領域支配 3
「……それはどういう事じゃ?」
爺さんは複雑そうな表情をしながら顎髭を触る。
「爺さん、刀を貸してくれ」
俺がそういうと、爺さんはまたもあっさりと渡してくる。ただ理由を聞いた後だと、刀の重みがちょっと違うように感じる。
俺は刀を受け取り、更に袋に入れていた魔石を一握り取り出す。
「それはこういう事だ。……『武器修復』」
俺がそう呟くと、持っていた刀が淡く、白い光を纏い始める。
「ほう……」
爺さんはそれを見て、驚かずに感心したように呟く。
そして、刀を纏っていた淡い光が収まると……刃の欠けた部分が無くなり、まるで一度も使っていないような新しい刀がそこにあった。
「まだこれだけじゃ無い。……『効果付与』。この刀に『頑丈』と『威力』を付与する」
今度は刀が青白い光を纏う。俺はその光が収まったのを確認し、爺さんへと刀を返した。
爺さんは刃を隅々まで眺めたり指で叩いたりする。そして暫くしてから感嘆の声をあげた。
「これほどの刀……見た事が無い。刃が薄くなり斬りやすくはなっておるが、全く華奢な感じが無い……」
「ああ……見た目が僅かに変わったのか、それは悪かった。戻す事も出来るがどうする?」
爺さんは口角をあげてニヤリと笑う。
「まさか。これ程の刀、早く試したくてうずうずしとるわい」
「思い入れの有る刀なんじゃ無いのか?」
「それはそれ、これはこれじゃ。今の儂にはこの刀の魅力の方が上回っとるよ」
爺さんの言葉を受け、俺は苦笑いする。この爺さんは歳の割に随分と血気盛んのようだ。このはしゃぎようを見てると、とても爺さんに見えないな。
本心では指導途中で死なれるのが困るから、というのが大きいんだが……ま、これなら大丈夫そうだな。
そこで俺は魔石を握っていた手を開く。すると一握りの魔石はほとんど消えていた。
——『武器修復』と『効果付与』
これはトリセツから後で教えてもらった新たな『武器作成』の能力だ。
『武器修復』は武器を新品同様に修繕する能力。さっきの刀のように刃が欠けても修繕出来るし、銃に使えば弾の補充としても使える。だが魔石を消費するので、あまり多用出来ないのが現状だ。
『効果付与』は既に作成された物へ能力を付与するもの。この付与は武器だけに留まらないようで、様々な事に応用出来そうだ。だがこれも魔石を消費するので、武器に限って言えば作成時に付与した方がコストパフォーマンスは良いだろう。
「ところで……」
「何だ?」
「お主の得物はどうするんじゃ?儂はこの刀だが、流石に貸し続けるわけにはいかんぞ?」
「ああ、それなら大丈夫……だと思う。けれど、今日は回数限度だから無理だな」
爺さんは溜息を吐き、俺を呆れた顔で眺める。
「……お主は何でも有りじゃのう。もう呆れるしか無い」
「それは褒め言葉として受け取るよ。爺さん、俺は灰間 暁門だ。明日からよろしく頼む」
「……柳 道唯じゃ。灰間の小僧、明日から覚悟しておけ。儂の指導は泣くほどに厳しいぞ」
「残念だな。俺はもう泣かないと決めたんだ。どんなに辛くても耐えてやるよ」
俺と爺さんは互いにふっと笑う。
そうして——俺の修行の日々は始まった。




