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兵器創造の領域支配者  作者: 飛楽季
2.領域支配と組織
45/142

領域支配 14 アカグロ戦終結

11/11.22時08分、内容改稿しました。

 俺達は爺さんが前を歩き、俺は少し距離を取りながら後方を歩くという形でアカグロを捜していた。

 だが俺達の足音以外の音は無く、耳を澄ましてもアカグロの居場所は分かりそうには無いし、その姿は簡単には見つることは出来なかった。


 棚の終わりで角になる箇所。そこでは爺さんの顔が一層険しいものに変わる。俺にまでその緊張感が伝わってくるようだ。

 そうして俺達は神経をすり減らしながらスーパーの中を歩くが、相変わらずアカグロの姿は見えない。



 ——まさか、ホームセンター側へと逃げたのか? そんな事を考え、集中力が切れかけたその時だった。



 爺さんよりも前方で……カツンと何かが床に当たる音が響く。

 その瞬間、俺達の意識はそちらに取られ、反射的に顔を向ける。そしてそこを注視していると、角の方から魔石が転がってきたのが分かった。


 爺さんはその場を確認しようと、刀を構えつつ角へと歩を進める。


 それを見て、俺は少し遅れて爺さんを追いかけ始めた——が。


「小僧!上だ!」


 角へ行き、周囲を確認した爺さんが振り返り、俺に向けてそう叫んだ。

 俺がその意味を理解し、商品棚の上へと目を向けた、その時には——既にアカグロが俺に飛びかかって来ている最中だった。


 アカグロは魔石を投げて意識をそちらに向け、その隙に棚を乗り越えて俺を狙って来たのだ。俺達はその単純な策に完全に嵌り、俺と爺さんが離れた状態でアカグロの奇襲は成功した。


 俺は反射的に爺さん側へと飛びのこうとする。だが、アカグロの手は既に俺へと届く所まで伸びてきていた。


「小僧!」


 爺さんはすぐに反転し、こちらに向かう。


 逃げようとする俺に対して、アカグロの手は俺の頭へと伸びる。そして……そのまま俺の頭を鷲掴みにした。そして飛び降りた勢いのまま、俺の頭を床へと叩きつけようとしている。

 俺は避けるのが無理だと判断し、体が宙に浮き叩きつけられる瞬間に右手の銃でアカグロの頭目掛け引き金を引く。左手は銃を捨て受け身の体勢。


「ギャッ!」


 アカグロは何か叫びつつも、俺の頭を離す事は無かった。


 直後、俺の後頭部が床に叩きつけられかなりの痛みが襲う。一瞬視界が暗転し、意識が飛びそうになるが、それはなんとか逃れたようだ。だが後頭部に響く鈍痛と視界がぼやけている状態で、アカグロが何をしているかが分からない。

 更に頭はアカグロに抑えられてて身動きも取れない。このまま攻撃が来たら、避けることなど無理だ。


 ——だが、その状況でも両手はまだ動く。


「『ウェポン……リペア……』」


 視界がぼやけてはいるが、重さからするに体の上には居る。俺はそこに可能な限り手を伸ばし、銃を突きつけるように引き金を引く。


「ギャァッ!」


 僅かに俺の頭を抑えたアカグロの手の力が弱まる。こいつ、これでも離さないのか……なら、もう一回だ。


「『ウェポンリペア……』」


 俺が銃弾を補充しもう一度銃の引き金を引くと、そこでアカグロの手による頭の拘束は解かれる。

 俺は痛みに耐えながら体を捻り、アカグロから離れようと試みる。


「小僧!鉈が来るぞ!」


 爺さんのその声で俺はすぐさま地面を転がる。その瞬間、何かぎ風を切る音と、何かが床に打ち付けられる音が耳元に響く。

 視界が見えないながらもなんとか大鉈を避けたようだ。俺はすぐに体を起こし、爺さんの声がした方向へと逃げようとする。


 だが次の瞬間、俺は背中に大きな衝撃を受け前方へと突き飛ばされる。


「ガハ……ッ!」


 恐らくアカグロに蹴りか殴るかされたのだろう。かなりの痛みを感じ肺から空気が漏れるが、これで爺さんとの距離は詰まった筈だ。床に転がりながらも俺は冷静だった。


「小僧!立って逃げろ!」


 爺さんの声はすぐ側。そしてやっと視界が定まり、状況が確認出来つつある。


 俺の後方では金属同士が打ち合う音が響き始める。これは恐らく、爺さんとアカグロが戦う音だろう。

 俺は起き上がり頭を押さえながら爺さん達の方へと振り返る。


 すると、爺さんの二振りの刀の連撃により、アカグロは防戦一方になっていた。アカグロの体に新たな傷が増えているのは、俺が攻撃した所だろうか。


「あまり持たんぞ!すぐに離れろ!」


 爺さんも全力なのか、刀を振りながら必死な表情をしている。俺はその言葉通り、少しでもアカグロから離れる為に可能な限りの速度で走り始めた。



 俺は痛みに耐えながら必死に考える。何かアカグロを倒す手段は無いのか。『連射』の銃だけでは火力が足りない。かと言って『弾肥大』では発砲の合間が空きアカグロを抑えきれない。


 この二つが合わさりでもすればいけるかもしれないが、『威力』を削ったらアカグロにダメージは通らないだろう。


 三つの特性……それを全て掛け合わせる事が出来れば、或いは——。

 そこで俺の頭に一つの言葉が思い浮かび、ハッとする。



 やった事は無いが、駄目元でやってみるしか無い。……ここから近い魔石の袋は、あそこか。


 俺は魔石を詰めた袋へと駆け寄り、それに手を触れる。


 俺が青いゴブリンに『全弾解放』を使った時、俺は意識の中でトリセツと会った。

 ——その時、トリセツはこう言ったじゃないか。




『『兵器作成』はとにかく作るしか有りません。あれに近道も抜け道も無いです。ですが、能力が成長した事によって、魔石を使う事で条件を緩和したり、特性を増やす事が出来るようになりました』




 特性を増やす事が出来る——そうトリセツは言った。


 物体に特性を付与する、『特性付与』。これは既に特性を二つ持つ武器に対して使えば、特性を更に増やす事が出来るんじゃ無いか?


 何故今まで気付かなかったんだ。これは完全に俺の失態だ。いや、ここで気づけた事で最悪の事態は回避出来たと思うべきか。


 俺は大きく息を吸い込み呟く。


「『特性付与(エフェクトグラント)』この銃に、『弾肥大(ラージバレット)』の特性を付与しろ」


 そう呟くと、俺の言葉に反応するかのように右手に持つ銃が淡く光る。そして、目の前に一枚のメモ用紙がヒラヒラと舞い落ちてくる。


 そこには——。



ーーーーーー

兵器取扱説明書


武器タイプ/拳銃 (ニューナンブ)

特性/『威力』『連射』『弾肥大』

弾/通常弾(最大5発)


補足/魔石を使用し特性の付与を行いました。


本日の作成可能数(2/2)

ーーーーーー



「よし!成功だ!」


 俺は思わず特性を付与した銃を掲げる。だがそこで俺の言葉に反応した爺さんの叫び声が聞こえる。


「小僧!何をしておる!逃げろ!」


「爺さんもう少しだけ耐えてくれ!勝つぞ!」


「お、おい!」


 俺はポケットにしまっていたもう一つの銃を取り出し、それにも『特性付与』を行う。それだけで魔石の詰まっていた袋は随分と軽くなっており、魔石の使用量はかなり多いようだ。


 ——後は、アカグロに向けてブッ放すだけだ。


 俺は爺さんとアカグロの戦闘地点へと急いで戻る。


「馬鹿者!何故戻って来たんじゃ!」


 俺が駆けつけると、爺さんはアカグロに押され始めていた。体の所々に傷が有り、血が流れている。もし逃げるのならこれは既に体力を消耗し過ぎだろう。



 爺さん、まさか……このまま死ぬまで戦うつもりだったのか?



 俺はてっきり爺さんも逃げるものだと思っていた。だがその考えが違っていた事に、俺は背筋が凍るのを感じた。


 戻って来て本当に良かった。爺さん、覚悟を決めてたのかもしれないが、まだ死なせないからな。


 俺は二丁の銃を構え、爺さんに向けて叫ぶ。


「爺さん!屈め!」


 すぐに爺さんは俺の声に反応し倒れるように床に伏せた。俺はそれを見た瞬間、二丁同時に銃の引き金を引いた。


 放たれる計十発の銃弾。それはアカグロの胴へと直撃し、その威力でアカグロをのけ反らせる。


「ギャァアアッッ!!」


 アカグロは痛みからか大きな叫び声をあげる。




「『武器修復(ウェポンリペア)』、『武器修復(ウェポンリペア)』」


 俺はアカグロに歩いて近づきながら間髪入れずに銃弾を放つ。決して逃げる間も防御させる間も与えはしない。

 アカグロは確実にダメージを負い、銃弾の当たった箇所は大きな傷になっていく。


「『武器修復(ウェポンリペア)』、『武器修復(ウェポンリペア)』」


 まだだ。俺の受けた傷、爺さんの傷。全てをお前に返してやる。まだ死ぬんじゃねえ。俺はまだまだやり返し足りないんだよ。




 響く銃声に俺の『武器修復』を行う声。そしてアカグロの悲鳴。

 それがどれだけ続いたのかは分からない。だが、アカグロの悲鳴は徐々に小さくなる。


 そして——ついにその体は床へと倒れ、アカグロの悲鳴も途絶えた。だが、俺はまだ止めようとはしなかった。


 まだ……まだだ、まだ足りない……。




「『武器修復(ウェポンリペア)』、『武器修復(ウェポンリペア)』」


 更に追い討ちをかけようとする俺に、爺さんが叫んで割って入る。


「小僧!もう奴は死んどる!もういいんじゃ!止めろ!やり過ぎじゃ!」


 爺さんの声で我にかえり、手を止めた俺はアカグロの姿を見る。至る所に穴が空き血が流れ、赤黒かった体は銃弾により黒い痣のようになっていた。

 床は一面赤黒い血溜まりと、目を見開き絶命しているアカグロ。爺さんが言うように……確かにやり過ぎたようだ。




 安心したからか、頭がまた痛みだしてきた。俺は銃から手を離し、その場に座り込み後頭部を抑える。



「……勝ったんだよな」



 そこでアカグロの体が徐々に灰へと変わり始め、その灰は建物の至る所へと散っていく。


 俺はそのどこか幻想的に感じる光景を、ただただぼんやりと眺めるのだった。

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