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目覚め

 ぱちりと瞼を開くと寒い場所ではなかった。

 暖炉に火がくべられ、置かれている鍋の中でぐつぐつと湯の沸く音がする。


 傍らに手のひらサイズのねずみがいた。

 もこもこのまんまるのねずみ。

 間抜けな顔ですぴすぴと眠っている。

 こんな大きな人間の傍で寝て潰されると心配しなかったのだろうか。


「ああ、起きたのだね」


 若い綺麗な女性がにこにこと目覚めた少女に挨拶をしてきた。

 自信にあふれた薄紅の瞳にはきらきらと星屑が散って見えた。

 白い真っ白な肌、白い髪、それに合わせたように白いローブを着ていた。


「ご機嫌はいかが。ヴィオラ」

「メリッサ先生」


 彼女に再会したのは何年ぶりだろうか。

 カタリナ王国へ嫁いでから彼女に会ってなかった。


「お久しぶりです」

「おやおや。せっかくなんだからはぎゅーっとしてくれてもよいではないか。私はいつでもスタンバイしているのだよ」


 両手を広げる仕草は大げさだ。

 どこかつっこんだ方がいいのだろうか。

 それよりも今知りたいことがあった。


「私、死んだのではないのですか?」


 その言葉にメリッサは笑った。


「もちろん死にかけたさ。君の体は呪いに蝕まれ非常に冷たく、息もしていない心臓も動いていない仮死状態であった。カタリナの魔術師程度では治癒は厳しい。あのまま放置されれば間違いなく死んでいた」


 だが安心したまえとメリッサは胸を叩いた。


「馬鹿なカタリナ王国でも並みの魔術師はいたようだ。彼が君を私のもとへ運んできてくれた」


 メリッサは胸を張って自分を褒めたたえた。


「とはいえ、随分酷い構造であり解読するのに時間がかかりひたすらヴィオラの延命を繰り返しながらちまちまと呪いを外していった。私とニコラス、二人がいなければ君は死んでいただろう」

「ありがとうございます」


 ニコラスという名前に心当たりがないのだが。

 それでもヴィオラは助けてくれたお礼を伝えた。


「ニコラスは君をこのシャロン国に届けてくれたカタリナ王国の魔術師さ。あのままカタリナ王国に帰らず私の弟子になることを志願してきたよ。当然却下した。しかし、なかなか引き下がらず君が無事目を覚めたら考えてやろうと君の延命、解呪作業に手を貸してくれた。今はお茶菓子を買いに行かせているからいないのだが帰ってきたらお礼は言ってもいいかもしれないね」


 ヴィオラはじっと両手を見つめた。

 あんなに熱くてひりひりと痛かった体が何もない状態だ。


「だが、一部痕は残っている。本当は綺麗にしたかったんだけどね」


 メリッサはちょんとヴィオラの襟元を指で引っ張った。

 胸元に赤黒い文様がついている。

 まるで蜘蛛の糸のように左の胸を取り囲み、ぐるぐると網を張っているようにみえる。


「だいぶ薄くなっているが、これではドレスは胸元を隠したものしか選べなくなったな」


 メリッサは残念そうにため息をついた。


「さて、お茶でも飲もうかな」

「あ、では私が淹れます」


 ヴィオラはベッドから起き上がろうとしたが、思うように起き上がることができなかった。

 手と足に力が入らない。


「無理をしないで。今の君は筋肉がほぼ機能しなくなっている。何しろ10年も寝ていたからね。寝返りも満足にできない状態だ」


 10年という言葉にヴィオラは驚いた。

 まさか、あの呪いにかかった日から10年も経ったのか。


「お茶を淹れながらもう少し詳しく整理しよう」


 そういいメリッサはお茶の準備を始めた。ヴィオラは頭の中で10年という言葉を反芻させ、部屋の中をぐるっと見渡した。

 メリッサに体を抱きかかえられ、椅子へと運ばれる。元々見かけによらず力もちであるのは知っていたが、慣れた手つきである。


「そりゃそうさ。10年の間、君の体を何度もベッド、風呂、椅子と抱えて移動させていたからね」

「お、重かったでしょう」

「なに、君の体は軽い。口からものが摂れるようになったらうんと栄養を入れていこう」


 椅子に座らされ、膝にはショールがかけられた。


「ありがとうございます」


 ヴィオラは再度お礼を言い、目の前のお茶をみつめた。

 メリッサのお茶とは違い、氷をいれて冷やされて、ストローがささっていた。

 手を動かすが、思うように器を持つことができない。

 器も思ったより重いと感じ、少しずらしたところでストローに口をつけた。


 メリッサに声をかけられながらゆっくりと中のものを自分の元へと運ぶ。

 ごくりと飲み込むだけで疲れてしまった。だが、ちゃんとのどの奥まで運べている。


「飲み込み、問題ないね。まぁ、体動かなくても水分、栄養は必要だから君の口に適当に入れていたのだ。呪いで死にかけて眠った状態だったというのに、ものを飲み込むことだけはできていたのはさすがヴィオラだなと思ったよ。王妃になっても食い意地が張っている」


 ヴィオラは顔を真っ赤にした。

 王妃になってからはなるべくシャロン国の恥にならないように徹していたつもりである。


「ただいま戻りました」


 ローブ姿の青年が現れ、メリッサに挨拶をした。

 そしてヴィオラをみて驚いて声を失った。


「先ほど目を覚ましたのだよ。買ってくれた焼き菓子をここに置いてくれないかな」


 メリッサは殻の皿を示して、ローブ男はその通り皿に焼き菓子を盛りつけた。

 美味しい匂いがあたりを包み込んでくれた。


「焼き菓子を買ってきてもらっていたけど、ちょっと難易度高いかな」


 久々の焼き菓子に喜びヴィオラはじぃっと見つめた。

 それをみてメリッサは笑ってマフィンをスプーンで小さくちぎりヴィオラの口へと運ぶ。

 マフィンを口に入れたが、一部うまくできずにむせこんでしまう。


「どうぞ」


 ローブ男は冷めたお茶をヴィオラの方へ運んだ。

 ストローを口につけてヴィオラはこくこくと冷えたお茶を口にいれていった。


「液状のものなら問題ないけど、固形はまだ先か」


 メリッサはヴィオラの今の食べ方をそう判断した。


「すみません。え、と……」

「ニコラスといいます」


 ローブ男はにこりと微笑んで挨拶をした。


「私をメリッサ先生の元へ届けてくださりありがとうございました」


 他にも自分の救命の為手伝ってくれたということもあり重ねてお礼を言う。


「いえ、私は……あなたを死なせるのはカタリナ王国の為にはならないと判断したからです」


 ヴィオラは首を傾げた。

 存在を忘れ去られそうになったとはいえ、王妃を守る義務からきた行動だったのかもしれない。


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