていた時のことです。つい最近のことですね!
しかし、投石は私たちに届きません。
学園で学んだマジックバリアの秘儀で、私たちに届く前に全部が防がれます。
学園での修行の終盤で行なったロックモンキーの群れとの戦いに比べれば、なんてことありません。あいつら、この何倍もの速度の投石に加えて、糞も投げてきますからね。恐怖を煽る笑いを上げながら。
かつてはキャサグメ様のメンタルに脱帽したものですが、いざ自分が同じ状況に立たされてみると案外平気なものです。
それはたぶん、やろうと思えば単騎でこの神都程度なら滅ぼせてしまえるという圧倒的な余裕からくる感情でしょう。
ただ、子供たちの怯える泣き声は心にクルものがありますけどね。こっちが泣いちゃいそうです。
願わくば、騎士の仲間たちも同じ感情であってほしいものです。力ある騎士たちがアルテナ聖国を敵視してしまえば、この国の子供たちに未来はないでしょうから。
さて、そんなパレードの道筋にある建物は、大通りということもあるのでしょうが、どれも白を基調とした綺麗なものです。
曇っているとはいえ窓ガラスも嵌っているところを見ると、さすがに羽振りがよさそうです。というか、羽振りが良くお布施を多く納めている店しか大通りに居を構えられないのかもしれませんね。
まあそんな通りではありますが、本日は全ての店が閉まっています。けれど、そんな状態なのに大変な賑わいです。当然、それは神敵に向かって投げつけられる罵声によるものなわけですが。
やがて、そんな大通りを抜けて行政地区に入りました。
この国は宗教と政治が一体になっているので、どの建物もなんらかの神様の像が並んでいます。
その中に、我らアアウィオルの大使館はあります。
……ビックリです!
たどり着いた大使館はボロッボロでした!
「ウチの大使館はどこもこんなにボロボロなんですか?」
「んなわけあるか、アホ」
先輩騎士に質問すると、そんな答えが返ってきました。
ですよねぇ。
立派な建物だった面影がありますもの。
しかし今では扉は破壊され、窓ガラスも割られ、屋根や壁にはそこら中に穴が開いています。建物のそばにはたくさんの石や潰れた果物が転がっているので、どんな様子だったのか想像に易いです。
情報操作された民衆はかくも恐ろしいものなのですね。
「もう滅ぼしてもいいのではないか?」
この有様を見て、一人の黒騎士がそう呟きます。
まあそういう意見も出ますよね。
でも、それはできません。
なにせ神敵ではない証明が現状でできていないのですから。
ここでアルテナ聖国を滅ぼしたら、真実はどうあれ他から見れば邪悪な国家の出来上がりです。
しかし、憤りを覚えている騎士がいるというのも忘れてはいけないでしょう。
「はっはっはっ、これはまた随分とやられたな」
陛下が明るい笑い声をあげて馬車から出てきました。
ここまでのことをされて笑っていられる陛下はさすがです!
「どうした。お前らも笑え。強者とは常に余裕を忘れてはならん」
陛下に言われて、私はロビン君のチクビをさわさわした日々を思い出して笑いました。やば、涎も出ちゃいました。
そんな私や陛下につられて、騎士たちも苦笑い気味に笑います。
陛下はすぐに笑ってみせた私を見て、うむと頷いてくれました。
「キャサグメ、管理を任せた者たちは無事なんだな?」
「はい。一人残らず国外に避難させています」
「ならば良し。建物などまた新たに作ればよい。今度は技術力を上げた大工たちの手によってな」
陛下……なんとお心が広いのでしょうか。
ほかの国の王様だったら、世界大戦待ったなしですよ。
「さて、建物はこの有様だ。敷地に結界を張り、天幕の準備をせよ」
今の私たちならば、土造りの簡単な家くらい作れます。
しかし、まだそういった力を見せる時ではありません。
私たちは天幕を建てている間にも、民衆がやってきて投石をします。
大使館の敷地を取り囲むようにたくさんの神殿騎士がいるのに、全員がまったく関知せず。
しかし、誰しもが1つ2つと投げると帰っていきます。
国のトップを守る結界の効果に諦めているのか、無抵抗な我々に罪悪感を覚えているのか、はたまた陛下や女性騎士たちの美貌に戸惑うのでしょうか。
これからこの国は大変なことになるでしょうから、せめて良心から投石を止めたと思いたいものですね。
天幕を建てると、ゼロ様がひとつひとつに訪問しました。
なにをしているのだろうと思って待っていると、私と先輩が泊まる天幕にもやってきます。
「少し狭いから空間を広げよう」
ゼロ様がそう言って指を鳴らすと、小さな箱型の魔道具が出てきました。
それを起動すると天幕の中が5、6倍に拡大しちゃいました!
「「すっご!」」
「こんな時だからあまり狭い場所で寝泊まりするのはよろしくないだろう?」
「それはそうかもしれません」
「この魔道具には触らないように。変に弄るといきなり部屋の大きさが元に戻ってしまう。君らならケガはしないだろうが、天幕を突き破って無様を晒してしまうかもしれない」
「わかりました」
「あとはこれも渡しておこう。明日一日はまったくやることがないだろうからな。暇つぶしにするといい」
神威裁判は明後日なので、明日はたしかにやることがありません。だって、外に出たら石の雨が降るお天気模様ですし。
ゼロ様が渡してくれたのは、マンガ本20冊。
こいつぁ忙しくなってきましたよ!
ゼロ様は仮面を被っていて不気味ですが、最高ですぅ!
きっと仮面の下はイケメンに違いありません!
「やった! 私、暇つぶしに持ってきた小説、全部読んじゃったのよね」
先輩は私と違って偽装の旅もしていた人なので、暇つぶしを持ってきていたみたいです。読み終わっちゃったとはいえ、なかなか抜かりありませんね。
ゼロ様たちは、ほかに風呂用の天幕やトイレ用の天幕も用意してくれました。至れり尽くせりです!
いっそのことリゾート村にぴょんと帰りたいものですが、それはさすがに贅沢が過ぎるでしょう。
天幕が揃った頃に、アルテナ聖国からの使者がやってきました。
お前それでも聖職者かよ、とツッコミたくなるでっぷりとした男です。この聖衣を着た豚を見て、アルテナ聖国の民は疑問に思わないのでしょうかね。
ここに来て神殿騎士がやっと働き始めて、投石が終わりました。使者に当たるからでしょう。
大使館の敷地は広いので、入り口付近で使者が叫びます。
「神をも畏れぬ大罪人どもよ! 聞くがよい!」
その瞬間、ティア様がいる天幕から怒気が沸き上がり、私たちはまた冷や汗を流しました。
ティア様が怒っている理由は、たぶん、ご自身が敬虔な神の僕だからでしょう。私だって、女王陛下の敵という冤罪をかけられたら激怒しますし、その心はとても理解できます。
理解はできますが、私たちよりも圧倒的に強い人なので、その怒気が恐ろしくてたまりません。
「貴様らに裁きを下す神威裁判は、明後日、昼の鐘が鳴ると同時に大神殿前にて行なわれる! 大罪人エメロード・アアウィオル、大罪人キャサグメ、この両名は昼の鐘が鳴ると同時に大神殿前に出廷せよ! 本来ならば控室を用意するところだが、神敵にそんなものは用意できないのでな!」
やっばい待遇ですね。
ここで完全に処刑する魂胆を隠そうともしません。
彼ら目線で考えるとすでにゾルバ帝国が戦争で大勝利を収めているのでしょうから、我々がアアウィオル最後の女王と騎士というわけです。なので、これだけ強気なのも頷ける話です。
まあ、実際は全然違う結果になっているんですけどね。
「また当日は護衛をつけること叶わず! 裁判傍聴を希望する者は武器非所持のうえで特別傍聴席にて傍聴せよ!」
武器の非所持とか、意味ないんですが。
アルテナ聖国は非常に強力な結界魔法を使うという話なので、おそらくそれを頼りにしているのでしょうけど、たぶん私のパンチのほうが強いです。
「滞在中に不埒を行なった場合、我々は貴様らを神の名の下に殲滅する! 心せよ!」
使者は言うだけ言うと、その場を去っていきました。
そんな小物が来ようが去ろうが関係なく、それよりもずっと大きな存在に私たちは震えが止まりませんでした。
「ティア様には逆らっちゃダメだな」
先輩が震えた声で言います。
リゾート村で修行した折には回復魔法で大変にお世話になったお姉さんですが、激しく同意ですね。
それからはなんとも奇妙な体験をしました。
高位の神官らしき人たちが入れ替わり立ち代わりにやってきて、ごちゃごちゃと口上を述べていくのです。
私たちがなにもしないので、調子に乗っているのでしょう。
なぜ神官たちがこんなことをしているのかといえば、民衆へのポーズですね。結局は不正で権力を得るのでしょうが、歓声を浴びること自体は好きなのだと思います。
まあ、当の私たちは天幕の中でマンガを読んでいましたけどね。
こんなふうに当日までまったりと過ごし、いよいよ神威裁判が始まるのでした。
読んでくださりありがとうございます。
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誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




