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兵器創造の領域支配者  作者: 飛楽季
4章 死者への哀悼、死者冒涜
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県庁攻略 2

 領域化した県庁の内部に入ると全体的に薄暗い空間だった。電気があった所が点滅しながらぼんやりと光り、普通であれば辛うじて歩く事ができる程度。


(まあでも俺には見える)


 身体能力が上がった影響か、何故か急に夜目が効くようになった。なので周りは懐中電灯やヘッドライトに頼っているが俺にはそういった装備は必要ない。


 だが光源が三十近くもあれば、領域内の魔物に見つけてくれと言っているようなものだ。最上階の十八階まで直通する非常階段に着くまでは、多くの魔物と遭遇することになるだろう。


「……進むぞ」


 そんな俺の思いを知ってか知らずか、皆市は皆に向けて一言言うと先へと進み始めた。


 案の定一階では多くの魔物と遭遇した。現れたのは赤いゴブリンや狼で、外で出る魔物に比べれば明らかに強い部類。だがそれらは全て先行する皆市によって屠られていった。


(全て拳で一撃か)


 その手には黒い手袋を付けているものの、金属が仕込まれた物ではなく皮で出来た普通のものだ。俺もナックルのような武器を提供しようとしたのだが、体よく断られてしまった。


(見たところ、ガチガチに硬いパワーファイターだな)


 皆市の戦闘スタイルは敵が攻撃してくるのを待ち、それに合わせて殴るだけ。また敵の攻撃に関しては避ける事さえせず、ナイフだろうが牙であろうが全てを受け切っていた。だが、彼女の体には見えない壁が存在するかのように傷一つ付いていない。


(椿が素早さと技術で敵を翻弄するテクニカルタイプなら、皆市は馬鹿みたいに高い攻撃力と防御力を持つステータスのごり押しタイプだな)


 ゲームのように感じてしまうもののこの言い方がしっくり来てしまう。


「なあ爺さんどう見る?」


 俺は隣で感心しながら皆市の戦う様子を見る爺さんに話しかけた。


「アレは恐らく斬れんのう。だが、技術面が無いのが勿体ない」


 俺も爺さんの意見に同意した。皆市は多少戦いには慣れているものの、恐らく格闘技などの経験は無い。その理由は、殴りも蹴りも身体能力が上がっている筈なのに遅すぎる。

 まあ、それが分かっているからこそ敵が止まる攻撃のタイミングを狙いカウンターでの撃破をしているのだろうが。


 そこで俺は興味を失い皆市の戦いを見るのをやめた。






 それから暫く。非常階段に到達した集団は少しの休憩を取った。

 岩倉は皆市にゴマを擦り始め、他の連中は緊張からかとても疲れた様子でその場に座り込んだ。


(中の様子は特に変化は見当たらない。それにここから先は最上階まで階段を登るだけだ)


 全て問題が無いはずなのだが、トリセツの言葉がどうしても頭から離れない。


(気をつけて、か。でも一体何に気をつければ良いんだ)


「欠伸が出るほど順調じゃのう。だがお主、険しい顔をしておるが何か不安要素でもあるのか?」

 

 爺さんの言葉に首を横に振り答える。


「……分からない。だが、何かあるとすればボス部屋だ。爺さんも一応いつでも動けるように身構えておいてくれ」


「相分かった」



「おいお前達休憩は終わりだ!行くぞ!」


 岩倉の言葉と共に休憩が終わり、俺達は非常階段を登り始めた。





 

 そして道中階段に数匹の魔物は居たものの特に問題もなく最上階に繋がる扉前へと到達した。


 その最上階のフロアなのだが、ここは扉の先は県庁内部の構造とは違っている。それを説明するのなら、異空間の部屋に飛ばされるとでも言えば良いのか。そこは五十メートル四方程度の広さで、壁も床も黒く、まさしくボス部屋という場所になっている。


 またボス部屋に入っても出れないという事はなく、来た扉から非常階段に戻れば引き返すことも可能だ。恐らく皆市達もそれは理解している筈だ。でなれけばここにボスがいると分かりようがない。




 何故俺がそれを知っているかと言えば、皆市から聞いた訳ではなく()()()()()()()()()


 以前県庁攻略を進めるために、俺達は一階からこの一八階まで非常階段を使わずに踏破した。そして実際にボス部屋にも入り戦った経験が有る。だからこそこの先の空間を把握している。


 それから集団から少し離れた場所に移動し、爺さんと小声で会話を始める。


「さて灰間の小僧……あやつらは勝てると思うか?」


「まあ、最初は楽勝だろうさ」


 俺の答えに爺さんは苦い顔をする。


「ふむ……騙しているようで心苦しいのう」


「それなら爺さんはここで待ってて良い。わざわざ辛い思いをすることは無い」


 爺さんは首を横に振って答え、それから皆市達の方へと目を向ける。


「……世界が変わり多くの者が死んでしまったと言うのに、何故生き残った者達同士で争わねばならんのかのう」


「それは……」


 俺はその問いに即答出来ずに言い淀んでしまった。


 俺は即答出来なかったものの争いが起こる理由なんて分かりきっていた。それぞれの目標、目的が同じで、それが一人しか得られないものであるのなら、当然争いが起こる。

 後はその争いを回避するか、力尽くで勝つかはその個人の想いによるだろう。


 ただ爺さんはそれが聞きたい訳ではなく、恐らく周りくどく目標を再確認しろと言っているのだろう。


 中央区の支配してからの日々は一言で言えば平穏だった。西区という対抗勢力はいたものの、武器により魔物は脅威とならず、碧によって食糧の供給にも目処が立った。


 俺は少なからず今の状況に満足していたのだろう。だからこそ爺さんの問いに即答出来なかった。


 ただし俺は沙生さんを見つけたいし、この世界を変えた元凶に辿り着きたいと思っている。決してここまでくる為の目標を忘れた訳じゃ無い。



(実際はトリセツの事が引っかかっていたんだが、爺さんには俺が迷っていたように見えたんだろうな)




 俺は周りくどく検討外れな爺さんの行動に思わず笑ってしまう。


「……悩んでいたと思ったら急に笑いおって。気味が悪いぞ?」


「いや、随分とお節介な爺さんだと思ってな」


「ほっほっほ、そのお節介をされたくないのなら、その浮かない顔を止めるんじゃのう。お主には傲慢な態度の方が似合っとるわい」


 爺さんはそう言うと俺から目を離す。


(……全く。爺さん人を気遣うのなんて苦手な癖に)


 俺はそんな人物に心配された事を反省しつつ、少しだけスッキリとした頭でボスとの戦いの事に考えを集中させるのだった。


 

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