第20話:ルート
第20話です。
「第二段階です」
「……もうか?」
島の一件から3ヶ月が経ったある日、芹は俺にそう言った。
「私はあの地神を体に入れることによって、一定の権限と、あの地神の中にいた人間を蘇生することができるようになりました。しかし、それではまだ足りません。分かりますね?」
「全ての人間を蘇生できるようにならないといけないんだよな?」
「そうです。そのためにはすぐにでも新しい力を手に入れなければならなりません」
「……あ?なんだこれ」
「これからの予定を妄想した資料です」
「………」
芹が俺に渡してきた10枚ほどの紙の束には、これでもかというくらいに文字と写真がぎっしりと詰まっていた。
───
【ルート】
①第一段階:地神(地域)【済】
②第二段階:地神(国)→地神(世界)
③第三段階:神(世界)
④第四段階:王(あの世)
───
「……前に言ってたやつか」
「はい。今回の件を踏まえて、『友人』と擦り合わせました。この順番が妥当だと思われます」
「なるほど……」
こうやって文字に起こされると、スケールが大きすぎて本当におかしくなりそうだった。
今俺の隣にいる1人の人間は、この世界そのものを支配する神を屠ろうとしているというのである。
「おそらく、死者を蘇生すること自体は権限的に考えれば広域な支配を行う上位の地神を取り込んだときか、もしくは世界を支配する神を取り込んだときには可能になると思います。ただ、それはそれとしてあの世の存在である王もいつかは取り込まないといけないでしょう。神たちにはあの世での権限がほぼないからです」
「そうか……まぁ、まだ先の話だな」
「そうですね。頑張りましょう」
資料には、今から2ヶ月後の連休中にこの国を支配する地神を倒すための旅行プランが書かれていた。
「能力一覧……ね」
芹あの地神の戦闘能力を取り込んだ際に、その戦闘能力……というのだろうか?よく分からない超能力のようなものを複数手に入れた。
そしてその結果機械に頼らなくても戦えるようになったわけだが、実はこの3ヶ月間、芹は土日に地神を狩っていた。
本人曰く悪事を働いていた者だけを対象にしているとのことで、俺は特に干渉せず留守番をしていたのだが、想定していたよりも今の芹は人間離れしているようだった。
「火を吐く……滝を生み出す……雷を呼び寄せる……地面を粉々にする……物騒だな、本当に」
「物騒だとは私も思います」
よく分からない能力がたくさん資料に載せられていた。腐っても神であるということなのか、自然災害を呼び寄せるようなものも多い。多分芹が嫌いな能力だろう。
「あとはシンプルに身体能力が上がりました。回復力も。今までただ死なないだけでしたから、これは役に立ちますね」
「そうか」
よくよく考えると、この男は人を生き返らせるために神になろうとしているのだ。神になることが目的ではなく手段であるというのは、ある意味面白いことだが。
「『友人』曰く、ここまで暴れていると流石に上位の地神にマークされそうとのことです。まぁどのみち私はより上位の神たちと対峙しなければならないようですから、丁度良いですね」
「そうだな」
今ふと思ったが、そういえば、今の芹はどのような扱いになるのだろうか。地神を飲みこんだ彼は、地神になったのだろうか。
もしもそうなら、土地を支配するどころか管理する気もないただの1人の人間が、土地の神になってしまったということか。
「ここまでくると、もはや色々と見てみたくなってくるな」
***
「……計画は順調に進んでいますが、そろそろ仕掛けてくる頃合いでしょうね」
芹の中で生活し始めてかなり経つだろうか。
死神としてただ機械のように動いていたときには時間の流れなど感じなかったはずだが、今はどうも、まるで自分が毎年歳を重ねていっているかのような感覚に陥ることがある。
いや、もっと言うならば、毎年という概念が私の中に芽生えたこと自体が驚くべきことなのかもしれない。
「間違いなく芹を狙ってくるのはあの地神でしょう」
さて、この国一帯を支配する地神だが、それは私がその実体をはっきりと認識している中で最も上位の存在だった。世界全体を収める地神や、その上に存在する本当の神も、私はその存在自体は知ってはいるが実際のところどんな存在であるのかは知らない。
私はあくまであの世で少しだけ権限が強目だった存在にすぎない。もっといえば機械の中でも少しだけズレていたにすぎない。
実のところ、私たちはこれから未知のゾーンに突入するのである。
「……しかし、あの時は驚きましたが、こうしてみると……悪くなかった」
ただ機械のように与えられた仕事をこなすだけの永遠を生きるよりも、今の方がよっぽど面白い。
私は様々な感情と触れ合うことができる。そして、世界を観察できる。
これより楽しいことなど、この世に他にあるだろうか。
ただ、私と直接会話できる彼が、私ですら感じることができる『もの』を感じとることができずに苦労しているということだけが、唯一残念な点だった。
***
ピンポン
「………おや?」
「ん?」
インターフォンが鳴った。
配達だろうか。何も頼んでいないはずだが。
「はい」
「すみません、白根草です」
「おや?」
どうやら、玄関前に白根草さんが来ているらしい。
そういえば彼女はあの一件以来、この家に何度か来ているという。今まではたまたま俺がいないときに来ていたらしいから全く意識していなかった。
「お邪魔か?」
「邪魔?何がですか?」
「お前……」
「はい?」
結局芹は生まれた時から住んでいる実家をそのまま利用している。だから俺の家も近いこともあってほぼほぼ自分の家か芹の家にいる。今まで訪問者なんていなかったからそれで全く問題なかったが、これからは少しこの家にいる時間を調整すべきか。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
玄関は広く、彼女が靴を置くスペースも当然ある。
広い家に芹と俺しか基本いないため、1人追加されるだけでだいぶ家の寂しさは減る。
彼女は芹にリビングにあるテーブルに案内された。その際、俺が普通に家にいることに一瞬だけ驚いた目をしたが、すぐにそれを隠すように俺に挨拶した。
「それで、何かありましたか?」
「あ……えーと、そうですね」
「?」
「警戒報告、です。あの後の健康状態の」
「ああ、そうでしたか。ご丁寧にありがとうございます」
彼女の言葉には少しだけ言葉に迷いが見られた。外から聞いていると、それが建前であることは容易に想像できる。もちろん指摘などしないが。
「特に体調は問題ないです。変わった点などもありません。……あ、それと。これ、よければ」
「?」
「私の実家は割と昔からやってるお菓子屋なので……その新商品です。良ければ」
「おや、そんなことはしてくださらなくても。お金もかかるでしょう?」
「大丈夫です。芹さんたちのおかげで会社もクビにならずに済んだので。受け取ってください。アレルギーも多分大丈夫です」
「それはそれは、ありがとうございます。でしたらいただきます」
彼女が持っていた袋を受け取った芹は、中を少し確認した。
「そうです。お茶をお入れしますね。座ってください」
「あ、ありがとうございます」
「ふふ。そんなに改まらなくても大丈夫ですよ」
芹はキッチンに向かった。
そしてそれを見て、さりげなく俺も続いた。
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