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世界の管理者は人間の生を追求する  作者: 水坂鍵
前章1(第5章):最高神の誕生
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第22話:未来の村

第22話です。遅くなりました。


 この国一帯を支配する地神(ちしん)である『緑の地神』は、己に与えられた部屋の中でモニターを開いて人間たちを観察していた。

 彼(彼女でも良い)には性別はない。身長は自由に操作することができるが、今は160cmくらいだ。


「……ああ、近づいてきた」

 最近、緑の地神は苛立ちの感情を覚えていた。彼がそんなことに脳を支配されることは珍しい。彼は見た目こそただの人間と同じであったが、実のところこの国一帯をただ1人で管理する力を持っている。圧倒的な強者であり、本来弱者である人間の行動にいちいち反応などしない。


石山芹(いしやませり)……こいつは何で下位地神を食える?」

 彼は何度も何度も部屋の中でぼやく。モニターに映る表情の見えない男がどんどん自分がいる場所へと近づいてくるたびに、ないはずの心臓の鼓動が速くなるようだった。

「まさか、こいつは人間じゃないのか?」




***




「はい。楽しい電車とバスの旅が終わりました」

「清々しい顔をするな」


 出発してから早11時間。俺たちはついに目的の県にある目的の村へとやってきていた。

 村は山に囲まれており、村の入り口は一つだけ。村へは最寄りの駅からバスで2時間かかった。時期もあるだろうが、バスには俺たち以外誰も乗っていなかった。


「普通こういう自然に囲まれた場所は空気が綺麗なはずなんだがな……」

「空気、ですか?」

「なんとなく黒ずんでるというか、どんよりとしているように思わないか?」

「そうですねー。ちょっと分からないです」

「そうか」


 今のは聞く相手を間違えた俺の責任だ。


「……お」

 バス停から近い場所に、村の入り口であろう『門』があった。そしてその姿は俺が想定していた村の入り口の姿とは異なっていた。

 なんというか、近未来的とでも言えば良いのだろうか。非常にメタリックで、所謂古くからある村のイメージとは違うものだ。別にそれがいけないとかそんなことはないが、変わっているのは確かだった。


「最新鋭ですねー」

「そうだな……」

「顔認証とかでしょうか?立派な門ですが、門番の方はいませんね。せっかくですから私が」

「あ、ちょっとま」

「ぐわあ」

(せり)!」


 無防備に門に近づいた(せり)は、門の上部に取り付けられていた隠しカメラに見つかった。そして瞬時に門の一部から開くようにして現れた小型の銃のようなものに5発ほどお見舞いされてしまった。

 ただ、銃に体を何回か撃ち抜かれたために傷口から少しだけ血を出したが、すぐに傷が塞がったらしく、特に苦しんでいる様子はなかった。


「敵対的ですね。今はただの訪問者なのですが」

 芹はこちらへ戻ってくると、服に空いた穴を俺に見せながら少し笑った。


「笑うところじゃないだろ」

「まあまあ」

「しかし、ここで何言ったとしてもどのみちあの村には入らないといけないんだよな?だとしたらどうするか真剣に考えないといけないな」

「そうでしたね。どうしましょうかねー。流石に私も急に撃たれるとは思っていませんでしたよ。はは」


 彼は戯けているようだが、実のところこの表情をしているときの(せり)という人間が物事に対して真剣に向き合っていることを俺は知っている。常人離れしたその思考をフル回転させ、目の前の問題を解決しようとしている。そしてその彼がすぐに行動せず「どうしようか」などと言う時は、簡単な解決策がない時に他ならない。


「残念ながら、実力行使には実力行使をすることしか思いつきません。せっかく門があるのですから、門から入りましょう。カメラが設置されているようですし、直接交渉しましょう」

 結局門の前に戻ることにした芹は、俺をその場に留まらせ、ささっと歩いていった。


「──こんにちは。私は石山(いしやま)(せり)と申します。私は旅人です。村の中に入ることは可能でしょうか?」


 少し大きめの声で彼は叫ぶ。カメラ越しにそれが届いているのかは分からないが、彼はただ声を出して、門の前に立ち続ける。そして先ほどの再放送のようになるが、再び現れた銃に当然の如く彼は撃たれ始めた。今度はそれを避けることも、それから避難することもない。連写される弾丸を、彼はただその肉体のみで受け止めることにしたらしい。

 実に2分ほど数えきれない弾丸が発射され、門の前の地面のタイルがぼろぼろと傷ついた。銃は弾切れを起こしたのか、一旦停止する。不死である芹は変わらずに立っていたが、流石に彼の体の下には血が溜まっていたし、既に彼の上着は破壊されていた。


「私に敵意がないことはわかっていただけましたか?」


 銃はもう動かなかった。そして、重く閉ざされた門が開く。


「お、やりましたよ、御形(ごぎょう)くん」

「おお……」


 門が開いた先には、真っ白なタイル張りの廊下が続いていた。

 村の入り口の門であるにも関わらず、その門の先には村らしきものはない。一瞬誰かの家に入ってしまったのかと思ったが、目的地はここで間違いなかった。


「綺麗な場所ですね」

『私が掃除してますからね!』

「おや?」

『外の方ですよね?珍しいですね!私は何でもロボットです。最新のAIが搭載された最新の優秀なロボットなんですよ!』

「そうでしたか」


 何とも言えない気持ち悪さで、俺は心臓を吐き出しそうになった。

 門を抜けてすぐに、俺の芹の後ろに誰かがいて、それに俺たちは全く気付かなかったから。それに、ロボットだと名乗った彼女の姿は全く人間と同じで、むしろ感情の表現のうまさで言ったら申し訳ないが芹よりも人間らしかった。その自然さが不自然さを俺に植え付けた。


「観光でしょうか?いえ、この村は部外者は入れないはず。であれば、客人でしょうか?ということは、村長のもとへ案内しないと!こちらへ!」


 ロボットは自然な仕草で、はきはきと1人で語り続ける。そして俺と芹の手を取って引きつれる形で、そのまま早足で駆けていく。幸い俺と芹が置いていかれるほどの速さではなかった。

 『村長』がいるらしい部屋までの道は、まるで何かの研究所のような、近代的すぎる異様な街並みであった。


「どうぞ!」

「ありがとうございます」

「いいえ!ごゆっくり!」

 頭を下げ、ロボットは再びどこかへ駆けていった。


「さて……ここですか」

「本当に入るのか?」

「入らないことには何も始まりませんよ」


 芹は部屋のドアに手をかざしてみた。彼はおそらく自動ドアであることを期待したのだろう。しかし、何も起こらない。

「あ、ここに少し光っているものがありますね」

 よく目を凝らしてみると、ドアの右側の上あたりに何かセンサーのようなものがある。マンションのエントランスでよく見るやつに比較的似ているのではないだろうか。


「キーとか必要でしょうかね」

「キーか、顔認証か、その他か。分からないが少なくとも鍵がかかっている以上、俺たちは入れないんじゃないか?」

「ふむ、なるほど」


 芹はさりげなく、ドアに手のひらを当てた。それを見て俺は嫌な予感がしたので芹の手を掴んだ。


「無理やり開けようとはするなよ?」

「冗談ですよ」

「冗談になってない」

「ふむー」

「ここがもし例の地神(ちしん)がいる部屋なら、最悪無理矢理入っても良いかもしれないが、普通に村長がいる部屋なんだとしたら、器物損壊でしかないだろ。村にもほぼ不法侵入してるようなものだろ」

「そうでしたね。ちょっとノックでもしてみましょうか」


 芹は右手で軽くドアを叩いた。ドアは銀色で鉄っぽい見た目であり、正直ノックをしても反対側に音が届くようには見えない。


『カンッ』

「なんだその音」

「多分この状況ならこの鳴らし方が一番向こうに届くはずです」

『カンッ』『カンッ』『カンッ』『カンッ』『カンッ』

「大丈夫か、これ」

「大丈……あ、ちょっと御形(ごぎょう)くんはこの中へ!」


 珍しく少し強引に、芹は俺を芹が持ってきた盾の後ろに隠した。この盾は、芹と大学時代の仲間が共同で作った、普段は胸元に入れることができるほどの大きさに圧縮できるがスイッチを押すと人1人が隠れることができるほどに大きくなる盾だった。なお、普通の科学技術だけではこれを作ることは困難であった為、芹が地神を倒すことで得た一部の権限を利用している。


「うおっ!?」

「結構な爆撃ですね」


 先程まで何もなかったはずの鉄っぽい銀色と白色で構成された無機質な空間に、突然真っ黒な銃と、真っ赤なレーザーが溢れた。

 芹が言った通りに盾に隠れていなかったら、俺は確かに危なかっただろう。こういうとき、活動する上で俺も不死になりたいと思わなくもない。銃弾を受け取りたい訳では決してないが。


「……ん?」

 そして──5分ほどの耳が痛くなるほどの銃声が晴れた時、通路は現れた。

お読みいただきありがとうございます。

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