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2-37 フォルメリア王 日帰り誘拐 後編

本日もよろしくお願いします。


 エメロード殿は口上で『捕虜は取らん。皆殺しにする』と言った。

 それは脅しでもなんでもなく、本当にその通りになった。


 通常ならば、敵の総司令官や貴族などは連行されて、エメロード殿の前で命乞いをするチャンスを与えられるものだが、そういったことは一切なかった。

 総司令官ですら戦場のどこかで討たれてしまっている。


 一方で、なんらかの基準で助けられている者もいる。

 そういった者は必ずメイドに連れられて移動していた。予想になるが、おそらくゾルバ帝国軍に紛れた間者が進軍中にある程度の目星をつけていたのではないだろうか。


 そんな慈悲も見られるが、基本的には容赦がない。それは見物に招待された誰もが言葉を失うほどだ。


 創造神の僕たる我々は、神の敵と戦わなければならない。アルテナ聖国が聖戦と言うのなら、それに応じなければ国際的に危うい立場に立たされる。


 だが、これと戦うのか?

 無理に決まっている。


 沈黙の中でそんなふうに考えていると、首が1つだけエメロード殿の前に晒された。遠目で、しかも生首からでもデブだとわかる顔だ。


「ステリーナ殿、あれは?」


 余がそう尋ねると、ステリーナは遠くを少し切なげに見つめていた。

 その視線を追ってみると、若い女性騎士と屈強な騎士の姿が見える。遠すぎて顔はわからないが、家族か友人だろうか。


「ステリーナ殿?」


 もう一度問うと、ステリーナはハッとしたように顔をこちらに向けた。


「申し訳ありません。いかがなさいましたか?」


「いや気にせんでいい。あれが気になった。エメロード殿の前にある首は誰のものだ?」


「あれはゲロスの息子の首ですね」


「ゲロス?」


「失礼しました。神託の聖女のひ孫の首です」


「あー、神託の聖女の孫はゲロスといったか」


「はい。アルテナ聖国では祭り上げられていますが、アアウィオルでは指名手配犯みたいなものでしたから、ああして息子の首印が献上されたのだと思われます」


「自国の恥か。しかし、ああいうのは生かして連れてくるものだと思うが。情報を抜いたり、公開処刑をしたり、使いどころは割とあろう」


「公開処刑は民の心に影を宿します。あれに苦しめられた者は多いかもしれませんが、その心を癒すのは復讐ではなく、美しいものであった方が良いでしょう。アアウィオルは美しいものが増えましたから、あれの死に我々は価値を見出さないのです」


 アアウィオルは魔物とオラオラしあっている国だったと思ったんだが、なんだか凄く文化的。


「そうか。だが、あの首以外には興味がないと。これほどの戦場だ。騎士の手柄もそこら中に転がっていよう」


「この戦争で手柄を求める騎士はもはや我が国にいないでしょう。騎士の手柄は命を懸けて手に入れるからこそ価値があるゆえに。ゴブリンを狩って過度な手柄を求めたら他の騎士に呆れられますし、巡り巡って騎士団の縮小にも繋がります」


「ゾルバ帝国軍はゴブリンか……」


 そう、今回の戦争で最も恐ろしいのは、アアウィオル側の騎士に被害がないということであった。

 戦争が始まる前にステリーナは100人で十分だと軍部から聞いている様子だった。それは冗談ではなく、事実だったのだ。


「このあとにエメロード女王陛下と短い会談がございます」


 ステリーナがこれからの予定を語るが、ちょっと待ってほしい。


「会談は短いのか?」


 じっくりと話し合う状況だと思うのだが。


「はい。こちらが言うことでもありませんが、我々は皆様を攫っています」


 本当にそっちが言うことじゃないが、配慮はされている様子。


「長時間拘束するとあちらの方々が心配なさいますので、今回の会談では1点だけ認識を共有していただきたいと考えております」


「なるほど。アアウィオルに手を出すなということかね?」


「左様にございます」


 これを見せられて、手を出したいと思う者はいないだろう。

 実際に、ウチの武闘派の貴族たちも意見は一致している様子だ。


 ほどなくして、ステリーナの言うように我々に会談の席が設けられた。


 それは、この会談だけのために作られたであろうドーム型の建物で、無骨な建物ながら立派なテーブルや椅子が用意されていた。なにより、夏場だというのにとても涼しく、何らかの魔道技術が使われているのがわかる。


 席に着くと、すぐにメイドが接待を始めた。


「お飲み物はいかがなさいますか?」


「では、このアイスレモンティというものをいただこうか」


「かしこまりました」


 先ほどの高見台やこの席には飲み物のメニューが置かれていた。こういうのはホストが自信のある物を提供するものだ。

 しかし、そういうのは当たり外れがあり、好きな物を飲める点は好感が持てた。


 メイドがすぐに飲み物を持ってきてくれた。

 先ほどもそうだったがガラス製のとても美しいグラスが使用されており、今回はその中に氷と琥珀色の液体が入っている。


 さっそく飲んでみると、茶葉の味に隠れて、柑橘類のほのかな甘みと酸味が口の中に広がった。

 毒見もなく物を飲む余を近衛兵たちが真っ青な顔で見ているが、この状況で毒殺を心配する意味はないだろう。


 続々と出席者たちが席についていく。

 基本的に各国ごとにまとまって座っており、フォルメリアと隣国ガーラルの出席者が多い。国境に軍を展開しているため、幹部が一か所に大勢集まっていたからだろう。


 席が埋まり、飲み物が行きわたって一息ついた頃に、エメロード殿が入室した。


 相変わらず凄まじい美女だが、あの戦争を見た後ではゾッとするような美しさに思えてくる。


「改めて挨拶させていただこう。アアウィオル15代目女王エメロードだ」


 エメロード殿はそう言うと、出席者たちの顔を一巡する。

 その瞳に見つめられて、肝が小さな者は肩を揺らす。ウチの貴族でも数人いた。余は頑張ったぞ。


「さて、ご覧の通り、ゾルバ帝国との戦争は決着した。これにて見学会を終了とさせていただくが、約束通りにこのあと貴殿たちには帰国していただくことになる」


「す、すぐに帰してたもれ!」


 ジュスタルクの女王が叫んだ。

 まだ20にもなっていない若い女王だが、王としてそれではいかんだろう。


「うむ。少し話したら無事に帰すから安心せい、ジュスタルク殿」


 エメロード殿がそう言ってジュスタルクを見つめると、彼女は顔を赤らめて俯いた。


「多くの国に対して、こちらからの要件は一つだ。アアウィオルに手を出すな。そちらが手を出さない限り、こちらから貴殿らの国に侵攻することはないと誓おう」


「それは信用できるのか?」


 ラーファという国の老王が言う。

 余にとって名前くらいしか知らない国だ。おそらくエメロード殿もそうだろう。


「信用もなにも、現在ここに集まっている国全てと同時に戦争をしてもアアウィオルは問題なく勝てる。そなたらは妾の言葉を信用するしかない」


「「「……」」」


 それは事実だった。

 5万の兵を2千の兵だけで、しかも無傷で倒しきる相手など、どうやったって勝てない。

 しかも謎の転移魔法も持っているため、兵站が尽きるということがほぼないし、なんなら総司令官や王の首すらいつでも取れてしまうときたものだ。こんなのが相手では戦争になんかならない。


「アルテナ聖国との問題はどうなるのだ? 我がラーファは貴国から2つ国を挟むゆえ、神敵にされなければ貴国を警戒すらしていなかった。しかし、神敵にされた以上はアルテナ聖国と歩調を合わせなければならん」


「ならば、従うフリだけにしておくといい」


「時間を先延ばしにするのにも限度があろう。ゾルバ帝国が負けた今、いずれはこちらにも出陣要請が来るぞ」


「妾は神威裁判への出廷が命じられている」


 エメロード殿の言葉に、場がざわめいた。

 神威裁判とか絶対に勝てないやつじゃん。


「出廷するのか?」


 隣国ガーラル王が尋ねるが、そんな罠に自分から飛び込むわけないではないか。アホなんか、こいつ。


「もちろんだ。妾も創造神様の僕だぞ」


 え、えー、出廷するのか?

 昔会った時はお転婆少女だった片鱗が見え隠れしている王女だったが、女王になって破天荒っぷりが突き抜けてないか?


「ちなみに、神威裁判は明後日だ」


「神威裁判はアルテナ聖国で行なわれるのだろう? どう考えても間に合わん……い、いや、そうか、瞬間移動の魔法があるのか」


 ガーラル王が羨ましそうにつぶやく。

 たしかに転移の魔法は余も欲しい。余とか、今回、城の敷地から出たの1年ぶりくらいだし、この魔法があればもう少し人生が豊かになりそうな予感。


「神威裁判でなんらかの決着は見られるだろう。その結果を見て、貴殿らは判断するといい。特にガーラルとフォルメリアは国境に軍を展開している。神威裁判が終わるまでは、侵攻させないように頼むぞ」


 その言葉を受けて、ホールデンがゴクリと喉を鳴らした。

 この戦場からフォルメリア国境までかなり距離があるが、神聖教会は謎の情報網があるからな。明日にでも、進軍の命令が下ってもおかしくはないのだ。


 ひとまず話が終わったと見て、余は発言した。


「もし、神敵が間違いであったと証明されたのなら、もう一度会談の席を用意していただきたい。可能か?」


「もちろんだ。貴国とは特にじっくりと話し合わなければならないことが多い」


 それを聞いて、ガーラル王も口を開いた。


「俺も会談を申し入れたい」


「うむ。では、神威裁判が終わり次第、この場にいる全員に一報をいれよう。その際に会談への招待状も送ることとする。それに応じるかは各々の判断に任せよう」


「まるで神威裁判に勝つような物言いだな」


「ガーラル王、それはわからんよ。全ては神の御心のままに、だ」


 神威裁判はインチキがあると言われているが、エメロード殿がそれを知らんはずもないし、インチキのタネを知っているのかもしれない。


「それともうひとつ。貴国らの都の集会場……例えばコロシアムや競技場などをこれから3日間貸していただきたい」


「それはなにゆえにだ?」


 ガーラル王が怪訝な顔をする。

 転移の魔法がある以上、そんな広い場所を貸したら軍を派遣されてもおかしくないからな。


 しかし、エメロード殿の答えはそう言ったものではなかった。


「貴殿らはすでに使用しているのでどういったものかはわかると思うが、我が国には離れた場所の光景を見る魔道具がある。しかし、貴殿らに見せた物は小型なのだ。あれよりも遥かに巨大な物がいくつかある。貴殿らは、神威裁判というものがどういう裁判なのか知りたくはないか? 広い場所を貸してくれるのならば、妾の裁判を披露しよう」


 全員がその話の意味を吟味し、ガーラル王と余がまずは頷いた。


「なるほど、面白い。ガーラルは承諾しよう」


「フォルメリアも同じく」


 神威裁判は稀に開かれるが、その様子を見ることはなかなかできない。だって王だもの。

 これから先、余や国の者が出廷を命じられる可能性もなくはないので、どんなものなのか知っておきたかった。


 一方、エメロード殿の立場から考えると、身の潔白を世界に見せる目的があるのだろう。


 他の王たちもこれを承諾したが、ジュスタルクの女王だけは迷った。

 そんな彼女に、ラーファの老王が言う。


「ジュスタルクよ。もしアアウィオルが無実ならば、これを平民に知らしめなければお主の首を絞めることになるかもしれんぞ」


 ジュスタルクはその意味がわからないようで、泣きそうな顔をした。

 ジュスタルクは鹿獣人の血が入った美しい女王だが、ちょっとアホの子のようである。


「貴族や平民の中には熱心な創造神の僕も多い。英雄教会と神聖教会の結びつきも無視できん。アアウィオルが神の敵でなかったと正しく知らされなければ、彼らがお主の意に反して勝手に戦争を起こそうと暗躍するかもしれんのだ」


「え、エメロード殿が勝訴したのなら、その結果はアルテナ聖国が告知してくれよう?」


「してくれると思うか? ワシはしてくれないと思うぞ。今回の神威裁判は『神の宝を盗んだ』というのが争点だ。仮にアアウィオルが勝訴したなら、アルテナ聖国が嘘を吐いて国家の転覆を狙ったことになる。これは公平な立場を取る聖国として許されざることだ。ならば、なんらかの理由をつけて、判決の改ざんや曖昧な表現で告知が行なわれるのは容易に想像がつく。エメロード殿の提案は、そういった不正行為を予防するためのものだ」


 そこまで聞くとさすがに理解したのか、ジュスタルクは慌てて承諾した。

 ジュスタルクも大魔境に隣接している国なのだが、少々不安な女王である。


「さて、本日は忙しい中、振り回してしまって申し訳なかった。そのお詫びと言ってはなんだが、ささやかながら手土産を用意した。貴殿らにいまさら金銀など持たせてもいらんだろうから、珍しいものを厳選したので持って帰ってほしい」


 こうして、衝撃の半日は終わった。




 ホールデンたちに絶対に軍を侵攻させるなと厳命して別れ、余は帰国した。

 移動がすんごい早い。


 執務室では近衛団長のアドレーが待っており、余の顔を見てベンベン泣き始めてしまった。お堅い男だが、凄く心配していたようなので、余はコイツの評価を一段階あげた。


「あなた!」「父上!」「お父様!」


 王妃や子供たちもわらわらとやってきて、余の無事を喜んでくれた。

 いや、本当に死ななくて良かったわー。今さらながら思う。


 これから緊急会議を開くつもりだが、まずはお土産とやらを見てみるとしようか。


 余は部屋を用意させて、テーブルの上に品物を並べさせた。


「それぞれに説明書が用意されています。全て検閲しましたが、陛下、これは大変なものにございますよ」


 文官が、神妙な顔で告げた。


「ほう、どういったものだったのだ?」


「例えばこれです。毒見のランプ。このランプの光は食べ物に混入されている毒物を暴き立てるようです」


「え、なにその国宝」


「効果は検証しなければわかりませんが、説明書にはそう記載されています」


「ほかには?」


 文官が言うには、ほかに、『緊急回復の指輪』『オートシールドの腕輪』といった物が凄いらしい。

 前者は、致命的なダメージを受けた際に1回だけ自動で回復してくれる指輪であり、後者は、ダメージを受けると即座に強力なマジックバリアを展開する腕輪だという。


「どれも国宝級ではないか」


「はい。しかし、1度だけの効果なので調べようがありません」


「いや、ホールデンたちの土産を預かっている。それでやれば良かろう」


「それは……よろしいのでしょうか?」


「やつらは中身を見てないから問題ない。秘密だぞ」


「ハッ!」


 これも国のためだ。許せ、みんな!

 他にもいくつかの品が紹介され、文官はその品の紹介を始めた。


「こちらは女性向けかと存じます。髪用の液体石鹸と肌用石鹸、それに肌薬のようです」


「ほう。アアウィオルの女性の髪はみな宝石のように輝いていた。同じ物だろうか」


「「まあ!」」


 一緒に聞いていた王妃と娘がわーっとそれに群がった。

 薬品なので注意点が多いようで、それも説明書に丁寧に書いてあるようだった。めちゃくちゃ配慮されているな。


「お父様、1セットしかありませんわ」


 娘がしょぼんとして訴えてきた。


「ホールデンたちの土産から抜いておけば良かろう」


 許せ、みんな!

 でも、毒見のランプは取らないし、大丈夫だろう。


「アアウィオルはいったいどうしたのでしょうか?」


 王妃が真剣な顔で言う。

 とりあえず、貰ったものを置きなさい。


「それは余にもわからんが、時代は確実に動き出している。これから忙しくなるぞ」


 一難去ってまた一難だが、今回の難題のほうがマシではある。


 今まではゾルバ帝国が覇権を握ろうとしたのなら、泥沼の戦いを想定しなければならなかった。

 しかし、これがアアウィオルに変わった場合、もう降伏一択しかない。

 つまり、問題が遥かにシンプルになったのだ。


 だが、降伏なんてしたくないので、なんとか生き残る道を考えねばならんだろう。


 なんにせよ、まずは神威裁判。

 何が起こるのか楽しみにしていようではないか。


読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想大変励みになっております。

誤字報告も助かっています、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  なんか仲の良い王国なのかなあ? [一言]  お土産のちょろまかしの謝罪として、リゾート村への優先観察任務をあげてあげないと、反乱起っちゃうレベルだと思います。
[良い点] ホールデン(何か貰った土産が目減りしてるような?)
[一言] お土産ちょろまかすのはいかんやろう
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