領域支配 15 支配の恩恵
アカグロの体が半分以上灰へと変わった所で、爺さんが俺の側へと近づいて来る。俺は爺さんに目を向けず、呟くように話しかける。
「……これで何も無かったら、暫く立ち直れそうに無いな」
「ふむ……」
俺は爺さんは浮かない顔で顎髭を弄るのを横目に、ただアカグロが消えていくのを見据えていた。
「ん?」
アカグロの体が殆ど消えかけた頃、俺は灰の中に黒い物を見つける。
「これは……」
それは、テニスボール位の白くて丸い球だった。最初は魔石かと思ったが、どうやら違うようだ。
俺はそれを右手で取って手の平に乗せた。
するとその白い球が淡く光り、そのまま俺の手の中に消えていく。
「え、うわ、何だよ!?」
俺はその光景に戸惑い右手を慌てて振るが、既に白い球は消えた後だった。
次の瞬間、俺の脳内に情報が流れ込んできた事で、頭の痛みが強くなっていく。俺は右手で頭を抑えそれに必死に耐える。
「小僧!?」
爺さんが心配し駆け寄るが、俺はそれを手で制止する。
そうして頭の痛みが引くと、俺は既に流れ込んできた情報を理解していた。
「……領域の支配。それに、使い方……?」
気が付けば建物内は、赤黒い空間から……電気のついていないスーパーと変わらない光景に変わっていた。商品棚は未だに赤黒くオブジェクト化したままだが、今までの重くて異様な雰囲気は消えて空気が澄んだような気がする。
——俺の頭に流れ込んできた情報、それは領域支配に関するものだった。俺達がアカグロを倒し、白い球に触れた事で……どうやら、このスーパーの建物と外の駐車場は俺の支配下に置かれたようだ。
そして、どうやらこの領域は人や魔物の侵入を設定出来るようだ。基本的には許可した者だけが中に入れるようで、それ以外の人や魔物は見えない壁に拒まれる。
魔物に関しては、以前のように魔物だらけの状態にするか、魔物を全て排除するかどうかも選択出来る。これは、魔石を集める為なのだろう。
更にオブジェクト化したままの商品棚に関してだ。これは魔石を使用する事でオブジェクト化を解除出来るようだ。解除するまでは時間が止まっており、どうやら腐る事は無いようだ。
解除した物は減るので永久的ではないが、食糧の問題は暫くは考えなくて済む。
今回、俺が支配したのはスーパーとホームセンターなので、売り物を魔石により扱える事が支配した恩恵となる。
市役所や県庁、空港や駅といった施設に、山や観光地も大きなものはダンジョン化しているようだが……それらに関しては支配しないと恩恵の情報は得られないようだ。
最後に支配領域についての情報。支配下に置いた施設により支配の点数が有り、どうやらその点数の蓄積によって順位付けがされているようだ。
支配点は同じ集団とみなされればリーダーとなる者に加算されていき、順位付けはその集団全体での順位となる。
これに関しては……どうやって順位とやらを見るかどうかの情報は無く、順位による利点に関しても現状何も分からない。
だが——俺はこれは誰か……人間またはそれに近い者による作為を感じた。
そいつは俺達で何をするつもりなんだ?
このまま人類が滅ぶかもしれないのに、争わせるような要素を入れている?人が突如目覚めた『ホープ』に関してもそいつの仕業なのか?……どうやら、トリセツを問い詰める必要が有りそうだな。
新たに得られた情報で、新たな疑問ばかりが積み重なっていく。
だが確かな事は——俺は支配領域という安全な拠点を入手し、食糧を手に入れる手段を得た事。そしてそれらはまだ点在していて、支配下に置かれていないものが多数存在するであろう事。
今回、俺に爺さんどちらが死んでもおかしくなかった。だが、その苦労に見合う程の報酬が有ったんじゃ無いだろうか。
俺は痛む頭を押さえながら、そう思ったのだった。




