同族嫌悪
「君が、この人を殺した?」
俺はまだ彼の言葉が信じられていない。
だが金髪の青年は笑い、こう話した。
「ああ、俺が食糧を渡せって言っても聞かなかったからな。家族の食糧がどうのこうの、うるせえんだよ。そんなの俺が知るかっての」
金髪の青年は腰から何かを取り出して右手に持つ。その手には、包丁。
「食糧を渡せば見逃してやるよ。ゴブリン達がきちまうだろ。ほら、さっさと寄越せ」
殺す必要があったのか?食糧を奪うだけでよかったんじゃ無いか?まだ少しだけど残ってただろ?分け合えば良かったじゃねぇか。
——それとも、この考えはただの偽善で俺の考えがおかしいのか?
「おい、何黙ってやがる!早くしろ!」
生きてるのはこんな奴らばかりなのだろうか?だとしたら、もう終わりだな。
「なあ」
俺は金髪の青年に声をかける。
「ああ?」
「助け合うって考えは無いのか?」
俺の言葉に金髪の青年は額に青筋を浮かべる。
「こんな状況で何言ってんだ?自分が生きる為なら、何したって良いだろうが!」
ああ、コイツも俺と同じか?けど、何か一緒にされるのは癪だな。俺はまだここまで堕ちてはいない。
俺は額に手を当ててため息をつく。
「はあ……」
「おい、何ため息ついてんだよ!マジで苛つくわ、もういい。死ね!」
金髪の青年が包丁を構えて襲い掛かってくる。
多分、同族嫌悪だな。俺もだから。
俺は銃を地面に捨て、右手で鉄パイプを持つ。これは短めで衝撃を付与したものだ。
そして俺は包丁目掛け、鉄パイプを振るう。
金属同士がぶつかり合う音——そして、衝撃に負けた包丁が、コンビニ外へと大きく吹き飛んでいく。
「……は?」
あり得ない事態に唖然とする金髪の青年。俺は構わずにそのまま胴を突くと、金髪の青年は大きく吹き飛び入り口付近へと戻される。
「ゲホッ」
金髪の青年は血を吐きだす。それを見た坊主の青年が駆け寄り、叫ぶ。
「お、おい!大丈夫か!?てめぇ!何してるのか分かってんのか!」
「俺は自分の身を守っただけだろ。少なくともお前らよりはマシな理由だと思うんだが」
俺は捨てた銃を拾った後、長めの威力付与の鉄パイプへと持ち替える。そして鉄パイプを引き摺りながら二人へと近づいていく。
「や……やめ……」
まだ起き上がれない金髪の青年の顔が恐怖に歪む。
そして坊主の青年が包丁を両手で構え、立ち塞がろうとする。
——それを見て、俺は鉄パイプで地面を思い切り叩き付けた。
割れる地面、飛び散る破片。普通ならあり得ない程の威力だ。
「ヒィッ!」
それを見た坊主の青年は握っていた包丁を取り落とす。
俺は二人に届く所まで近づき、鉄パイプを振り上げる。
「「うわあぁぁっ!!」」
叫び声をあげて顔を隠す二人。
俺はそのまま鉄パイプを振り——下さなかった。そのまま二人を放置して脇を通過し、コンビニの外に出る。
……こんな事で手を染めるつもりは無いな。少なくとも今は、まだ。
俺はそのまま道中のゴブリンを二匹倒しながら家への帰路についた。
あれだけ騒いだんだ、コンビニに近くのゴブリンが寄ってきてもおかしくは無い。けれど、青年二人がどうなったかは俺が知る由もなかった。
家に戻り、一息ついた後に考える。
生き延びた皆が、助け合って生き残るのは無理なのだろうか?もし、集団で生き残るのであればどんな手段を使えば纏まれるんだろうか。だが、俺の中でその答えは出なかった。
でも、避難所を見てみるのは悪くないかもしれない。確か近くの警察署に逃げ延びた人々が居たはずだ。そこなら本物の銃を触るついでに、避難所の現状が知れるかもしれない。
——行ってみるか、警察署に。