支配後 2
それから、俺と爺さんはスーパー内へと戻り話を始めた。
「爺さんは俺を軽蔑するか?」
俺の言葉に、爺さんは顎髭を触りながら返事を返す。
「どちらの意見も理解出来るが……儂の意見としては、あやつらは虫が良すぎるのう」
流石に、俺の意見には同意しないようだ。だが、あいつらが気に入らない所は同じらしい。
「俺は現状を受け止めて、前を見て考えるような奴らと組みたいんだ。今だけを考えて思考停止しているような奴じゃ、どうせ先が無いだろ?」
「ふむ……」
「明日課題を出して様子を伺う。それで、必死になれる奴だけを拾い上げる」
俺の考えが正しいかどうかなんて、やってみないと分からない。こんな事を想定したマニュアルなんて無いんだからな。
♦︎
昼過ぎになり、食事をとった俺はトリセツが言っていた事の検証を始めた。
それは『自動防衛』という特性についての検証だ。
トリセツが言うには、これをうまく使えば自動で敵の攻撃を行う防衛塔のようなものが作れるらしい。
何に付与するかまでは言わなかったのは、俺を試してでもいるつもりだろうか。どうもあいつはサポートの仕事を放棄している気がする。
防衛塔でイメージするのは、タワーディフェンス系のゲームだろうか。もしあのゲームに有る施設が四方に有れば、確かに防衛機能としては心強い。
安全地帯が有るのに、防衛する必要が有るのか?と思うかもしれない。だが……どうやら既に支配された領域はある事で奪うことが可能のようだ。
それは支配者となっている者を殺せば、そいつが持っている支配領域は全て殺した奴の物へと変化するという事。そして殺されたくなければ支配領域に篭ればいい、と俺も思った。
だが、支配された領域に侵入する手段が存在する。それは領域の境目に有る結界の壁を損傷させるという事。結界に大きな損傷を与える事で支配領域の機能が停止し、誰でも侵入できるようになるようだ。
結局、完全に安全な場所は無い。自分の身は自分で守るしか無いようだ。
「『特性付与』、『自動防衛』」
俺はまず、領域内の端に有る乗り捨てられた車に対して『自動防衛』を付与した。だが自動防衛という名前の通り、魔物が来ないと発動しない。そこで俺はゴブリンをここまで誘導する事にした。
近い所にいたゴブリンにわざと見つかり、俺は元の場所へと戻る。身体能力が上がっているお陰か、追いつかれるような事はない。
そして『自動防衛』を付与した車とゴブリンの距離が近づく。二十メートル、十メートル程では反応は無く、更に近づき五メートル。そこで『自動防衛』が発動する。
突然車のエンジンが掛かり、アクセルベタ踏みの速度でゴブリン目掛けて発車した。初速の関係でそこまで速くは無いが、鉄の塊がぶつかるという事だけで、生身のゴブリンを倒すには充分な威力だった。
車はゴブリンを轢き、そのまま真っ直ぐ直進していく。敵と判断したゴブリンが前に張り付いているんだ。そのまま進むのは当然だろう。
そしてそのまま加速した車は……ゴブリンもろとも民家に突っ込んで停止した。ああ、分かってる。これは失敗だ……。民家の持ち主の人、すまん。
恐らく動く物はそれを利用した迎撃になるのだろう。なら、地面に固定された物はどうだろうか。そう思い目に付いたのは電柱。高さもあるし、防衛塔のイメージには近い。
どうやって防衛するのかは予測出来ないが、取り敢えずやってみる事にした。
ゴブリンを確認した所の近くの電柱に、『自動防衛』を付与する。そしてまたゴブリンをそこへと誘導した。
その結果——五メートル近くまでゴブリンが寄っても、電柱は何も反応しなかった。ゴブリンは俺が撃って倒す羽目になってしまった。
「何か攻撃手段を付与しないと駄目か……」
一つで駄目なら二つ付与するだけだ。俺はそう思い、先程の電柱に『石弾』の付与を重ねがけした。
結果はまた失敗。……車は動いたのに何が違うんだ?
俺は領域内で座りながら頭を悩ませる。車に有るもの……エンジンやガソリンのようなエネルギー源か?なら、それに代わる物を……。
ただ、ガソリンなんて付与出来るのか?それよりも何か良いものが……ああ、そうか。
そこで俺は閃いた。今この世界にはガソリンよりも良いエネルギーになりそうな物が有るじゃないか。化学で証明出来なさそうな、アレが。
そして——三度目の正直。今度こそ頼むぞ、電柱。
俺の連れてきたゴブリンが五メートル内に入る。すると、電柱から石弾が放たれ、それはゴブリンの頭の中心を正確に撃ち抜いた。そしてゴブリンが緑の血を流し倒れるのを見て、俺は思わず手を握りしめる。
「よし、成功だ!!」
まだ範囲等の問題は有るし、特性付与三回という魔石を馬鹿みたいに使うという難点も有るが……何とか防衛塔は完成した。しかし、収穫が大きかったのは防衛塔よりも別の物だ。
付与した三つ目の特性、それは『魔力稼動』。
この特性を使う事で魔石によるエネルギーで稼動出来るようになり、補充もガソリンを集める必要も無く魔石で済む。
この特性は他の事にも活かせる筈だ。例えば電気で稼動する家電に付与すれば、魔石で動かせる家電に変化する。
そして魔力というものが存在すること。これは武器にも応用できる筈だ。夢の中の俺が使っていた光線銃……あれは、魔力によるものだったんだ。
俺の『兵器作成』の能力、既に武器の範疇を超えているような気がするんだが……まあ良い。今はこの成功と強くなる可能性を素直に喜んでおこう。




