不穏な予言
サロン部屋へ通されたニコラスは椅子へ座らせられてメリッサの酒の相手をさせられた。
「何故、王妃様が治療院に」
「私が推薦した」
メリッサは酒をごくごくと飲みながら答えた。
「治療院では身分隠しているからヴィアと呼ぶようにと」
確かにヴィオラに対する態度は王族に対するものとは違った。
ヴィオラのリハビリがだいぶ進み手足も動かせるようになった為、メリッサはヴィオラにどこか行きたいところとかないかと聞いた。
ヴィオラは治療院と答えた。
メリッサは治療院であれば問題ないかと推薦状を作成して向かわせた。
彼女の推薦であれば、治療院の魔術師は歓迎した。
「まだ簡単なことしかできないと思うけど、少しずつ大きな仕事も任されるようになるだろう」
中には厄介な呪いの類も含まれているかもしれない。
治安の悪い土地や危険な森などに向かうこともあるかもしれない。
「その時はお願い」
ニコラスの護衛を頼りにしているとメリッサは笑った。
やはりはじめからそのつもりであったかとため息をついた。
「治療院でも中央の王族・貴族が行くとこの方がよかったのでは」
「女王の目の届かない場所で自分なりで頑張りたいんだって」
確かにアリーシャ女王であればヴィオラを気にかけまくるであろう。
ヴィオラの為の新しい治療院を立て騎士を配属させるかもしれない。
「一応あそこの連中はヴィオラの正体は知らない。何もないイオという娘だと思っているから、その辺よろしく」
「危ないのでは。身分低い者が多く不衛生な者も訪れる。乱暴を働く輩も出るだろう」
その場合は他のスタッフも手を貸すと思うが、社交性が低いヴィオラにとってトラウマになりかねない。
「ヴィオラは人付き合いが苦手というより、王族・貴族らの集まるああいった雰囲気が苦手なだけだ。一人一人だったら大丈夫だよ。それにトラウマとなったらまた引き籠ってもいい。私が面倒みる」
メリッサは何のこともないとチーズをぱくっと口に含めた。
「治療院だけではない。呪いの為に危ない森や治安の悪い場所に行くかもしれない」
「別に問題ない。君がついているし」
メリッサの笑顔にニコラスは深くため息をついた。
「私は君の治療魔術は期待していないが、戦闘・護衛面に関しては信頼しているんだ」
あまりの言葉にニコラスは胸にぐさっと鋭いものが刺さっていくのを感じた。
自分でも理解しているが、ニコラスには治療魔術の才能はない。
よくいって平凡なものである。
平凡なりに母国に持ち帰る技術・知識がないかと探してみているが、果たして母国の魔術師たちがそれを必要としてくれるのか疑問である。
「俺がこの国にいつまでもいれれば別ですが……」
「そうだな。1か月くらいあの子の面倒をみてくれれば十分だ」
それくらいの時間があれば、ヴィオラは自分で何とかできるようになっているだろう。
何故そんな具体的な日数を提示してくるのだろう。
「そろそろ連絡が来るのかなと思うが……」
メリッサはこくりとワインを飲みながら教えた。
「君の母国、戦争を始めるぞ」
その言葉にニコラスは驚き起ち上がった。
「オーギス国が国境付近で不穏な動きがあって、そのうち宣戦布告をするぞ。目的は肥沃な土地ルースかな」
確かにあの土地はよくオーギス国に狙われていた。
15年の戦争で終結し、オーギス国はカタリナ王国の出した条件を飲み終戦を宣言した。
その条件は定期的に国境付近の貧しい地域に食糧を支援するというものだ。
そこまでの恩情をかけたというのに、何という恩知らずなのだろうか。
ニコラスは拳を握りしめた。
あの戦争に参加したことがある。
まだ新人でうまく立ち回れなかった。
多くの兵士・魔術師が死に、自分の知人もいた。
あれだけの犠牲を払いながらようやく得た和平をオーギス国が潰すなど。
「それなりに大きな戦争となるだろう。君を呼び戻す手紙が届くはずだ」
1か月後のことだとメリッサは予言した。
「ま、今すぐに母国に帰っても僕は全然構わない。ヴィオラの護衛がいなくなるのは残念だが、代わりは用意できるし」
今日はもう遅いので休めとメリッサはそういいニコラスに部屋へ戻るように促した。
その日、ニコラスは眠りにつけなかった。
今すぐ母国に帰るべきか否かで悩んで、結論が出せずにいた。
母国のことなのだ。王族に仕える従軍魔術師であった身、すぐにはせ参じるべきだろう。
だが、ヴィオラの姿を思い出し心配でもう少しここにいたいと考える自分がいた。