ヴィオラ
ヴィオラの見守りを任されるようになってからニコラスは彼女の魔術の能力を確認していた。
彼女の治癒魔術と呪いの解析能力はずば抜けて高い。
おそらくカタリナ王国で彼女程の治癒魔術の腕を持つ者はそういないだろう。
城に勤めるどの魔術師も無理であった呪いの形、場所を把握していただけはある。
彼女は森の中何度も立ち止まり周りを確認して、前に進んだ。
それを繰り返してようやく1つの木の前で立ち止まりそこに手をあてた。
バチっと火花の音がしたと思えば木の幹にじわりと紋様が浮かび上がってきた。
「呪いを見つけました」
ヴィオラは真剣なまなざしで呪いの解除の作業に映った。
この時は周囲のことがみえていない。
呪いの解除をしている間魔術師は無防備である。
ニコラスはいつも通り周りに注意して護衛を務めた。
周りには誰もいない。
だが、獣が現れることだってある。
呪いの場所に魔術師が現れたことに気づいた呪った人間がこちらに近づいてくるかもしれない。
だから治療院では呪いを見つける作業は2人以上でとルール付けられていた。
今のところは大丈夫なようである。
2時間程してヴィオラはふうとため息をついた。
くるりとニコラスの方へ向け帰りましょうと笑うが、膝ががくんと崩れてしまう。
倒れ込みそうになったところをニコラスが手を差し伸べて支えた。
「ありがとう、ニコラス」
「お疲れでしょう。治療院まで運びましょう」
そこで報告を終えたらすぐにメリッサの家に帰る為の馬車を捕まえよう。
「大丈夫です。ちょっとふらついただけです」
「転んでけがでもされれば私がメリッサ様に怒られてしまいます」
何のための護衛だと嫌みたっぷり言われるだろう。
「じゃあ、森の入り口までお願いします。そのころには足の力も戻っていると思いますし」
何度か行動を共にして気づいた。
メリッサはそこまで言うほど引っ込み思案な性格ではないし、人と接触するのが苦手なようではなかった。
治療院でも一人一人の患者の前では堂々としている。
苦手なのは複数人の者らの前に立つことのようだ。
それでも言わなければいけない意見があるときは何とか声をだしている。若干声が震えているが。
気になってつい質問してしまったことがある。
ヴィオラは苦笑いして自分のことを語ってくれた。
幼少時から大勢の人の前に立つのが怖いのだと。
ようは大勢の前に出なければ、また気の許せた者に対しては普通でいられるのだ。
「はぁ、大勢の前に立つのが苦手……熱を出す程ねぇ。それでは結婚式の時は」
「結婚式は何とか踏ん張りました。初夜の時に熱を出して寝込んでしまいました。ルジェド様には申し訳ないことをしてしまいました」
ヴィオラはかぁっと顔を赤くした。
ルジェドはたいそう驚いたようであるが、必死に自分のことを説明しヴィオラはどうか人を呼ぶのはやめて欲しいと懇願した。
この程度で熱を出したと知られればカタリナ王国の大臣たちがシャロン国をどう評するか。
自分の面倒な性質はさぞかしルジェドに迷惑をかけるだろう。
「ルジェド様は受け入れてくださりました」
ルジェドはヴィオラに強く社交の場に来るように強制はしなかった。
最低限の、国の大事な式典さえ顔をだせば後は休んでよいと配慮してくれた。
ヴィオラは感謝して、表に出なくてもできる限りのことをしようと必死になった。
多くの後宮の事務管理について寝る間も惜しんで勉強して妃としての仕事には集中した。
表では、ルジェド王とヴィオラ王妃は夫婦の仲としては冷めていると噂されているが、ルジェドはヴィオラに強制するのを避けていただけである。
数日に一度は仕事を切り抜けて夕飯を共にするくらいはしていた。
といっても夫婦らしいことはそこまでできていないのだが。
「王妃としては本当に未熟だったと思います。マーガレット様がいらっしゃってから少し安心しました。複雑でもありましたが」
王妃の代わりに社交界を華やかにしてくれるマーガレットの存在にヴィオラはいくらか助けられた。
無理に出なくても社交界は華やいでくれる。
このままマーガレットがルジェド王の子を産むのも仕方ないと考えていた。
ヴィオラは世継ぎを産むことを強く望まれていなかった。
結婚に反対であったアリーシャ女王はそこまでは求めていない。
ルジェド王が無体を働けば、戦争になってもいいので帰ってきなさいとまで言ってくれた。
むしろルジェドと男女の関係を結んでいないことに安堵しているようであった。
姉が女王になってくれたおかげで、自分の妃としての役割、王の子を産むということは急かされずに済んでいる。
そこまでの話を聞いてニコラスはため息をついた。
ちょっとアリーシャ女王は過保護すぎでないか。
一応自国から出した王女なのだから、王の子を産むことを望まずましてや王が何かしようものなら帰ってこいとすら言うなど。
それについて後日メリッサに言うと、メリッサはしょうがないものとおおいに笑った。
「元々アリーシャはヴィオラの輿入れには反対だったし、女王になった暁にはヴィオラを呼び戻すとすら言っていたくらいなんだから。まぁ、国の交友上それは難しいということでヴィオラが耐えられなくなるまでは我慢していたよ」
ますますニコラスは頭を抱えた。
不謹慎ながら、王の病のことがなくてもいずれはヴィオラの件でひと騒動起きていたのかもしれない。