第8話:始まりの続き
第8話です。物語のプロローグの続きになります。
──スーパーマーケットで命を失いかけたその日、私はこの世ではない存在を確かに確認することができた。そして、この世の存在ではない何かを私の体内に取り込むことに成功した。
「で、芹。そろそろ話してもらおうか」
「ええ、御形くん。そうしましょう」
「なんで急に「くん」をつけ出したのか、もな」
病院から家に戻ってきた私は、1人暮らしの身には広すぎるリビングに御形くんを招いた。
私は彼に、全てを説明するつもりだった。
「まず大前提として、私はあそこで意識を失っている間、この世とあの世の境目を行き来していました」
「……それで?」
「そして、私はあの世……正確には名前が違うかもしれませんが、そこに連れて行かれそうになったとき、私は私を連れて行こうとしたあの世の存在を私の支配下におきました」
「は?」
「それによって、私の体は不死になりました」
「はぁ……」
「ちなみに、その過程で私は少しばかり1人の時を過ごすことになりました。この世の時間で言うと、おそらく10年ほどでしょうか。その時間に己を問い直した結果、この口調になり、今の私が出来上がりました」
「なるほど……」
「分かってくれましたか?」
「俺にはまだ早い世界だってことは分かった」
御形くんは私のことをじっと見つめた。彼の視線は私の目を捉えている。
「その目の色も、それが関係しているのか?」
「そうですね。おそらくそうだと思います」
「……違和感がすごいな」
私の目は、昨日まで真っ黒だったはずだが、何故か蒼く輝いていた。私も鏡を見て初めて気づき、少し考えさせられた。
「いっそのこと、髪も染めてみましょうか?青い目に合いそうな色に」
「………いや、まぁ、それはお前が決めることだが……軽々しくアドバイスはできないな」
「御形くんみたいに少し金髪を混ぜても良いかもしれませんね」
「それはどうだろうな……」
「あ、それとですね。そういえばもう一つ変わったことがあるんですよ」
それは病院からの帰り、御形の父がお金を出してくれて乗せてもらったタクシーでの出来事。
「もう一つ?何だ?」
「私、今まで乗り物酔いは一切しなかったんですが、人生の終わりを感じるくらいに酔ったんですよ、昨日」
「は?」
「正直に言って、銃で撃たれた瞬間よりも苦しかった。エチケット袋を用意していなかった自分を恨みました」
「お、おう……」
「これは私が不死になったのと関係があるのでしょうか?」
「いや……どうだろうな」
御形くんは頭を抱えて椅子にもたれかかると、「それはそれとして」と話を続ける。
「そもそも、お前が不死になったっていうのは本当なのか?お前が急に嘘をつく奴にやったとは思わないが、現実味がない。確かにあの回復力は異常だったが……あの世っていうのも、お前が死にそうになって見た幻想じゃないんだな?」
「そうですね。正直他人が私の見た光景を想像することはなかなか難しいと思います。私と御形くんがその目で見ているものが同じなのか、私にも分かりません」
「…………まぁ、良い」
椅子から立ち上がった御形くんは、私の側に近寄ると、私の目を覗き込んだ。
「……なるほど」
「何かありましたか?」
「お前の深淵のような目は変わってない。表面の色が変わっただけだ。俺にとってはお前はお前でしかない。だから、お前は嘘をついてない」
「?」
「協力しよう。今のお前なら、違う世界を見せてくれるんだろ?」
***
高校を卒業した私と御形くんは、元から狙っていた、比較的馴染みのある土地の大学へと進学した。
私が乗り物酔いをすることもあって電車やバスでの通学を否定し、2人で大学から徒歩5分の学生マンションの部屋をシェアすることに決めた。
部屋は2人で生活するには少し狭かったのかもしれないが、結局のところ大学の自習室などに入り浸っていたから、特に不自由もなかった。
大学生活は特に何かあったわけでもなく順調に進んだ。強いて言えば、たまに私の実験の手伝いで御形くんの睡眠時間を大幅に奪ってしまったことくらいだろうか。
「『友人』、時間です」
「そうですか」
私は毎週日曜日に、実験をすることにしていた。内容はいくつかあるが、一番のメインはやはり、死者の蘇生だった。
私はあの世の存在である『友人』を体に取り込んだことで、死という概念を捨て去ることに成功した。しかし、残念ながら他人を蘇生するのは容易でなかった。この世界には魔法などないのだから。
「……やはり権限が足りない。このままでは蘇生は不可能では?」
「困りましたねー」
超常現象が起きないこの世界において命を直接扱うためには、私が他の人間よりも強い権限を持たなければならないという。そしてその権限は普通に生きていたらまず手に入ることはない。
「まず理論から丁寧にやっていけば何か分かるかと思いましたが、なかなか上手くはいきませんね」
「それはそうです。理解しているのと、できるのは別です」
「どうしましょうか。このままでは誰も救えないし、菘を復活させることもできません」
「貴方、本当に好きですね、妹さんのことが」
「ただ1人の妹ですから」
「そういうものですか」
私は自らの精神の中で長い時間『友人』と対話をしていた。そしてその中で、私は彼のことを信用した。
「……ああ、そういえば。前に貴方が言っていましたね。権限を持つのは基本的に、『神』であると」
「ええ、その通りですが、貴方今、とんでもなく邪悪な表情をしていますよ」
「私は思うのです。私は貴方を取り込むことで、不死の体と、少しの権限を手に入れた。では、私がもし、『神』を取り込んだら、どうなるのでしょうか」
「ああ……始まりましたね」
「ええ。始まりですよ」
目標が生まれるというのは、いつでも良いものだ。後はそれを目指すだけ。努力するだけだ。
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