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2-21 アリーシャ スライムさんの国

本日もよろしくお願いします。


 わたしはアリーシャ・クロウリー。

 クロウリー公爵家の一人娘です。


「バイバーイ! また明日ねぇ!」


「ごきげんよう。また明日です!」


 ランドセルを背負って帰っていくミカンさんに手を振って、わたしはお二人の殿下と一緒に貴族の寮に帰ります。


 帰りの馬車の中。


 モチモチ、プルプル。

 モチモチ、プルプル。


 な、なんでしょうか。

 前の席に座るお二人に見つめられています。


 モチモチ! プルプル!

 モチモチ! プルプル!


 殿下たちはいとこではありますが、男の子に見つめられて凄く恥ずかしいです!

 なにかお話しした方がいいのでしょうが、なんにも思いつきません!


「アリーシャ、スライムは可愛いか?」


 すると、兄であるアルフレド殿下が仰います。


「っ! は、はい、可愛いです」


「触らせてもらっていいか?」


 アルフレド殿下にそう尋ねられました。


「プリシス、いいですか?」


『っっっ!』


 わたしが問いかけるとプリシスはプルプルします。大丈夫みたいです。


 アルフレド殿下にプリシスを渡すと、一緒に乗っているメイドの一人が心配そうにします。

 プリシスはアルフレド殿下のお膝の上でカーテシーをしました。


「つ、潰れたぞ?」


「えっと、それはカーテシーです」


「そうなのか」


 アルフレド殿下はちょっと困ったような顔をしてから、プリシスをモチモチし始めました。


「ほう、ひんやりしていて気持ちがいいな。それにモチモチしている」


「兄上、僕にも触らせて!」


「ああ。乱暴にしてはダメだぞ、サイラス」


「わぁ、本当にモチモチしてる!」


 アルフレド殿下は弟君であるサイラス殿下にプリシスを渡します。

 心配でしたが、強くはしたりせずに優しくしてくれています。プリシスもプルプルしているので喜んでいるようです。


 殿下はひんやりしていると仰いましたが、王都にいるときは少し温かいです。お母様に抱っこされた時と同じくらいの温かさでしょうか。

 そんなプリシスを抱っこして眠ると、ぐっすりと眠れるんですよ。


 ミカンさんの話だと、スライムさんは体温を調整できるようになるそうです。

 きっとわたしが寒かったり暑かったりしないようにしてくれているんです。凄く優しい子なのです。


 殿下に遊んでもらったプリシスは楽しかったようで、私のお膝の上でプルプルします。遊んでもらえて良かったですね?


 寮の食堂へ着くと、お父様やお母様、それにエメロードお姉様がいました。

 今日のお昼ご飯は、お父様たちとここで食べるのです。

 両殿下やエメロードお姉様は転移門でお城へ毎日お帰りになりますが、今日は寮でのお食事の体験をしにいらしています。


「アリーシャ、学校は楽しかったかい?」


「はい。ミカンさんと一緒なのです」


「そうかそうか。それは良かったね」


「はい」


 お食事をしながら、そんな会話をします。


 ご飯は、プレートに乗ったランチです。

 毎日献立が変わるようで、今日はオーク肉の生姜焼きと豚汁定食なのだそうです。

 全部美味しいですが、アンニンドウフという白いプルプルしたのがとっても美味しいです。


 でも、今日からしばらくはお父様とお母様と離れて暮らすと思うと、このお食事会も寂しく感じます。

 ……たぶん、だからこそお忙しい中でお食事会を開いてくれたのだと思います。


「アリーシャ。夜は一人で大丈夫そう?」


 お母様がそう問うてきました。

 わたしの目頭がジュンと熱くなります。


「はい、大丈夫です……」


 正直、凄く心細いですが、わがままを言うわけにはいきません。

 それにプリシスもいますし、メイドのクラリスも一緒です。決して一人ではないのです。

 でも、言葉の中にひっそりと心細いことを忍ばせておきます。


 ……あれ?

 でも、よく考えると、そもそもお屋敷でも夜はお母様たちと一緒に寝ていませんね。

 あれあれ? あまり変わらないのでは?


「はい、大丈夫です!」


 それに気づいたわたしは、ちゃんとお返事できました。

 ちょっとお父様が残念そうな顔をしました。えー?




 わたしのお部屋はふかふかなベッドと机、ティーテーブル、クローゼットがある小さなお部屋でした。

 お屋敷のお部屋とは違って狭く感じましたが、3時間ほど過ごすと、むしろわたしにはこのくらいの広さの方が落ち着くことに気づきました。


 ほかに、メイドのお部屋、トイレ、お風呂もついています。

 お屋敷にあるお風呂とは違ってとっても狭いですが、やっぱりわたしはこっちのほうが落ち着きます。なぜでしょう?


「お嬢様、心細いようでしたらクラリスが添い寝を致します」


 お布団から顔を出したわたしに、クラリスがそう言ってくれます。


「ありがとう、クラリス。でもプリシスもいますから大丈夫ですよ」


「そうですか。でも、いつでも言ってくださいね」


「はい」


 クラリスはちょっと残念そうにしました。

 もしかして、一緒に寝たかったのでしょうか?


 クラリスはいつもわたしが寝るまでお部屋にいてくれますので、今日も同じでした。

 でも、今日はプリシスを抱っこして目を瞑ると、スッと眠ってしまいました。お部屋の狭さが丁度良すぎなのです……くぅ……。




「んにゅ……」


 ふとプリシスに起こされました。

 いつもはこんなことないのに、珍しいです。


 目を開けたわたしは、目の前の光景にギョッとしました。


 なんと、そこは貴族用のお部屋ではなかったのです!

 というか、室内ですらありません!


 周りは白くてふわふわした物がたくさんあり、どうやらわたしはその上で寝ていたようでした。青い空と白い雲がとても近く感じます。


「ぷ、プリシス、ここはどこですか?」


『っっっ!』


 そう問いかけますが、プリシスはわたしの腕からピョンと飛んで白いふわふわの上をピョンピョンと跳ねて行ってしまいます。


「ま、待ってください」


 わたしは慌ててプリシスを追いかけました。

 そうすると、プリシスはわたしを案内するかのように、ゆっくりと移動してくれました。


 白いふわふわは家くらいの大きさの小山になっていたり、道になっていたりしています。

 その感触は、まるでリゾート村のふわふわなベッドのような手触りです。


「プリシス、ここはどこなんですか?」


『っっっ!』


 改めて聞きますが、さすがのわたしもプリシスがなんと言っているかはわかりません。


 と、その時でした。

 白いふわふわの陰から、ピョンとピンク色のスライムが出てきました。


「わぁ、スライムさん」


 わたしが駆け寄ると、プリシスはピンクのスライムさんと寄り添ってプルプルしあいます。どうやら喜んでいるようです。


 そこでハッとしました。

 いつの間にか、足元に緑色のスライムさんがいます。


「わわっ! こ、こんにちは」


 わたしは身を屈めて、緑色のスライムさんを撫でてあげます。

 プルプルして嬉しそうです!


 すると、白いふわふわの陰からスライムさんがたくさん出てきました。


「ふわわっ、スライムさんがたくさんいます!」


『っっっ!』


 わたしの言葉に、プリシスが嬉しそうにピョンピョンしました。


 その光景を見て、わたしは気づきました。

 ここはプリシスと出会った時にスライム屋さんが語ってくれた、スライムさんたちの国に間違いありません!


 でも、スライムさんたちの国はお空の上にあると言っていました。ということは、わたしは雲の上にいるのでしょうか?


「ここはお空の上なんですか?」


『っっっ!』


 プリシスが頷きます。

 どうやら当たりのようです。


「でも、どうしてここに来ちゃったのでしょうか? お家に帰れるでしょうか?」


 プリシスもスライムさんも大好きですが、さすがに帰れないのは嫌です。

 そんなふうに不安になっていると、プリシスはまた案内するかのようにピョンピョンと跳ねていきました。


 他のスライムさんたちは、わたしとプリシスのために道を作るようにして並んでいます。


 いくつかの雲の小山を縫うように通り過ぎます。


「わぁ、綺麗」


 そこには輝くほど綺麗な小川が流れていて、その上を雲の橋が通っています。

 スライムさんたちはそこでお水を飲んだり、流れて遊んだりしています。


「このお水、とっても美味しいですね?」


『っっっ!』


 小川の水を手ですくって飲んでみると、今まで飲んだお水の、それこそリゾート村のお水よりも美味しかったです。


 そんなふうにプリシスとちょっとだけ休憩して、さらに進みます。


 またいくつかの雲の小山を抜けると、スライムさんたちの中に凄い気配の子がいるのを感じ取りました。


 銀色に輝いている子もいれば、ふわふわ浮いている子もいます。


『にゃ!』


 そんな鳴き声を立てる子もいます。


「わぁ、喋ってます! プリシスもあんなふうに喋るようになるんですか?」


『っっっ!』


 そうだよ、と言うように、プリシスは跳ねました。


 わたしはプリシスに導かれるままに、さらに進みます。


 すると、小山と小山の間に、とっても大きな白銀色の両扉が見えてきました。

 でも、周りを見るに、お部屋として囲まれていないように見えます。


 わたしとプリシスが両扉の前に立つと、私たちが入れる分だけの隙間がひとりでに開きました。


 わたしは慌ててプリシスを抱っこしました。


「この中に入るのですか?」


『っっっ!』


「そ、そうですか……」


 どうしましょう。

 別に悪い感じはしませんが、お父様から一人で知らないところへ行ってはダメといわれています。


 わたしがそんなふうにまごまごしていると、腕の中でプリシスがもぞもぞして抜け出そうとする気配がします。

 わたしが入らなくても、プリシスは入ってしまうでしょう。


 うぅうううう……え、えーい!


 わたしは覚悟を決めて、白銀色の両扉の中へと足を踏み入れました。


 そこもやはり雲の上でしたが、そこにはお城と同じくらい大きな空色のスライムさんがいました。


 ほえー……ハッ!


「ふわわ、プリシス! きっとスライムさんの王様なのです! あっ!」


『っっっ!』


 プリシスはプルプルしたかと思うと、腕の中から抜け出して雲の上に降りました。


 そうしてプリシスは、王様の前でわたしとの生活で覚えたカーテシーをします。

 ほかにもプルプルしたり、ピョンピョンしたり、いろいろしています。


 な、なにをしているのでしょうか?


 そう思った時です。

 プリシスがキラキラと光り始めました。


 その光はあっという間にわたしの視界を飲みこんでしまいました。


「きゃわーっ! ぷ、プリシスーっ!?」




「きゃわーっ! ぷ、プリシスーっ!? はうわっ!」


 自分の叫び声に驚いて、わたしはベッドから飛び起きました。

 私の胸の上で寝ていたプリシスがコロンと転がります。


「お、お嬢様、いかがいたしました!?」


 そう言ってクラリスが部屋に飛び込んできます。


 そう、お部屋です。貴族寮のお部屋です。


「ゆ、夢?」


 今までのことは全部夢だったようです。

 でも、まるで本当の出来事のような夢でした。小川で飲んだキラキラした水の味も覚えているほどです。


「お嬢様、大丈夫ですか?」


「え、あ、はい。ちょっと不思議な夢を見ました。それで驚いてしまいました」


「そうですか」


 わたしの答えに、クラリスはホッとした顔です。


 と、転がってしまったプリシスがピョンピョンと近づき、わたしの腕の中に納まりました。

 すると、凄いことが起こったのです。


『うーっ!』


 なんとプリシスが喋ったのです!


「「しゃ、喋りましたーっ!」」


 わたしとクラリスの叫びが重なりました。


 なんでいきなり喋り始めたのかは明白でしょう。

 きっと夢の中でスライムさんの王様と出会った時に何かがあったのです。


 はわー……とっても素敵な体験でした……。




 翌日、わたしは学校へ到着するなり、ミカンさんに報告しました。


「ミカンさん、プリシスが喋るようになりました!」


『うーっ!』


 机の上でプリシスがお喋りを披露します。

 それを見たミカンさんは、わぁっと笑いました。


「スライムさんが進化したんだね」


「進化ですか?」


「うん。スライムさんは進化するんだよ。アリーシャちゃんがいろいろ教えてあげたから、一回目の進化をしたんだよ。おめでとう!」


 パチパチとミカンさんが拍手してくれます。

 何事かとクラスメイトの皆さんが注目してきますが、恥ずかしくなるよりも先に嬉しさが込み上げてきます。


「えへへ、ありがとうございます。プリシス、頑張りましたね?」


『うーっ!』


 プリシスは机の上でプルプルしました。


「でも、スライムさんはいっぱい進化するからね。スライム道は奥が深いってスライム屋さんが言ってた!」


「スライム道は奥が深い……ふ、ふんすぅ! 頑張ります!」


『うーっ!』


 スライム道。

 なんかよくわからない道ですが、きっとプリシスを立派な子にしてみせます!


 そのためにも、わたし自身がこの学校でたくさん勉強して、立派にならなくてはなりません。が、頑張りますよーっ!


読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想、大変励みになっております。

誤字報告もありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] スライムコンプ、ドラクエモンスターズ……うっ、頭が…
[良い点] プリシスはプリンセススライムになるのじゃ! [気になる点] アリーシャちゃん、実は狭いとこの方が好きな猫っこと見た! [一言] アリーシャちゃん、真理に気付く。
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