どこで無くしたの?
僕はノボル。
今日はおばあちゃんの居る所にやって来たよ。
おばあちゃんこの前まで病院って所に居たんだけど、この前この施設に移動したってお母さんから聞いたんだ。
家から少し離れていたけど、僕はおばあちゃんが大好きだから急いで来ちゃった。
「こんにちはー」
「あらあら、こんにちは」
施設に入ると入口に知らないおばさんが居たから挨拶したよ。お母さんから挨拶は大事って言われてるからね。
おばさんはとてもにこやかに挨拶してくれた。
おばさんは僕と違って片方の腕が無かった。
「誰に会いに来たの?」
「おばあちゃん!」
「どのお婆さんかな? 名前は分かる?」
「〇〇おばあちゃん!」
「あ、〇〇さんね。それなら奥に部屋に居るわよ」
家の奥を覗くと奥に部屋があったよ。あの大きな部屋だ。
「ありがとう。ところでおばさんはどうしてそっちの手が無いの? どこで無くしたの?」
「これ? 1年前に近くの交差点でね。急いでたから信号を無視しちゃったの。その時に無くしたわ」
「そのままなのは見つからないから?」
「もう無くなったの。2度と元には戻らないの」
それじゃあゲームができないよ。僕は絶対無くさないぞ。
「じゃあ信号は守らないとダメよ。バイバイ」
「バイバイ」
おばさんと別れて奥の部屋に移動するよ。
真っ直ぐなこの廊下を進むだけだから僕でも簡単に行けたよ。
「おん? 何だ坊や」
「こんにちは!」
「おお、元気だな。こんにちは」
でもおばあちゃんは居なかったよ。
代わりに片足が無いお爺ちゃんが椅子に座ってたよ。
「おばあちゃん知りませんか?」
「おばあちゃん・・・? もしかしてさっきまで居た〇〇さんかな」
「おばあちゃんだ」
「そうかそうか。〇〇さんはさっき部屋に戻って行ったぞ。部屋は3階だからエレベーターで上がるといいぞ。少し戻るとエレベーターがあるからの」
エレベーター。
あのぎゅーんって上がるやつだ。さっき見たよ。
「ありがとう。ところでお爺ちゃんはどうしてそっちの足が無いの? どこで無くしたの?」
「これか? 実はの、数年前に道路を横断している間に無くしてもうての。横断歩道がすぐ側にあったんじゃが、目の前のスーパーに行きたかったからつい近道してしまってのう・・・。その時に無くしてしまったのじゃ」
「そのままなのは見つからないから?」
「もう無いのじゃ。もうこの足が戻ることはない」
それじゃあ走ることに出来ないよ。僕は絶対無くさないぞ。
「じゃあ必ず横断歩道を渡るのじゃよ。じゃあの」
「バイバイ」
お爺ちゃんと別れてエレベーターのある場所まで戻るよ。
さっき見てたから何処にあるかは分かってるもんね。
「あら可愛い子。どうしたんだい」
「こんにちは!」
エレベーターの所に知らないお婆ちゃんが居たよ。
タイヤのついた椅子に座って移動してて面白そう。
「こんにちは。僕ちゃんも上に行くのかい?」
「うん、〇〇おばあちゃんに会いに来たの」
「なら3階だね。〇〇お婆ちゃんは3階の奥の部屋だからね。一緒に行きましょう」
奥の部屋。
そこがおばあちゃんの部屋なんだ。
「ありがとう。ところでどうしてお婆ちゃんはそのかっこいい椅子に乗ってるの? 歩かないの?」
「ふふ。お婆ちゃんはね、歩けないの。歩く力を無くしたの」
「どこで無くしたの?」
「数十年前、急いでて曲がり角から飛び出した時にね・・・、足を動かせないのよ」
「そのままなのは見つからないから?」
「無くなったから、もう見つからないのよ」
それじゃあ何処へも行けないよ。僕は絶対無くさないぞ。
「ふふ。じゃあ飛び出してはいけないよ。おや、3階だね。それじゃあね」
「バイバイ」
奥の部屋。
あ、あそこの部屋のドアが開いてるぞ。
おばあちゃんが見えるから、あれがおばあちゃんの部屋なんだ。
「あらノボル。来てくれたのかい?」
「こんにちは!」
部屋入るとおばあちゃんはベットで寝てたよ。
こっちを向いてはくれなかったけど、目だけは僕を見てくれたよ。
「こんにちは。今日は1人で来たのかい? ノボルはすごいねぇ」
「ありがとう。ところでおばあちゃんは何で寝てるの? お昼寝の時間なの?」
「おばあちゃんはね、もう起き上がれないの。首から下を動かせないの」
「もしかして、信号を無視しちゃったの? 道路を横断しちゃったの? 飛び出しちゃったの?」
「・・・ああ、みんなから話を聞いたんだね。どれでもないよ。おばあちゃんは信号を守って横断歩道を飛び出さずに渡ったよ」
「じゃあ何で無くしたの?」
「左右の確認をし忘れたからさ。来ている車に気付かなくてねぇ」
「もしかしてもう・・・」
「見つからないよ。だから探さなくてもいいからね」
それじゃあ何にも出来ないよ。僕は絶対、絶対無くさないぞ!
「いいかいノボル。道路を渡るときは、まず左右を確認して、飛び出さず、信号を守って、横断歩道を渡るんだよ。そうすれば無くさずに済むからね」
「うん! 絶対無くさない!」
僕は絶対無くさないぞ!
お読み頂きありがとうございました。
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