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兵器創造の領域支配者  作者: 飛楽季
4章 死者への哀悼、死者冒涜
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西区からの敵

 その後、特に問題も起きずに俺の支配下となる中央区へと入った。そこで安田さんは外の風景を見て目を見開く。


「これは、稲が……」


 俺は安田さんにフッと笑いかける。


「この辺りはそろそろ収穫時期ですね。どうです?あの早瀬の能力も捨てたもんじゃないでしょう?」


 金色に色が変わった稲穂が実り、頭が垂れている。八月の初旬ではあり得ない光景だろう。この一帯は中央区では貴重な田や畑がある区域で、ここを碧の能力の試験場として使っている。


 既に結果は出ており、収穫した米も野菜も配給し始めている。恐らく夏野菜は二度目の収穫が期待出来る見込みだ。


「一回あそこで止めましょう。それと農業経験者の方がいれば、このままここで働いてもらう事にします」


「あ、ああ。恐らく数人は居た筈だ」


 近くにあるビジネスホテルの脇にトラックを止め、中へと入っていく。ここには農業チームが三十人程泊まっており、ここを管理しているのはなんと碧だ。


 というのも、元は農家出身の人をリーダーとしていたのだが、その人は碧にノウハウを引き継いでこの場を去ってしまった。この場を去った——と言う事はそう言う事だ。俺は引き止めたが、結果は変わることがなかった。


 その話も数週間前の話で、それから碧は人が変わったかのように真面目に取り組むようになった。


「あ、丁度居たな」


 ビジネスホテルのロビーに着くと、碧や他数人が周辺地図を見ながら打ち合わせをしていた。


「おい、碧。順調そうだな」


 俺が声をかけた事で気付き、碧は顔をあげる。


「灰間さんー何か久々な気がしますね?と、それと……えーと、そうだ!安田さん達だ!」


 ……俺とは週に二回位会ってるだろう。それに安田さん達の顔、忘れてたのか?


「早瀬さん久しぶり!来る時に外の稲を見せてもらったよ!うーん、……言うなら豊穣の女神ってところかな?」


 安田さんの奥さんが碧を持ち上げる。でもコイツ、褒めると……。


「えへへ、女神なんて照れますね。灰間さんもこうやって褒めてくれればやる気も出るし可愛いんですけどね?」


「俺にそんなものを求めるな。それに結果を出した事はちゃんと誉めただろうが」


 碧は頬を膨らませる。


「えー。心がこもってない良くやった、なんて言われても嬉しくないですー。もっと感情を出して褒めて下さいよ!」


 はあ……付き合ってられん。


「あー……二人はまだそんな感じなのね。灰間君が名前で呼んでるし、私達てっきりねえ?」


「ああ、こんな状況だし二人が付き合っていてもおかしくはないと話していた」


 俺は安田さん夫妻の思いがけない言葉に戸惑ってしまう。


「いやいや、それは無いですって……なあ碧?」


 碧は俺の言葉に口を尖らせる。


「私は知りませんよーだ」


 その返答に俺は額に手を当て空を仰ぐのだった。






「あ、そう言えば……灰間さんが来たら急いで来るようにって、椿さんが言ってましたよ?珍しく焦った様子でした」


「それを早く言えよ!明らかにトラブルだろうが!予定変更で安田さん夫妻と村田さん達だけで行きます。碧、避難してきた人達をどこかで休ませておいてくれ」


「はーい。それ位ならやりますよー」


 悪びれもしない碧に呆れながら、俺達はトラックに乗り込み領域の中央拠点へと向かった。

 



♦︎



 中央拠点は、この領域で一番最初に支配した商業施設だ。元々ここを中心に動くことを考えていた為に、魔改造は済んでいる。


 そしてここを取り仕切っているのは、早瀬碧の父親である早瀬 豊さんだ。信用出来るので最初任せたら上手に管理するのでそのままここの責任者としている。


 俺は商業施設の中に入り、早瀬さんに声をかける。


「早瀬さん!今戻りました。それで……何かトラブルでもあったんですか?」


 早瀬さんは表情を強張らせながら返す。


「それが……どうやら昨日、西区が支配されたらしい。領域の広さから言って、区役所を落としたのだろう」


 早瀬さんの言葉に思わず舌打ちをする。


「菅谷を偵察に行かせていた限りじゃ、まだ攻略する素振りが無かったはずだ。なのに……?」


 西区には警察を中心とした勢力がおり、俺達はその勢力の状況を姿を隠すことのできる菅谷に偵察させていた。だが菅谷の見解ではスーパー等を支配するのに苦労する程度で、区役所に手を出せる強さは無いとの事だった。


 利点が無いので菅谷が虚偽の報告をするとは考え難い。だとすれば、答えは——


「俺達の偵察には既に気付いていて、欺いていたか……」


 偵察に気付いた理由までは分からない。孝のように索敵に向いたホープ持ちがいるのかもしれないし、考えたくは無いが裏切った者がいる可能性も有る。


 どちらにせよ俺の行動が遅過ぎたのが悪い。拠点の安定を優先し他勢力を甘く考えて放置していた結果だ。


「それともう一つ悪い知らせが……」


 早瀬さんは言いにくそうに話し始める。


「……何ですか」


「西区寄りの領域が侵略され、一部が西区の勢力下に置かれた」


 領域の壁に一定の損害を与えると、その領域の壁が後退する事になる事は俺も既に検証済みだった。

 更に領域が隣接している場合はその領域に統合され、侵略した側の領域となってしまう。


 嫌な予感が頭を過ぎる。何故なら……西区近くには重要な施設が有るからだ。


「まさか……」


 早瀬さんは頷く。


「……県庁が西区の領域内に取り込まれたようだ」


 俺はやはり、と思った。恐らくずっと西区区役所の攻略を行う機会を伺っていたのだろう。そして区役所が目的ではなく、本当の目的は県庁の攻略と支配。


 あまりに手際が良過ぎる。それに加えて自分の考えの甘さにため息しが出ない。


「領域の侵略がそれだけ早いとなると、かなりの手練れが居るのは間違いないですね……」


 俺が領域の侵略を検証した時、魔石の消費を無視した全力の攻撃で、30分で50メートルほどだった。だが、西区の領域から二キロは離れている県庁までを一日で侵略したとなれば——俺よりも火力に特化した『ホープ』持ちが居るのは間違いが無かった。


「今は堅持君、御渡君、椿さんの三人が様子を見に行っている。状況はその三人の方が詳しいと思う」


「……分かりました。俺もすぐに向かいます」



 俺は早瀬さんにそう告げて、商業施設を飛び出していった。

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