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2-18 ステリーナ・ザライ お風呂回

本日もよろしくお願いします。


 わたくしの名前はステリーナ・ザライ。

 栄光あるザライ家の長女ですわ。


 現在のわたくしはリゾート村に留学中ですの。

 最近は、というか学園島に入学してすぐからですが、ジラード辺境伯の長女であるバルサさんに懐かれてしまいましたわ。


「う、うぐぅ……」


 体に圧し掛かられる重みに、わたくしは気だるさと共に目を開けます。


 開いた視界に映ったのは小麦色の肌と赤い髪。

 その人物の寝息がわたくしの首元に規則正しいリズムで吹きかかります。

 寝ているわたくしの上に、バルサさんが乗っかって寝ているのです。


 もーっ、いつもいつも!


 そう、これはここのところ毎朝のことなんですの!


 そして、メイド部屋のドアがちょっとだけ開いているのもいつものことですの。

 そちらへ目を向けると、お付きのメイドであるリリーがハワッとして顔を引っ込めます。


 15歳であるリリーくらいの歳ですと、同性恋愛をすることがよくあると聞きます。王国貴族院でもよく噂で耳にしたものです。


 でも、わたくしは男の方が好きでしてよ?

 いえ、そう言うといやらしく聞こえますけど、とにかく恋愛対象は男性ですの。欲を言えばキャサグメ様!

 ですから、いつも目覚めたらわたくしの手がバルサさんを抱きしめていても、それは寝ぼけてのことですわ!


 というわけで、目覚めたわたくしに情けはありません。

 手際よくふかふかな枕をベッドの下に落とすと、そこに目掛けてバルサさんをコロンと落とします。


 そうすると、途端にわたくしの体から温もりが消え、逆に寒くなってきます。

 いえ、冷たいと言った方が正しいでしょうか。わたくしを濡らすバルサさんの汗のせいですわ。


 そうなんです、バルサさんはかなりの汗っかきなのですわ……っ!

 バルサさんと寝るようになってから、毎朝パジャマがべっちょべちょですのよ!


 でも、女の子に汗っかきだなんて可哀そうなことは言えませんでしょう?

 ですから、わたくしは黙って朝の日課に入浴時間を設けましたわ。


 でも、これがなかなか素敵ですの。

 朝から温かなお風呂に入るなんて、とても優雅ではありませんこと?


 貴族の寮には大浴場のほかに、それぞれのお部屋にも小さなお風呂がありますの。

 大浴場も素晴らしいですが、個別のお風呂は誰にも気兼ねなくゆっくりできて素敵ですわ。


 将来、領主になるのか嫁入りするのかわかりませんが、いずれにせよお屋敷で朝風呂に入れるようにしたいですわね。そのためにも技術者を育てたいものです。


「おはよう、ステリーナ!」


 そうしてお風呂を楽しんでいると、バルサさんが素っ裸で入ってきましたわ。朝の優雅なお風呂の時間が短いのもまたいつものことですわ。


 わたくしは全てを諦めて、湯船の中で膝を曲げます。

 空いたスペースにバルサさんが向かい合うようにして入ります。バルサさんが入った分だけ、お湯が一気に流れていきました。


 バルサさんはバトルアックスをぶん回すような子なのに、胸はお湯に浮くほど大きいです。なんて生意気なんでしょうか。


「おーい、リリー。ぶどうジュース!」


「わたくしのメイドをこき使わないでくださいます?」


「別にいいじゃないか。それよりもステリーナは風呂が好きだなぁ。朝風呂なんて発想、私じゃ死ぬまで出なかった」


「……そうですわね」


 あなたの汗のせいですわよ! と言いたいところですが、傷ついちゃうかもしれませんから飲み込みます。


 そんなことを話している内に、リリーがぶどうジュースを持って入ってきます。

 リリーは顔を真っ赤にして、バルサさんにぶどうジュースを渡しました。その際に、狭い湯船の中で交差しあう白色と小麦色の足をチラッチラッと見て、さらに顔を赤くします。


 リリー、違いますからね?

 狭いからこうなっちゃってるんですのよ?


 しかし、アアウィオルではこうして同年代の女性が同じお風呂に入ることは滅多にありませんし、リリーの目にはそう映るのかもしれません。わたくしだってリリーの立場なら怪しむことでしょう。


 バルサさんはジュースを受け取るなり豪快に飲み、「かーっ、最っ高だな!」と粗野な声を出します。


「お、お嬢様、新聞のご用意ができました」


 リリーが報告します。

 メイドは2人いるので、朝早くに買いに行ったメイドが帰ってきたのでしょう。


「あらそう。お風呂から上がったら読みますわ」


「かしこまりました。お背中はお流ししますか?」


「いらないですわ」「いらないよ」


 リリーの質問にわたくしとバルサさんが言葉を揃えてしまいます。

 すると、リリーははわーっと顔を赤らめました。

 ち、違いますからね?


 バルサさんは汗でわたくしをべっちょべちょにした張本人なのですから、罰を与えなくてはならないのですわ。


 リリーがいなくなると、バルサさんとお喋りが始まりますの。

 小さなお風呂ですから空気が湯気でしっとりしていて、お互いの声も流れる時間もなんだかしっとりしているように感じますわ。


「また新聞か? そんなに面白いかな」


「世界のことが知れて面白いですわよ。あなただってお父様にプレゼントすれば喜ばれますわよ」


 そんなことを話しながら、お互いにジュースを飲みます。わたくしはリンゴのジュースですわね。


 以前は着飾ってお茶会を開いていたのに、なぜか今は服を脱いでのお茶会ですわ。

 我ながら少し淫靡で退廃的な時間に思えますが、不本意ながら少しこの時間が楽しいと感じている自分もいます。


「親父はまだリゾート村で修行中だよ。欲しけりゃ自分で買うだろ」


「そういえばそうですわね。それならお兄様やお母様とか」


「兄貴に渡したら公務を放り出してここに来ちゃうよ。あいつは学者肌だからね」


 学園島の教育レベルは非常に高いですわ。

 なので貴族ならば通って損なことはないのですが、いきなり全員で通うなんてできるはずもありません。

 ですからザライ侯爵家でもジラード辺境伯家でも、順番に学びに来るようにしているわけですわ。最近では他の貴族家も続々と学びに来ていますが、どこもやり方は同じですわね。


「お前のところの親父はいつ来るんだ? アアウィオルは変わるぞ。ぼやぼやしてられないだろ」


「転移門の管理でゴタゴタしているようですわね。アアウィオルの北西には問題児がいますからね」


「ゲロスか。親父たちの代のゴミは親父たちが片付けてくれたらいいんだけどな」


「……」


 お互いに貴族ですから、そういう物騒な話題にもなります。将来的には、誰かの処刑を決断することだってお互いにあるでしょう。

 ですが、無邪気な性格のバルサさんには、あまり人を殺めるような話はしてほしくありませんの。


 ですから、わたくしは足の指でバルサさんの弱点をギュッと抓りました。

「んにゃん!」とびっくりするバルサさんにわたくしは不敵に笑い、立ち上がります。


「お背中、流してくださる?」


「な、な……っ!?」


「ほら、早くしてください。強くしちゃダメですよ」


 先ほども言いましたが、毎朝わたくしの体をべっちょべちょにしているのですから、そのくらいは当然ですわね。


 泡々になったスポンジで背中を撫でてもらいながらもお喋りは続きます。


「聞きましたか? クロウリー家のアリーシャ様もご入学されるようですわよ」


「アリーシャ様か。会ったことはないけど、たしかまだ小さいだろ?」


「8つですわ。でも、平民の子の中には6つから入学している子もいるようですし、無理ということはないでしょう」


「あー、あのネコミミのチビっ子か。ありゃ私より頭がいいよ」


「熱心さの違いですわ」


「体育は熱心だぞ?」


「はぁ。まあ、それも大切ですけど」


 わたくしたちは貴族で一番早くに入学したクラスなのですが、最近では平民クラスと合同で授業を受ける機会がありますの。


 わたくしのクラスメイトで、この合同授業の意味がわからない貴族はいないでしょう。というか、わたくしのクラスメイトは全員が大貴族である四貴族家の関係者なので、無能はいませんわ。


 そう、この合同授業は、平民の子供たちの能力の高さを見ておくという意味があるのです。


 ロビン馬車で来た子供たちは、卒業後に一度自分の領地に帰るのが義務付けられているので他領の子供を引き抜くことなどはできませんが、自領の子供なら話は別です。


 複式簿記の問題をすらすら解くような子供たちを、そこらへんの小商店で小間使いにさせるなんて、もったいないでしょう?

 後期指導で彼らがどのような技術を習得するかはわかりませんが、必ず領地に貢献してくれるはずですもの。


 そういった人材を知っておくために、合同授業はあるのです。というのも、当の子供たちは自分たちの実力がよくわかっていないですからね。放っておくと、先に挙げた小商店の小間使いになってしまうような未来は十分に考えられるのです。


「話が逸れちゃったけど、アリーシャ様はいつ来るんだ?」


「春先だと伺いましたわ。陛下から姪を虐めないようにと釘を刺されましたの」


「はははっ、アリーシャ様は大人しい子だって話だからな。実際、どんな子なんだ? 私は会ったことがないんだ」


「スライムといつも一緒にいて、モチモチしてますわ」


「え」


 そんなお喋りをしているうちに攻守は交代ですわ。

 わたくしたちの親の爵位は同等ですし、わたくしだけ背中を流させるわけにはいきませんものね。


 他の女の子の背中は知りませんが、バルサさんの背中は小麦色の肌の下に筋肉がしっかりついていますの。少なくとも、鏡で見るわたくしの白い背中とはちょっと違いますわね。


「汗疹はできてないか?」


「ありませんわ。綺麗な肌ですわよ」


「そっか、綺麗か、えへへ。この村の薬効石鹸を使い始めてから凄く調子がいいんだ。あっ、もうちょっと強くして」


「ダメですわ。肌はデリケートなんですから優しくです」


「洗った気にならないよ」


「ダメですわ。もうっ、あなたも今度美容講習にいきますわよ。女の子なんですから、ちゃんとそういうことも学ばなければダメですわ」


「女の子か。あはは、そうか、そうかもな。はは!」


 そんなに変なことを言ったでしょうか?

 アアウィオルの女は男と変わらず魔物と戦う人が多いですが、それでも綺麗になって恋をしたいと思うものだと思いますが。


 バルサさんは割と可愛らしいところがありますし、案外素敵な恋をするようにも思いますけどねぇ?



読んでくださりありがとうございます。


ブクマ、評価、感想大変励みになっております。

誤字報告もありがとうございます。

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[良い点] 国力増強計画がちゃんとある。
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