第18話:恐れ
第18話です。
「どうやらバレたようなので、この宿のトップに会いに行きましょう」
「トップの居場所が分かるんですか?」
「これを見てください」
芹さんはニコニコとしながら手のひらを私に見せた。
「これは災害時に壊れた建物の中などを探索できるようにするために大学時代の勉強仲間と一緒に作ったロボットなのですが、色々あってこの子を走らせていました」
「ロボット?」
見せてくれたそのロボットは2cmほどしかなく、とてもじゃないがこれが動くようには思えない。
もし本当にそんなものを作れるのだとしたら、医者よりも技術者になった方が良いのではないだろうか。
「これはですね、私の電子端末とリンクしていまして、建物の構造なんかもこまかく見ることができます。ただ、無駄に充電に時間がかかるのでいつでも使えるわけではないですがね」
「なるほど……」
「それでですね、この人たちに指示を出している方はどうやら6階の隠し部屋にいるようです。廊下から見て管理室の右隣にあります」
自分が知らないうちにどんどん話は進んでいるようだった。
「どんなことを話すのか、楽しみですねー」
「……楽しみなんですか?」
「ええ。何を考えて、このようなことをしていたのか非常に興味があります。そして人を捧げるべき対象がいなくなった今、何を思うのかにも興味があります」
「そうですか……」
私とこの人は、根本的なところが少し違っているのかもしれない。だからなんだと言う話かもしれないけど。
「お手洗いなど済ませて、準備ができたら向かいましょう。できれば霞さんは佐藤さんを連れて着いてきてください」
「……分かりました」
「別にそんなに丁寧に話さなくても良いのですが」
「いや……貴方もずっと話し方丁寧じゃないですか」
「そうでしょうか」
「はい」
特に意味のない会話の後に、私たちは5分程度で準備を終えた。そして荷物を全て持つと、そのまま部屋を出た。
私たちが持ってきていた荷物はほとんど残っていなかったから、私たちはほぼ手ぶら状態だった。
「こちらです」
芹さんはときどき後ろを確認しながらどんどん前に進んでいく。それに着いていくとあっという間に6階の例の部屋の前に到着した。
「ちょっと待っていてくださいね」
彼は懐から鍵のようなものを取り出した。
そしてその鍵を何もないように見える壁に突き刺した。
「え?」
「開きました」
ガチャッという音と共に何かが開く音がした。つまりこれが隠し部屋のドアが開いた音なのだろう。
「入りますよ」
***
「こんにちは。貴方がここの責任者で間違いありませんか?」
「………っ!?お前何故ここが!?」
「そんなことはどうでも良いでしょう?それよりも、私たちがこうして生きている。そして、私たちは貴方たちが何故このような拉致を続けるのか、殺人行為を繰り返すのか気になっている。それらこそが重要です。貴方は私たちに良くないことをしたのですから、少しくらい話して貰いたいところです」
「……」
「口を閉じないでいただきたいですが、答えづらい理由があるのでしょうか。ますます気になってしまいますね」
あまりにも自然な動きで、芹さんは小さな管理室の椅子に座っていた男の元に近づいた。それはオフィスで同僚に近づくくらいの雰囲気だった。
「なぜ貴方、いえ、貴方たちこの宿の従業員はこんなことをしているのですか」
「…………」
「是非教えていただきたい」
「…………」
「ふむ……なるほど。あまり顔色が良くありませんね。何かに恐れているのでしょうか?では、こうしましょう。お教えします」
「教える?」
「私は既に、この島の祭壇にいた2体の地神を殺し、捕食しました。あの2体は今、私の中にいます」
「………………は?」
男は「意味がわからない」という思いを隠せていなかった。目を見開き、口をだらしなく開けていた。
「あの地神がもしも、貴方たちの信仰の対象であるならば、私は申し訳ないことをしたかもしれません。しかしながら、被害を受けている人間たちが大勢いることは事実だということも主張したいと思います」
「何……?」
男の表情は、それがどの感情を表しているのか私に伝えてはくれない。それは怒りなのか、焦りなのか、悲しみなのか、困惑なのか。私にはそれらが全て合わさっているようにすら思える。
「お前……そんなことを言って、どうなるのか分かっているのか?地神という概念・存在を知っているのならば……それがどういう意味なのかくらい理解すべきだ」
「貴方がなぜ声を震わせているのか、私には分かりません。何かを恐れているのですか?」
「……恐れている?そうだな。お前がそんな無礼な、無責任な嘘を言っているものだから……この地域の未来が無くなるのではないか……そう思っている!」
机が割れるかと思うくらいに、男は拳を目の前の机に叩きつけた。
よく見ると、その衝撃で机の表面が削れ、男の手にも僅かに切り傷のようなものが現れた。
男は自分の中の衝動を抑えきれないように、持久走をした後くらいに息を切らしていた。
「未来……そして嘘、ですか。なるほど。要するに貴方は、私が地神を殺したということを信じていないということですか。信じていないから、恐れ、迂闊に告白もできない。よく分かりましたよ」
芹さんは少し嬉しそうに微笑んだ。そして声色は少しだけ明るいように感じた。
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