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2-28 フォーン・クレイモン 陛下の演説

本日もよろしくお願いします。


 私の名前はフォーン・クレイモン。

 子爵家の当主をしている。


 開通式を終えて、我々はさっそく転移門を使った。


 転移門から転移門へ移動しても同じように塀の中だったため、あまり移動した実感がわかなかった。遠くに見える山々の形が明らかに違うが、その程度。


 転移門から出たら順路に従って塀の外へ出る。正門とは逆が出口のようだ。

 行きの時点で使用料金・交易税の支払いや検問などを済ませるため、転移門を出たあとは楽なようだな。


 塀の中ではあまり実感は湧かなかったものの、高い塀を出ると一変した。


 すでにメイン通りであろう大きな道路が敷かれており、その道路を辿った遠くには大きめな宿場街と言って差し支えない規模の小さな町が出来上がっていた。


 このメイン通りは1本ではなかった。

 どうやら東西南北に繋がる各転移門の囲い塀は横一列に並んでいるようで、つまりメイン通りが離れて4本ある形になる。

 メイン通りにはまだ何もないものの、ここがとんでもない商業圏になることが想像できる壮観な見た目になっていた。


 つい数か月前に王都へ行ったので、こんな場所がそれこそ計画すら立っていなかったのは知っている。つまり、年が明けてから誕生した町なのだろう。


「こ、ここまでなのか……」


 誰ともなしに呟くと、近くにいたザライ閣下がそれを拾った。


「王都には城職人を筆頭に大工職人が多いからな。それらがひと月ばかりの修行で家を作り続けるとああなるようだよ」


 町の規模と大工職人の人数は比例すると考えて良い。

 建築だけではなく修繕の依頼が非常に多いため、自然と職人の数が増えるのだ。


「しかし、ずいぶん遠くに建物を建てているようですね」


 我々は出口側から出たのだが、すぐ近くには店舗がないのだ。


「この大通りは、修行を終えた職人たちが正式に依頼を受けて建てるために土地が残されているようだよ。修行中に建てた物では彼らに大した金は入らんからね。修行中に建てられたあそこら辺の建物は、一等価値が低い建売として抽選で販売されるようだな」


「ははぁ、なるほど、そういうことですか。しかし、あの辺りでも十分に一等地でしょう」


 感心する一方で、私は不安にもなった。

 王都や転移門で繋がる4貴族家の領地は大都会になりそうだが、その一方で、私の領地がド田舎として人が減ってしまうのではないかと。


 平民の領地替えは申請すれば割と簡単にできてしまうし、冒険者に至っては移動を止めようがない自由職なので、現実的にあり得る未来に思えた。


 これは、なにかしらの対策を立てなければ不味いだろうな。

 領地替えの条件を少し厳しくしてもらうように訴えるか? だって、いかんせん若者がいなくなったら困ってしまう。


 全員が集まると、ザライ閣下が言った。


「さて諸君。これから一旦王都へ向かい、各々そちらで一泊いたせ」


 領地持ちの貴族は王都に別邸を持っているので、まあ問題はない。


「王家主催の転移門開通式はキャサグメ殿の村で行なわれる。村での此度の宿泊料金は考えなくて良い。しかし、買い物をするためにある程度の金銭を持って行きたまえ。春祭り参加の通達で金貨を持ってこいと書いたが、100枚ほどあればある程度楽しめるだろう。無論、もっと持ってきても構わんがね」


 あ、あー、そのための金貨だったのか。

 それにしても何が買えるのだろうか?


 それから我々は馬車に乗って移動し、予定通りに王都で一泊する。

 そして、翌日の朝早くに再び馬車の人となった。




 キャサグメ男爵は、王都にある迎賓館と同じくらいの広さの領地を貰った。

 しかし、明らかにそれよりも広い範囲に建物が建っている。なんかの褒美で貰ったのだろうか?


 違った。


「ここは王家管轄の建物です。兵の駐屯地や馬車の整備場、馭者の宿舎、国営宿などが並んでいますね」


 家臣の人が教えてくれた。

 自分の国のこととは思えない変化っぷりなんですが。王都から逃げ帰ると、こんなにわけわからなくなっちゃうのか?


 私が恐れ慄いている内に、馬車は停留所で停まり、そこからは歩いて行くことに。


「さて、覚悟は決まったかい」


 ナロンが冗談めかして言う。


「覚悟もなにも、行かないとアアウィオルではもう生き残れないだろう」


 そして、ぞろぞろと向かった先にはまたも転移門。しかも、今度は平民と貴族用の行き帰りにそれぞれ1門ずつの計4門。

 転移門の大安売りだ。いったいアアウィオルはどうなっちゃうのか。


 すでに何度も来ている様子のザライ閣下が先陣を切り、転移門を潜っていく。

 それをやられると我々も後に続かないわけにはいかず、えいやと転移門に踏み込んだ。


 王都圏に繋がる転移門ではあまり長距離転移の実感が湧かなかったが、今回は違った。


「っ!?」


 我々北方貴族は、転移門を潜った順に絶句するしかなかった。


 そこはまさに別世界だった。

 門ひとつを隔てて、まだ肌寒い春からからりと暑い真夏へ。

 眼下には王都を凌駕する美しい大都市が広がり、そこからは活気ある声が溢れていた。


 ここに来て、私はキャサグメ男爵が迎賓館を襲った理由を把握した気がした。それはおそらく他の貴族も同じだろう。


 これはダメだ。

 最初に圧倒的な力を見せつけて脅しておかなければ、必ず戦争を誘発させる。

 世の中、ちっぽけな鉱山の所有権で戦争を始めるのだから、海に面した大都市へ繋がる転移門を複数所有している奴がいたら、奪いにいかないわけがない。

 実際に、アルテナ聖国がゲロスと一緒に不穏なことを始めているようだし、間違いないだろう。


 それから我々は用意された馬車に乗り込み、町に繰り出した。


 それぞれの馬車にはザライ侯爵家の家臣が同乗して説明をしてくれているのだが、私たち家族は街並みを見るのに夢中だった。


 田舎貴族の私たちにとって、王都でさえ大都市なのだ。

 大きな一枚のガラス窓を持つ商店や、巨大な噴水広場、計算されつくされた路上の植え込み——見るもの全てに圧倒されていた。


「ここにあるものは大抵が我々でも再現可能だということです」


「それはまことですか? あんなに透明なガラスの窓なんて王城にすらありませんよ?」


「はい、本当のことです。そのための入門的な知識をここで教えています。馬車の中では建物の外観くらいしかわかりませんが、中に詰まっているものはそれ以上です。クレイモン様もぜひ領地の発展のために利用していただきたい」


「それはもちろんです」


 というか、やらないと領地取り上げの憂き目に遭いそうだし。




 リゾート村に1泊し、翌日の夜。

 私たちは晩餐会が開かれる大ホールに来ていた。


 これがまた豪華絢爛なホールなのだが、なんという様式なのかまるでわからない。贅の限りを尽くした建物と言えばゾルバ帝国の貴族がよく建てるが、あちらの方の内装ともまた違う。

 特に、ホールの一角で音楽団が演奏している美しい旋律は、思わず聞き入ってしまうほどに見事なものだ。


 ホールには、アアウィオルの領地持ち貴族や王都の一部の法衣貴族らが一堂に会し、さらには多くの貴族が伴侶やある程度の年齢の子供たちを連れてきている。

 かなりの人数だが、ぎゅうぎゅうということもなく、広々としたホールで各々が楽しんでいた。


 そんな貴族たちは、この地に1泊したことで激変していた。


 女性陣の肌髪は魔導ランプの光を反射して煌めき、その身にはこの村で買った見事なドレスを纏っている。私の妻もシャープな印象のドレスを着て、友達とキャッキャと楽しそうである。


 一方の我々男性陣は見るも無残にアホばかりで、大体がこんがりと日に焼けていた。プールが楽しすぎるのだ……っ! 私なんて息子たちとずっとウォータースライダーに乗っていたからな。


 貴族たちの中には、普通にキャサグメ男爵がいた。まあ彼もアアウィオル貴族なのでこの場にいてもおかしくはないのだが、かなりの胆力だ。

 キャサグメ男爵は上位貴族から引っ張りだこで、木っ端貴族の私が話す機会などない感じだ。


 というわけで、木っ端は木っ端らしく、同じレベルの貴族たちと情報交換に勤しんだ。1泊したわけだが、プールや海遊び以外に各々で体験したことが全然違うからな。


 えーっ、海の中にレストランがあるって本当っすか!?


 そんなふうに談笑に花を咲かせていると、女王陛下のご入場が会場に告げられた。

 こういうものは告げられた場所から入場するものだが、今回は正面扉からのようだ。


 正面扉から真っすぐに道を空けて準備が整ったことで、正面扉がゆっくりと開いた。

 その瞬間、私は驚愕した。いいや、私だけではなくほとんどの貴族がそうだろう。


 女王なので元からカリスマ性のある方だったが、数カ月ぶりに拝謁した陛下の美貌は女神が降臨なされたのかと思うほど美しかったのだ。


 こういう場では座礼をしなくていいのだが、我々は自然と片膝をついていた。私も、持っていたガラス製のグラスを床に置く無作法をしながら、臣下の礼を取った。


 真に忠誠を誓うというのは、こういうことなのかもしれない。

 私は陛下の入場と共に音色が変わった旋律を聞きながら、そう思った。


 陛下はラインハルト様や2人の殿下と共に、近衛に守られながら我々の作った道を歩く。


 やがて音楽団の演奏が止み、王族席の前まで移動したことが気配でわかった。


「面を上げよ。起立を許す」


 いつもの覇気のある声で命じられ、私は床に置いたグラスを持ち、立ち上がった。

 それから改めて陛下を見る。


 めっちゃ美人。

 私の2つ年上だから……え、今年で30って本当ですか!?


 キャサグメ男爵のリゾート村は戦争の火種になると思うが、陛下の美貌も十分に火種になりそうである。

 この人を手に入れるために暴走する他国の王とか、普通に現れるのではないだろうか?


 と、私が恐れ多くも陛下に足で踏まれている己の姿を想像していると、真面目な話が始まった。

 私はキリリとしながら、今日は妻に女王様な感じでお願いしようと思った。


「諸君、此度は急な招集にもかかわらず、よくぞ集まってくれた。大義である」


 陛下はそう言って、一同を見回した。


「すでに知っての通り、この度、アアウィオルは交通に革命が起こった。しかし、それはアアウィオルの発展の序章に過ぎないと、聡明な諸君ならばすでに理解しているはずだ」


 東西南北を繋げた転移門の設置は序章。

 耳を疑う言葉だが、この大都市を見ればわかる。

 発展の本番は、ここで学んだ者たちが各地で腕を振るい始めてからなのだ。


「転移門はもちろん商売に使っても構わんが、あれを各地に設置したのは、国民の能力を上げることが真の狙いだ。転移門により、学びを欲する者の旅の敷居はずいぶんと低くなるだろう」


 それはそう。

 例えば、見習い職人程度なら旅に出る決断は容易だが、工房主となるとなかなか難しい。工房主が旅の途中で死んだら工房は終わり、一家は路頭に迷うからな。

 転移門は、そういったリスクを大幅に減らす。


「これからアアウィオルを中心に世界が変わっていく。ゆえに、諸君らはこれまで以上に努力をせねばならない。これまで以上に多くの決断をせねばならない。これまで以上に気高くあらねばならない。時代の流れは激流と化した。貴族は船頭、この激流の中で領民を栄えある未来へと運んでみせよ」


 陛下はそう言うと、控えていた給仕からグラスを受け取った。


 見れば、貴族たちにもグラスが配られている。

 私は元から持っていたので、このまま待機だ。

 全員にグラスが行きわたると、陛下は乾杯の音頭を取った。


「ひとまずは転移門が繋がったことを祝そう。アアウィオルの未来に!」


「「「アアウィオルの未来に!」」」


 グラスを上げる陛下に続き、我々貴族もグラスを上げた。


 そうして、グラスの中の酒を一気に煽った。

 お酒うっまぁい!


「さて、本来なら転移門設置の施主である妾が肉を配らんとならんのだが、この人数にそれをやったら朝になってしまう。代わりに妾の料理人たちに腕を振るわせた。存分に楽しんでいってくれ」


 陛下がそう言うと、今までテーブルクロスしか敷かれていなかった長テーブルに、どんどん料理が運ばれてきた。


 ザライ閣下の晩餐会でもそうだったが、見たことのない料理ばっかりだ。これもまたこの村で教わった料理なのだろう。

 しかし、我々の口に合わないということがないのは、ザライ閣下の晩餐会ですでに知っている。どれもこれも大変に美味いはずだ。


「あなた、ここでお酒を飲み過ぎたらぶっ殺しますわよ」


 妻に釘を刺された。

 やだな、さすがの私でも陛下の前で醜態は晒さないよ。



 こうして、私たち貴族とリゾート村は出会い、それは各領地の繁栄に繋がっていくのだった。



読んでくださりありがとうございます。

最近、投稿頻度が落ちて申し訳ありません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] > 私が恐れ多くも陛下に足で踏まれている己の姿を想像 変態さんだった… [気になる点] > あなた、ここでお酒を飲み過ぎたらぶっ殺しますわよ ってことはこれもご褒美になっちゃう?
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