第10話:御形くんはまだ死ぬ可能性がありますから
第10話です。
宿の入り口は大きめの自動ドアになっていた。そしてそのドアを通り抜けると、3層吹き抜けの開放的な空間が広がっていた。
「……ああ、嫌な空間です」
「受付行くぞ」
「はい」
受付は3層吹き抜けのエントランスの奥に位置していた。白い石調のタイルが全面に貼られた台に、『受付』という案内と共に『ベルを押してください』とある。
俺は特に疑問を抱くことなく、案内に従ってベルを鳴らした。
「……ああ、いらっしゃいませぇー!」
すると奥の扉を開けて1人の人間が飛び出てきた。その人間は目の下にクマがあり、目がやや虚だったが、声だけは無理やり引き伸ばしたかのように響いていた。
「予約した石山と荒神です」
「えーと、はぁはぁ、あー、はい。2名様ですね。お部屋404です。こちら鍵になります」
「ありがとうございます」
鍵を受け取った芹は、共に4階へと向かう。
俺たちと一緒の船に乗っていた2人も、今店員から鍵を受け取っている最中のようだった。
「……404って、そんな部屋、宿やホテルにあるものなのか」
「あるんじゃないですか?」
「縁起は悪いな」
「御形くんは色々敏感ですからねー」
受付の後ろの廊下を少し行ったところに、石張りの空間と共にエレベーターが2機現れた。
「本当に現代的ですね。とてもこんなに人が少ない島にある宿とは思えません」
「そういえば、島の住民たちが住む集落は島の反対側だしな」
「どこにそんな予算があるのでしょうか。羨ましいですね」
「本当に羨ましいと思ってるな、こいつ」
エレベーターの中も豪華で、ボタンも最先端。速度を出して4階へと到着すると、壁に数字が書かれており、404はどうやらエレベーターの右側のようだ。
「えーと。あ、すぐそこですね」
部屋はエレベーターの隣だった。芹は鍵を部屋のドアに差し、ドアを開けた。
部屋の中は思っていたよりも豪華で、俺と芹の宿泊代を合わせて3万程度だったにも関わらずかなり設備が良い。
食事も含めてその値段であり何かあるのではないかと思わざるを得なかったが、それこそが芹の狙いであることを、その時の俺はまだ知らない。
「さて、御形くん。風呂でも行きましょうか」
***
─大浴場にて─
「というわけで、計画をお伝えいたします」
「ここでか?」
俺と芹はやはりここまで人がいない島の宿のものとは思えないほど立派な大浴場にある、一番大きな湯船に浸かっていた。
風呂に一緒に入ることは久々だったが、やはりと言うべきか、俺の嫌な予感は当たっていた。芹の体は痩せ細っており、所々骨が浮き出ている。そして何より、体の一部に跡のようなものがあった。
「この宿はですね、非常に曰く付きです。そして、この地域を束ねている地神が関わっています」
「もう少し分かりやすく教えてくれ」
「この島の住民たちは、何か良からぬことを来訪者にしているとか。この宿は宗教施設のようなものであるとか」
「とか?」
「この島に地神が出ること。良くないことをしていることは『友人』から聞きました。しかし、その他のこの島の良くない噂は、あくまで噂、と言ったところです」
「なるほど……」
やはり芹は、かなり行き当たりばったりなのかもしれない。
「多分ですが、今日の夜あたり、私たちはこの宿の地下に連れ去られます」
「は?」
そして突拍子もない発言を常にしてくるのが、芹という人間だ。
「歩きながら色々と調べてみたのですが、この建物、地下に謎の空間があります。構造的におかしい点がいくつもあるのです」
「それで?」
「おそらく何かやってきますよ。噂通りなら、連れ去られるということです」
「……根拠はなさそうだな」
「そうですね。明確なエビデンスはないです。でも、噂の出どころは割と信用できますよ」
「そうか……」
「それで、なのですが。もし私たちを襲ってくる者たちがいたとしても、反撃しないでそのまま攫われましょう。ただの人間ごときが襲ってきても、御形くんならどうとでもなってしまうでしょうから、今言っておきます」
どうとでもなるかは分からないが、確かに島の住民数人が来たとしても倒すことはできるだろう。
「もちろん命の危険を感じたら反撃してもらって構いません。私と違って御形くんはまだ死ぬ可能性がありますから」
今しれっと今後俺を不死にしようとしているやつがいた気がしたが、今は無視した。
「しかし楽しみです。こういう大きく動くイベントは久しぶりでしたから」
「まぁ、それもそうか」
医者になってからというもの、まずは仕事を覚えないといけなかったから、今日に至るまでここまで自由に動くことはなかった。
高校生の時を思い出すな。
「ベストコンディションを作って、完璧に攫われましょう」
「そうだな」
そういった俺の芹は風呂から出て、そして何故か豪華な食事をして、無駄に広い部屋でそれぞれのベッドに横たわった。
結局のところ、あまり眠る気にもなれず、本当に男たち4人が部屋にやってくるまで寝ることはなかった。
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