警察署と避難民 7
……あのゴブリンに俺の銃は通用するのだろうか。通用しないのであれば、周囲のゴブリンを削り撤退を考えなければ。
幸い、青いゴブリンはまだ動くことが無く戦いには参加していない。
俺はそのまま車の上から加藤さん達を援護する。近づくにつれてゴブリンの倒れる数は増え、状況は良くなっているように見える。
そして俺は声の届く所まで来ると、加藤さん達に声をかけた。
「加藤さん!村田さん!ゴブリン達に隙ができ次第、すぐに撤退を!俺が数を減らします!」
俺も加藤さん達も、戦いを続けながら会話をする。
「……灰間君か!?何故君が……いや、分かった!」
銃による攻撃で、ゴブリンの数は着実に減っていく。加藤さん達も様子を伺って、逃げようと模索しているようだ。
俺はマガジンが空になった銃を投げ捨て、新たな銃へと持ち替える。銃の予備はあと二丁しか無い。
弾は、足りるのか?
不安を感じつつも、悩んでいる余裕は無い。俺はただ、一心不乱に銃を撃ち続けた。
ゴブリンの立っている数は三十から二十へ、そして十へと減っていく。その代わりに銃の弾は切れ、これが最後の二丁だ。
この状況でもまだ青いゴブリンは静観している。
「弾が限界です!今すぐに撤退を!」
「……っ!分かった、村田君!八木君!3、2、1で走るぞ!」
「「了解!」」
俺は撤退するであろう方向へと攻撃するゴブリンを絞る。右手の銃だけで撃ち、その半分の弾は使ったと思う。
そこで加藤さんが叫ぶ。
「行くぞ!3……2……1……!」
加藤さんがカウントダウンを始めた瞬間、青いゴブリンが行動し始める。警察の人が使っていたであろう、鉄槍を地面から拾ったのだ。
俺はそれに気付いたが、止めるのも間に合わない。ならせめて……!
俺は両方の銃を青いゴブリンに構える。
「0!」
その声と共に、加藤さん達が一斉に走り始めた。そして……それと同時に青いゴブリンも動き始める。
俺は青いゴブリンに最大限の弾を放った。
だが、その弾は青いゴブリンの肌を……貫く事は無かった。
届いた数発の石弾は青いゴブリンの皮膚を浅く傷付けるだけに終わり、青いゴブリンは怯むことなく行動を続ける。
「……チッ!」
俺は行動を止めれず舌打ちし、危険と判断したので加藤さん達へと近寄ろうと距離を詰める。
村田さんともう一人がゴブリン達の脇を突っ切り、残るは加藤さんだけ。
だが——そこで奴は凄まじい速度で移動を開始した。
気づけば包囲を抜けきれていない加藤さんの前に立っており、鉄槍を振りかぶっていた。
……マズい!
「加藤さん!」
俺の手の届かない距離。
加藤さんと青いゴブリンの距離が近すぎて銃も使用出来ない。
そして——青いゴブリンはその鉄槍を横薙ぎに振り抜いた。
「な……っ!」
加藤さんもそれに気付くが、防御の体勢に慣れていない。
鉄槍は加藤さんへと……届いた。それは無防備な胸に直撃し、同時に骨の砕ける音が聞こえた。加藤さんはそのまま元いた方へと吹き飛ばされ、車へと打ち付けられる。
「ガァ……ッ!」
加藤さんは崩れ落ちるように項垂れ、その場に多量の血を吐き出す。
「クソッ!」
俺は車から飛び降りて加藤さんに駆け寄る。
異変に気付いた村田さんたちが、青いゴブリンへの対応へと向かう。
「加藤さん!」
加藤さんはまだ呼吸をしていた。だがその呼吸は正常ではなく、目も虚だった。
「灰間君……」
「喋らないで下さい!」
「私は……もう、駄目だ……見捨て……」
「まだ大丈夫!意識をしっかり!」
胸の辺りを触っただけで、それが正常な形では無い事が分かる。このままだと……だが即時に手当てなんて出来る訳がない。まだ戦いは続いている。
「グァッ!」
声に反応して振り返ると、村田さんと一緒に青いゴブリンと対峙していた警察の男性が、鉄槍で胸を貫かれていた。
鉄槍が抜かれると、男性はその場に倒れ込み、そこから血溜まりを作られる。
そして普通のゴブリン達が俺に迫って来ていた。俺はすぐに銃を構え、それを屠っていく。
状況は壊滅的。
俺は、どうすれば良い?考えろ、まだ何か手が有るはずだ。
そこで、俺の脳裏に夢の中の光景が浮かぶ。それは、夢の中の俺が、沙生さんを殺したもの。
『全弾解放』
——あれなら、青いゴブリンの皮膚を貫けるかもしれない。




