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逃走

作者: 麦紬

 僕らは生まれてから、ずっとこの白い部屋にいる。みんな足には地面と繋がった枷をつけられて、最初の場所から動けない。それに本当の名前だってわかんない。初めて会ったとき、そんなの誰も持ってなかったもん。ただ、僕らには文字が1つだけ押されてる。だからそれで呼び合うことにした。

 こんなところだけど、案外居心地は悪くないんだよ。

 でもたまに天井が開くんだ。そうするとどんなに楽しい話をしててもみんな、顔が強張る。白い部屋に光が差し込んだときは、必ず殴られるんだ。全員ってわけじゃない、気まぐれ。僕が殴られたり、遠くのUくんが殴られたり。

 だから最初はお互い「仕方ないね」って励ましあってたんだ。でもだんだん、みんな苛立ってて部屋の至る所で喧嘩が起きてる。

 特に言い争っているのは、よく叩かれるUくんとか、Sさん。2人はこの頃、小さいことで口汚く罵り合うようになった。そしてこの口論は、あまり働いてない奴らよりはマシだっていうところに落ちく。ぶたれることは働くことじゃないのにね。でもいいんだ、彼らは気まぐれに酷いことをされているし、それで落ち着くならいくらでもやってくれていいさ。仲間だし。

 そう思って、我慢してきたんだけど少し様子が変わってきたんだ。

 前までは、「働かないやつら」って一括りにしてバカにしていたんだけど、今は働いてない仲間の名前を出して、酷いことを言うようになった。まとめて言われていたから痛みが分散されていたのに、名前を挙げられたら避けようがない。

 彼らからしたら僕も働かないやつの一部だったみたいで、「役立たず」とか「居てもいなくても一緒」とか直接言われるようになった。

 僕だってわかってるよ。みんなが叩かれている中、自分だけ痛みを感じないでいるなんて仲間外れみたいだし。だけど僕にはどうにもできないよ。

 最近はUくんたちの意地悪に乗っかって、他の仲間たちもみんな僕のこと今も悪く言ってる。

 あ、みんなの話し声がやんだ。いつのまにか天井が開いてる。

 Uくんが殴られた、Sさんも呻いてる。また遠くで苦しそうか声が上がった。

 大体の仲間が打たれたあたりで、高く上がっていた天井が徐々に下がって元の位置へと戻った。みんな、叩かれたメンバーのことを気にしている。僕も声をかけよう。

 え?笑ってなんかないよ。僕らは仲間だよ?酷いよ、なんでそんなこと言うんだよ。


 みんなの寝息が聞こえる。いいな、あんなに酷いこと言って眠れるなんて。僕はもう嫌だ。こんな枷さえなければ。

 あれ?枷のねじが緩んでる。

 えい。

 足はするりと抜けた。このまま逃げ出したいけど、ここに扉なんてない。どうしようかな…。

 そうだ。

 ぐっすり眠れそう。


 眩しいな。なんだろう、せっかく良い夢見てたのに。なんだか周りが騒がしい。

 あ、天井が開いてる。みんなもこの時間に上が開いたことに驚いてるみたい。

 今ならいけそうだ。

 仲間が天井に夢中になっている間に、ねじの緩んだ枷から足を外した。夢じゃなかったんだ。みんなの目線はまだ高いところにあるまま。

 仲間の間を縫うように進んで、部屋の隅っこまで来た。振り返ってみるとみんな、変わらず上を見ている。

 —さよなら。

 って言おうとしたけど、やっぱりやめた。

 まっさらな壁はそこまで高くない。少し頑張れば、外に出れそうだ。

 僕は懸命に壁に登った。何回も滑り落ちたけど、もうこんなとこゴリゴリだよ。

 軽く助走をつけて壁を登ると、案外すんなりと外に出られた。

 そこには白以外の色で溢れていた。赤、青、黄色、緑。後ろから苦しそうな声が聞こえる。だけどもう自分を抑えられない。

 僕は、自由だ。

***

「続いてはエンタメニュースです。日本中のパソコンから、いつの間にかXが消えたそうです。一体どういうことなのでしょうか」

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