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ことの真実

 しばらくお茶を楽しんだ後、メリッサは今までのことを説明していった。


「10年前、ルジェド王が病に倒れた時、城内は多くの医療に特化した魔術師がてんやわんやとしていた」


 メリッサの切り口にニコラスが補足する。


「ですが、原因は全くつかめず、治療部だけでなく戦闘部でもある私も駆り出されました。それでも原因は全くつかめず」

「そんな中唯一気づいたのがヴィオラだった」


 メリッサとニコラスはヴィオラをじっと見つめた。

 治療チームたちの努力むなしく、ルジェド王の身体は弱っていく一方であった。

 悲観に暮れる中、ヴィオラは病の正体を見抜いてしまった。

 ほんの一度だけ、ルジェド王の見舞いに訪れた時ヴィオラは彼の病の正体を察して治療部の誰かに相談しようと思った。

 だが、1秒でも惜しいと議論を交わしている魔術師たちはヴィオラの存在すら無視し続けた。

 仕方ないとヴィオラは単身病の正体、呪いの元となる場所を探り当てた。


 1つはルジェド王の部屋の近く、ちょうど彼の寝室の下の階の部屋であった。

 ヴィオラはその部屋の天井の裏に呪いの道具を見つけた。

 それを1つ解呪していって、まだ他にもあると気づいて彼女は城中を動き回った。


 ヴィオラの存在は誰からも気に留められず彼女は城中のルジェド王を呪っている根幹を絶っていく。

 呪いを絶っているうちにヴィオラはその行為が不十分であったことを悟った。

 呪いの一部は自分の中に入り込んでしまっていた。

 ひとつ呪いを解く毎に腕や腹に火傷を負う。

 足までやられた時は歩くのもしんどかった。


 メリッサに相談すれば何か他に良い方法があるかもしれない。

 だがその時間も惜しかった。

 呪いに触れる毎、ヴィオラは呪いの恐ろしさを感じた。


 これはルジェド王を確実に殺すためのものである。

 早めに解いていかなければ命が危うい。明日死んでしまうかもしれない。


 ヴィオラは自身に叱咤して、最後の呪いのもとへと向かった。

 城の敷地内にあるとはいえ、遠い外れの塔である。

 かつては魔術師が星の展望の為に利用されていたというが、新しい施設が建てられてから一切使われることはなくなったという。

 

 ヴィオラは塔の階段をあがっていった。

 疲労と火傷の痛みに耐えながら階段にあがり、最後の呪いのもとへとたどり着いた。


「塔の上にあがってからの記憶はあまりないのです。もう呪いの苦痛で頭の感覚が麻痺していたので」

「馬鹿だな」


 メリッサはヴィオラを抱きしめた。


「どうして私に相談しなかったのだい」

「先ほども話した通り一刻を争うと思ったので」

「別にあの男が死んでも良かったじゃないか。そうすれば君はシャロン国に私の元へ帰ってくればよかった」


 ニコラスは眉を潜めた。

 ニコラスにとっては自国の王であり崇拝の対象なのだ。

 それを軽々しく死ねば良かったと言われるのは気分ではなかった。


「なんだい。自称弟子よ。文句があるなら早々カタリナ王国へ帰り給え」

「……ヴィオラ様は呪いを解いた後、王は快方へ向かわれた」


 ルジェド王の回復を祝っている最中にヴィオラの不在に気づいた。

 ヴィオラの使用人とルジェド王であった。


 捜索しているうちに今まで発見されることがなかった呪いの痕が発見され、最後に塔の中で重体のヴィオラを発見した。

 すぐに治療部の魔術師が対処していたが、既に息は途絶えていて死亡が確認された。

 治療の最中にある者は興奮して叫んだ。

 ヴィオラがルジェド王を呪い殺そうとしたのだ。


「ひどいことだよ。王を救おうとしたヴィオラを悪女にしたてるなど……それがカタリナ王国の品性というものなのだね」


 メリッサの辛口にニコラスは言い返すこともできなかった。

 それは本当のことである。

 魔術師の誰も呪いの存在に気付くことができなかった。

 唯一気づいたヴィオラを誰も救うことができなかった。

 そして彼女を悪女として祭り上げてしまった。


「しかも、なんだい? ヴィオラの身体を市中引き回して処刑台で八つ裂きにしてしまおうという意見が出たとか? 何て愚かなことだ。実際やってみれば、私が……、その前にシャロンの女王が許さなかったことだろう」

「その通りです。証拠は不確実、あの呪いの痕跡だけではヴィオラ様の有罪を確定するのは難しい。もう少し分析をした方がいいという意見が出ましたがその意見すらももみ消される始末……このままではカタリナとシャロンの戦争が始まってしまう」


 ニコラスはルジェド王の元へ直訴した。


 今二国が険悪な関係になるのは得策ではない。

 シャロン国は小国であるが、優秀な魔術師を輩出し魔術資源に富んだ国である。

 ここはヴィオラ王妃の身体をシャロン国へ送り届け恩を売ってしまおう。


 ニコラスの説明にメリッサはぴきっと青筋をたてた。

 前も聞いていた話のようであるが何度聞いても面白くないと感じた。


「もう十分険悪だけどね」


 メリッサの苦言にニコラスは苦笑いし、先ほどの話の続きをした。

 自分の説得にルジェド王は納得してヴィオラの身体を綺麗に整え彼女の母国へ送るようにとニコラスに命じた。

 ニコラスがヴィオラを送り届けた時、シャロンの女王アリーシャは人目を気にせず泣き、ヴィオラの身体にすがった。

 しばらくして女王は身を整えてニコラスへ礼を述べ、メリッサを呼び寄せた。

 メリッサはヴィオラの肉体に触れ、すぐに察した。


「ヴィオラはまだ生きている」


 呪いの影響で死んだようにみえるだけである。

 だが、このまま時過ぎれば死んでしまう。

 メリッサは彼女のドレスを剥ぎ、女王にみせた。

 身体中に張り巡らされた呪いの文様に。


 ニコラスも驚いた。

 カタリナ王国で治療を施している間にこんなものは見られなかったからだ。


「余程、カタリナ王国の魔術師は大したことないのだろう」


 メリッサは挑戦するように笑った。

 とはいえ、呪いはかなり複雑なものであったということは事実である。

 魔術師の面を持つアリーシャ女王もこれには気づかなかったのだ。


「さすが、賢女メリッサ」


 女王の呼ぶ名を聞きニコラスはようやく気付いた。

 シャロン国建国の際の功労者は大陸随一の賢者であった。

 大魔術師として名高いエムリス。

 彼が他界した後は孫娘のメリッサがシャロン国の王の相談役となっていたのだ。

 祖父の名に恥じない魔術、知見により国を支え続けたため、賢女と呼ばれている。


 メリッサはすぐにヴィオラの身体を自分の館へと運び、治療を開始した。

 ニコラスは役目を終えてそのままカタリナ王国に帰国する予定であったが、メリッサの魔術としての腕前にほれ込み弟子入りを志願した。この際、カタリナ王国に連絡して許可をとっている。


 メリッサははじめニコラスを邪見にしていた。

 ヴィオラを特に気に留めようとしなかったカタリナ王国の魔術師など信用できなかった。

 早めに帰国すればいよいと追い出そうとしても、彼はしつこくメリッサの館を訪れて願い続けた。

 メリッサはあまりに邪魔なのでいるのであれば利用してやろうと考え言った。


 ヴィオラの治療に協力すれば弟子にしてやると。


 ニコラスはそれを信じ彼女の手伝いを始めた。

 今ではメリッサの助手のような扱いであった。


(メリッサ先生の助手、苦労しそうですね)


 口には出さないがつい思ってしまう。

 メリッサは気づいているようでむにっとヴィオラの頬をつねった。


「ヴィオラ王妃」


 ニコラスは改めてヴィオラの前に膝をついた。


「ルジェド王を救ってくださりありがとうございます。王に仕える者としてあなたに心より感謝を」


 突然のお礼の言葉にヴィオラは顔を真っ赤にした。


「そ、そんな……私が勝手にしたことですし」

「いや、ヴィオラはもっと感謝されるべきだよ。なのに、カタリナ王国の恩知らずどもは君をむむ……」


 メリッサは思い出すごとに歯をぐぎぎっととさせた。美しい顔が台無しである。


「メリッサ師匠、それはやめた方がいいですよ。歯が傷つきます」


 さすがにニコラスも注意するが、メリッサはうるさいと一蹴した。


「まぁ、他にも色々話す内容はあるんだけど今日はここまで。後はしっかりと静養して栄養つけてリハビリしてしまおう」


 そういいメリッサはヴィオラを抱き上げた。

 その時、メリッサの部屋の中にある鏡がみえてそこに映る自分をみてヴィオラは驚いた。

 確か、メリッサたちはルジェド王の呪い事件は10年前だと言っていなかったか。

 メリッサに抱き上げられているのは十代の少女であった。

 あの呪いを受けて長い眠りについた時と同じ姿だ。

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