女王の来訪
メリッサの元で目を覚ましてからリハビリを開始した。
食事はまだ柔らかいものしか食べられないが今は匙を利用して介助なしで食事可能となった。
ベッドから起き上がって支えられる形であれば立つこともできるようになった。
まだ窓際まで動くことができないが、1か月あれば動けるようになるだろう。
目覚めた時から傍にいたねずみはまるで応援するようにヴィオラの傍をてくてく歩いていた。
とても可愛らしい応援家であり、ヴィオラはますますリハビリに励んだ。
昼ごはんの時、ふと気になってメリッサに尋ねた。
「ニコラスは見かけませんが」
「ああ、今は治療院にいるよ」
治療院は父王の代に作られた治癒魔術の為の施設である。
本部は城内にあるのだが、郊外にもある。
設立の際はメリッサも関与していた。
基本は治癒魔術の研究、教育の場である。
そして郊外の方では病や呪いに苦しむ人へ無償で治癒を提供する場所であった。
ニコラスが行っているのは郊外の方の施設だという。
「この10年、私の推薦で郊外の治療院で勉強する許可を出している」
ヴィオラの治療に関しては初歩的なことしかできていなかったという。
元々は戦闘に特化した魔術師であり、治癒に関しても応急処置的なものさえできれば何とかなったのだろう。
そうしているうちに基本的なことも疎かにしているとメリッサは見抜き、推薦状をたたき出しニコラスを治療院へ通わせたのだ。
嫌でも毎日色んな人間の治癒を目の前でみて勉強させれば身についてくれるだろう。
「10年でだいぶましになったけど、それでも荒は目立った。体力だけはあったから、おかげで君の容態変化の時は助かったこともあるけど……うん、あれは治癒魔術には向かない」
本来であれば戦闘魔術で生かされる人材だったのだろう。
メリッサの彼の治癒魔術への評価は低い。
「勉強をしながら私を助けてくれたのですね」
「そんなのでカタリナへの不信は変わらないけどね。まぁ、ニコラスは少し信用してやってもいいかもしれない」
メリッサにそう言われるのだからたいしたものである。
「……おや」
クラッカーとチーズを頬張りながらメリッサは窓の外をみた。
かたりと音を立て椅子から立ち上がり、窓際に立つ。
「どうしたのですか?」
誰か来たのか。
自分も窓の外を見てみたいが、自力であそこまで歩くことはできない。
「お客人だ」
誰だろうかと問う前に扉は開かれた。
相も変わらず眩しいとヴィオラは目を細めた。
「姉上」
椅子から立つことができず、何とか座ったまま礼を行う。
この国の女王アリーシャ、ヴィオラの姉である。
アリーシャはずかずかと部屋の中へ入っていく。
ノックくらいしなよというメリッサの声は無視して。
「ああ、ヴィオラ。私の可愛い子」
ぎゅっと力強く抱きしめられた。
甘い花の香りがして、ふんわりとしたぬくもりで包み込まれる。
久方ぶりの姉の抱擁はとても嬉しい。だが、ちょっと苦しい。
「ああ、ごめんなさい。久々で力加減がわからなかったわ」
「姉上、ご心配をおかけしました」
「全くよ。あんな男など見殺しにしてしまえばよかったのよ」
アリーシャは再びヴィオラを抱きしめた。もう手放しはしないと必死に訴える。
アリーシャ女王はヴィオラの姉である。
母親を同じくしているため他の兄弟姉妹の中で一番近しい存在であった。
ヴィオラがカタリナ王国へ嫁ぐ際、最も反対していたのはアリーシャであった。
だが、先王の意志は変わることなく、ヴィオラはカタリナ王国へと嫁がされた。
「おかえり、ヴィオラ」
優しい声で迎えてくれる姉の言葉にヴィオラはじわりと目頭が熱くなるのを感じた。