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世界の管理者は人間の生を追求する  作者: 水坂鍵
前章1(第5章):最高神の誕生
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第5話:死者からの言葉①

第5話です。

書き直しました。


 私、石山菘(いしやますずな)は勉強が苦手だった。まさか自分がここまで劣っているとは思っていなかった。


 私がそれを自覚したのは小学校3年の春。小学校でテストがあって、私はそこで不合格になった。クラスで不合格になったのは私だけだったから、すごくショックを受けた。


「…………あ」

 それからというもの、テストがあるたびに私は悪い点数を取り続けた。

 私は別に勉強をしてなかったわけではない。宿題は忘れずにやっていたし、毎日授業の見直しをしていた。でも、周りとの差は開くばかりだった。


「あ、あの……お兄ちゃん」

「何だい?」

「あ………いや、なんでもない」


 私はお兄ちゃんに頼ろうかと何回も思った。お兄ちゃんは昔から勉強ができたし、いつも余裕そうで、優しくて……。私に頼って良いと言ってくれた。

 でも、何度言おうとしても、お兄ちゃんの邪魔になってしまいそうで、口に出せなかった。


 誰も頼らず、間違った努力を重ねた私の点数は、みるみるうちに落ちていった。

 そして私は小学3年生の秋になって、完全な落ちこぼれになった。


「……4組か」

 小学4年に向けて、算数の進度順クラス分けがあった。一番成績が良いクラスは1組で、2、3組はそこそこ、そして成績が悪いクラスは4組。1組は中学受験組が占めているから入れるわけないけど、4組は4年生始めのテストで15点以下の生徒限定クラスであったため、数人しかいなかった。しかもほとんどが不登校の生徒や授業中寝ている生徒、そして後はそもそもテストを受けなかった生徒のみ。一応真面目に勉強していたのは私だけだった。

 私の中の劣等感は、日に日に増した。でも、毎日涼しい顔をして勉強を進めるお兄ちゃんの顔を見て、私はそうなりたいと思って勉強時間を増やした。いつか、私もカッコよくなれるかもしれない。そう信じて。


「…………」

 半年経って、小学4年生。お兄ちゃんは名門の中学校に進学した。私はそれを見て何の違和感もなかった。お兄ちゃんなら、当然だ。私は生まれてきてから、お兄ちゃんよりも冷静で、頭が良いと思った人はいない。

「よし………いける……私は……いける」

 私は半年間、必死に勉強して、特に苦手な算数の復習に努めた。

 そして今日、4年生の前半のクラスが決まるテストがある。私は2組に入ることを目指して頑張った。そしてある程度勝算もあった。


「はじめ」

「……っ」

 私は受験をするのかというくらい緊張しながら、ページをめくった。

「…………!」

(大丈夫だ。見たことある。ドリルでやった。この問題も)


 テストの内容は見たことがあるものばかりだった。私の勉強は、ある程度効果があった。

 私は胸を躍らせながら問題に取り掛かった。


(これは……こうやって…………………あれ?………あ)


 しかし、1つ目の問題を解き終えようとしたとき、急に頭にもやがかかったように思考が鈍くなった。それはまるで、夢の中で走ろうとしているような。


(なんで…………ぁ)


 他の問題に切り替えようとしても、そのもやは取れない。頭がぼーっとして、文章が入ってこない。

 気付いた時には、テストは終わっていた。


(…………あああ)


 私はチャイムが鳴った時、泣き出しそうだった。あくまでクラス分けのテストでしかない。でも、私は真剣にやった。やったのに、力を出せなかった。練習のときは解けていたはずの問題も、解くことができなかった。私の頭にあったもやは、テストが終わった瞬間に晴れた。




***




「さてぇ。お前らこの4組にいるわけだがぁ。なんで自分がここにいるのか分かるよなぁ?」

「……っ」


 担任の佐藤先生は、私の算数の担当教員でもあった。

 結局4年生になっても4組のままであった私は、いつも威圧的な佐藤先生の授業を黙って受けるほかなかった。


「お前らができないからだ。できないからここにいる。こんなテストで20点も取れないようなやつらは、勉強してないのか、馬鹿なのか。俺は容赦しないからな」


 佐藤先生は成績が良い生徒以外には基本的に口が悪かった。多くの生徒から嫌われていたが、問題になることはなかった。


 先生の言葉通り、私は容赦ない教育を叩き込まれることになる。段々と居残り勉強が増え、膨大な課題を終わらせるまで帰ることができない。終わるまで水も飲ませてくれない。トイレにも行かせてくれない。なんでこんなことが許されるのか。


「おい石山、聞いているのか?」

「は、はい」

「お前は本当にバカだよなぁ。一応ちゃんと宿題もやってるのに、全然成績は良くならない。ああ、そういえばお前の兄は〇〇中学に行ったんだっけか。兄は優秀なのに、妹のお前は情けないなぁ」

「すみません……」

「謝ってないで、手を動かせ、手を」

「はい……」


 毎日毎日怒られた。

 幸い忘れ物とかはしなかったから、他の先生に怒られることはほとんどなくて、ひたすら佐藤先生に耐える毎日だった。

 私は必死についていこうと努力した。


 ──しかし、ある朝のこと。


「菘、お前、学校の成績が下がっているらしいじゃないか」

 普段会話のないリビングで、イライラしたように父が言った。


「………っ」

 私はドキッとした。心臓が止まりそうになった。恐れていたことが起こってしまった。


「お前のところの担任が電話をかけてきたぞ。私は恥ずかしくて仕方なかった!」


 父からの目線は非常に恐ろしいもので、私は椅子の下の地面が割れて落ちそうになる幻想を見た。


「父上、あまり責めないでください。菘が怖がっています」

「芹、お前は黙っていろ!」


 お兄ちゃんは私の味方になってくれているけれど、父の怒声は変わらなかった。

 私はただ小さくなって、この場が終わることを待つ他なかった。


「……はぁ、朝から五月蝿いわよ」


 本来ならば、ここで母の助け舟があるかと思いたいが、この家では私の味方になってくれるのはお兄ちゃんしかいない。


「何を言うか。金をかけた子供が金に見合った働きをしないことを、咎めずに何だと言うのか」

「私は最初から菘には期待してないわ。芹と比べて明らかに馬鹿だったじゃない。最初から」

「母上、その言い方はどうかと思いますよ」

「貴方は口を閉じてなさい」


 母からの暴言よりも、母の視界にすら入っていないことの方が、私の心を傷付けた気がした。

 そして自分がバカだと分かっているからこそ、余計に心にくる。


「大丈夫だよ、(すずな)。何があっても、僕が(すずな)を守るから」


 お兄ちゃんはそう言ってくれたけれど、私はもどかしい気持ちになった。


「……なんで、私はお兄ちゃんみたいに勉強ができないのかな」


 ぽつりと、私は思っていたことを口に出してしまった。比べても仕方のないことだとは分かっていても、どうしても心をかき乱された。


「それはきっと、まだ努力が実ってないだけだ。そんなに今を気にする必要はないよ」

「でも……また怒られる」

「あまりに酷くなったら、僕にも考えがある。無理はしちゃいけないよ。あの2人は僕たちを使っていると思っているのだろうけれど、僕たちはあの2人に利用価値があるから、あの2人を利用しているに過ぎないのだから」


(……?)

 お兄ちゃんはたまによく分からないことを言う。

 あの2人を私たちが利用しているというのは、どういうことなのか、今でも私は理解できていない。

お読みいただきありがとうございます。

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