対立する者達 5
「城悟、俺に付いてくる気はないか?」
俺の言葉に城悟は首を傾げる。
「言っただろうが。俺はここを見捨てる事は出来ない。悪いが、暁門でも孝でもそれは変わらない」
駄目だとは分かっていたが、やはり頑固な奴だな。なら強制的に避難所を追放されるように仕向けるか、城悟に避難所の連中を嫌わせるか?
恐らく俺はかなり悪どい顔をしているだろう。その証拠に城悟の顔は戸惑っている。
「俺はお前を連れて行くと決めた。だからその為ならどんな手段でも使うぞ?この避難所がどうなろうが、俺には関係無いからな」
その言葉に城悟の顔が強張る。
「おい、暁門。お前、何をするつもりだ?もし避難所に危害を加えるようなら、オレだって黙ってないぞ」
「ならそうするか。俺は今から避難所の連中を襲う。ほら城悟、目の前に敵が居るぞ?お前はどうするつもりだ?」
俺はそう言って手に銃を持つ。
「お、おい!本気じゃ無いよな!?お前、頭がおかしくなっちまったのか!?」
「この状況でおかしいも糞も有るかよ。何が正しいかなんて分かるわけ無いだろうが」
俺はそう言って、倉庫の外へと向かう。そして外に出た瞬間、城悟が俺の肩を掴む。
「いい加減にしろよ!そろそろ冗談で済まないぞ!」
「俺は本気で言っている。お前こそちゃんと状況を見て考えたらどうだ?この石頭野郎」
俺の挑発に、城悟は何かが切れたようだった。そして俺の肩を掴んでいない方の右手を引き、殴るような体勢になる。
「うるせぇ!」
城悟はそのまま右手の拳を振り抜こうとした——だが。俺はそれを首を曲げて躱し、逆に城悟の腹を右手で殴りつけた。
「ガハ……ッ!」
体格で言えば城悟の圧勝だ。だが、魔物を狩った数なら俺は誰にも負けているつもりは無い。身体能力なら俺の方が遥かに上だ。
城悟が腹を押さえてそのまま膝から崩れ落ちる。やり過ぎた気もするが戦意を削ぐには充分なようだ。
「俺なら楽に抑えれると思っただろうな。だが、今のこの世界は体格だけじゃ無いんだ。今の俺は強いぞ?」
城悟はそのままの体勢で、俺を睨みつける。だが俺はそれを気にせず、三階の校舎の窓に向けて銃を放つ。
窓ガラスの割れる音、そして聞こえる悲鳴。
「や……やめろ……」
城悟の言葉を無視し、窓ガラスをもう一枚撃ち抜く。そして俺は城悟へと向き直る。
「なあ。力も無いのに、どうやって避難所を守るんだ?実際、たった一人にこうして好きなようにやられてるぞ?」
城悟は奥歯を噛み締める様子を見せるが、何も言い返しては来ない。
「まだ足りないか。なら——」「分かった!止めてくれ!もういい!頼む……やめてくれ……」
城悟は泣きそうな顔になりながら俺に懇願する。
そして騒動を聞きつけた避難所の連中、それに爺さん達が外へと出てくる。早瀬や荻菜さんは驚きつつも、どこか呆れている。
「これが最後だ。城悟、俺と一緒に来い」
俺はそう言って、避難所の連中へと銃を向ける。すると、連中は我先にと逃げ始めた。
城悟はそれを見て、苦渋を舐めたような表情をしながら一呼吸置き——ゆっくりと頷いた。
そこで俺は銃を降ろし、両手を上に挙げる。
「もう敵意は無いから安心してくれ。それと、堅持 城悟は俺と話し合いした結果、この避難所を離れる事になった。後の事は自分達で頑張ってくれ」
そこで建物の影から見ていた連中から声が上がる。
「ふざけるな!話し合いじゃなくお前が脅しただけだろうが!」
「堅持君屈してはダメだ!残って俺達を助けてくれ!」
「あの子『ホープ』持ちなんでしょ!?こんな奴倒しなさいよ!」
予想通りの反応だが……流石に城悟に頼りすぎじゃないか?そして誰一人前に出ようともせず、助ける気も無さそうだ。
「城悟、これがこいつらの本性だぞ。誰もお前を助けようととしない。それでもお前は助けるのか?」
城悟は黙ったまま、何も言う事は無かった。けれど俺は気にせずに話を続ける。
「俺と一緒に来れば、俺がお前を守ってやる。お前はそこで守れるだけの人を守れば良い。だから、もう……無理しなくて良いんだ」
俺は城悟の肩に手を乗せてそう言った。
城悟は何も言う事なくその場に立ち上がり、外へと歩き始めた。
俺と、爺さん達もそれを追い、学校の敷地から出て行く。
でも、まさか悪役をやるとは思わなかった。咄嗟に思いついたのがこの方法だっただけなんだが。これは城悟の気持ちを完全に無視した脅迫に間違いは無い。
項垂れながら歩く城悟に、飛び交う罵声。俺だって全く気にしない訳では無い。少しやり過ぎたのは反省するが、窓ガラスを割ったのだって天井を狙ったから大きな怪我をした奴は居ないはずだ。
避難所に関しては自業自得。後悔してももう遅い。
残るのは城悟へのフォローだが……そこは、後で考える事にしよう。




