領域支配 2
「なあ爺さん。俺に刀の扱い方を教えてくれないか?」
爺さんは俺の言葉に首を傾げる。
「小僧はもう十分に強いであろう?今を生き抜くだけなら充分では無いか」
「生きるだけならな。けど俺はもっと強くならなきゃならないんだ。誰よりもどんなものより強くなって、その人に会わなきゃならない」
「……よく分からんのう」
「それについては確証は無い。だが、少しでも可能性は高めたいんだ」
爺さんは顎髭に触ってからその口を開いた。
「まあ、良いじゃろ。儂も目的こそあれ、特にする事も無いしのう」
「……目的?」
俺が疑問に思っていると、爺さんはふっと笑いこう言った。
「儂は死に場所を求めておる。最後に華々しく散れる場所をな」
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それから俺の弾が切れるまでゴブリンを倒し、爺さんを連れて自宅まで戻ってきた。
まさか沙生さんの後、家に上げるのがこんな爺さんだとは全く予想していなかったが……まあ良いか。
食事をとり落ち着いた後、俺は爺さんと世間話を始めた。
「爺さん、死に場所を探してるってのはどういう事だ?」
俺の質問に爺さんは真剣な表情になり、それからゆっくりと語り始めた。
「儂の家族……息子夫婦に孫娘の三人はゴブリン共に殺されたんじゃ。儂が異変に気付き、道場に保管していたこの刀を持って家に戻ったときにはもう手遅れじゃった」
道場って事は剣道か何かだろうか?それで刀を持っていれば、ゴブリン位なら相手にする事は可能か。
「息子は剣道で中々の実力者であったが、孫娘を庇うように……共に死んでおったよ。……そこで儂は怒り狂い、周辺のゴブリン共を切り捨て続けた。何故儂のような老いぼれだけ生き残り、まだ未来のある者が死ななければならんのか、とな……」
爺さんは一呼吸置いて話を続ける。
「怒りが覚めた頃には儂は返り血に染まっておった。だが、それで孫娘や息子夫婦が戻ってくるわけでもない。だが、目的も無い儂はゴブリンを殺し続けることにした。このような老いぼれの体力が何時迄も持つわけが無いし、いつか刀も折れ、死ぬ時が来るであろうと思ってな」
「だが——ゴブリンを倒し続ける度に、何故か儂の体には力が宿り、ゴブリン程度では全く相手にならなくなっていた。途中会った青いのはちぃとばかし手強かったんじゃが、儂を殺す程ではなかったのう」
ゴブリンを倒した事で逆に体が強くなったって事か。確かにあのペースで倒してれば実感できる程に強くなりそうだが。
「だからいつか強者と出会い、儂の刀が折れる場所……死に場所を探し求めて旅しておったんじゃ。ま、既に刀も欠けておるし、もうそろそろかもしれんのう……」
一通り話終わったのか、爺さんはため息を吐く。
「理由はなんとなく分かったよ。だが爺さん、死ぬのはまだまだ先のようだな」
俺の言葉に爺さんは首を傾げる。
「刀が折れれば流石に諦めるぞ?」
俺は爺さんにふっと笑いかける。
「爺さん、その刀少し貸してくれ。爺さんも運が無い……俺と出会ったせいで、爺さんの目的はまだまだ先になりそうだ」




