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世界の管理者は人間の生を追求する  作者: 水坂鍵
前章1(第5章):最高神の誕生
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第3話:躾

第3話です。


「……………」

「おかえり、(すずな)

「……………」

「何かあったかい?」


 芹が玄関のドアを開けると、どこかやつれて暗い表情をした(すずな)が、ランドセルを地面に下ろして立ち尽くしていた。

 それを見て、芹は菘の様子がおかしいと判断した。


「……何もない」

「嘘は良くないな。いや、ついても良いけれど、この場合は良くない」

「何もないよ……」

「本当に?」

「…………」


 菘はふらふらとしながら芹の横を通って自室に入ってしまった。

 そして芹にはそのドアを開けてまで何か聞くと言う判断はできなかった。




***




「菘、お前、学校の成績が下がっているらしいじゃないか」

「………っ」

「お前のところの担任が電話をかけてきたぞ。私は恥ずかしくて仕方なかった!」


 リビングで、朝、父が菘に向かって怒鳴った。その表情は怒りに満ちていて、醜悪だった。


「父上、あまり責めないでください。(すずな)が怖がっています」

(せり)、お前は黙っていろ!」


 食事中であるというのに、父はいつになく不機嫌で、今にも手が出そうになっていた。そのため、芹はさりげなく菘の椅子を後ろに下げ、自らが前にいるように位置を変えた。


「……はぁ、朝から五月蝿いわよ」

「何を言うか。金をかけた子供が金に見合った働きをしないことを、咎めずに何だと言うのか」

「私は最初から(すずな)には期待してないわ。(せり)と比べて明らかに馬鹿だったじゃない。最初から」

「母上、その言い方はどうかと思いますよ」

「貴方は口を閉じてなさい」


 母もまた、子どものことは考えておらず、自らの利益のことばかり考えていた。

 芹が注意をしても、それが2人に届くことはない。



 ──食事が終わり、食器を芹と菘が片づけると、リビングは無人になる。父母は自室に戻り、仕事に行く準備を始めた。


「…………」

「大丈夫だよ、(すずな)。何があっても、僕が菘を守るから」


 学校に通う前、芹はランドセルを背負った菘の背を撫でる。


「……なんで、私はお兄ちゃんみたいに勉強ができないのかな」

「それはきっと、まだ努力が実ってないだけだ。そんなに今を気にする必要はないよ」

「でも……また怒られる」

「あまりに酷くなったら、僕にも考えがある。無理はしちゃいけないよ。あの2人は僕たちを使っていると思っているのだろうけれど、僕たちはあの2人に利用価値があるから、あの2人()利用しているに過ぎないのだから」


 菘はずっと俯いていた。その心の奥を、芹は掴むことができない。芹は必死に菘を理解しようとしているが、彼の力だけではそれは叶わない。


 芹と菘は学校への道を歩いていく。

 すぐそこの交差点を左に曲がれば中学校。そして右に曲がれば小学校がある。

 芹は手を振って、菘と別れた。


 思えばこのタイミングで、自らの生活を変えてでも動くべきだったと、芹は後に思うことになる。彼にとって、最初で最後とも言える、失敗の経験である。




***




 それからまた数ヶ月が経ったある日。その日は非常に慌ただしい一日だった。

 芹はクラス委員長を任されたこともあり、非常に多くの仕事と勉学をこなさねばならず、帰宅できたのは夜の8時過ぎだった。


「………おや」


 家の前が何やら騒がしい。

 家の前には黄色いテープが貼られ、大人複数人が家を囲むように配置されていた。


「失礼。ここの家の者ですが、何かありましたか」


 芹がそう尋ねた男は、服装からして警察であることは間違いなかった。

 芹が尋ねたことで、その男は慌てるように他の男2人に確認をとった。


「……石山さんの家の子か。息子さんか。気の毒に」

「何がでしょうか」

「……こちらへ」


 家の前には車が数台停まっていた。そしてその内の1つに、芹は案内された。


「父上ですか」

「おー、(せり)。学校は終わったのか」

「はい。順調に」

「丁度いい。これから病院に向かうところだから、一緒に来い」


 車は父の一声で発車した。

 後部座席に座った芹は、15分ほどただ無心で車に乗り続けた。


 車が最終的に停まったのは、芹住む町で一番大きな病院だった。


「父上、何があったのですか?」

「見れば分かる」


 警察と思われる人間と父は、真っ直ぐに病院内を移動する。

 そしてとある部屋の前で立ち止まった。


 警察が「では失礼します」と言って立ち去ると、父はぽつりと「今、菘が集中治療室で治療を受けている」と言った。


「菘が?何故です」

「知ったことか」


「……あ、石山さん」

「!おお、荒神先生!」


 父の元へ、一人の医師がやってくる。彼は荒神という、少し変わった苗字をもっていた。


「娘さんですが……正直かなり厳しいかと」

「そうか。それは残念だ。それよりも、妻は?」

「え……あ、ああ、ええとですね。お連れ合いの方は無事です。今ベッドで横になっています」

「そうか、案内してくれ」

「あ……えっと、娘さんの方は」

「助からんのだろう?なら待っていても無駄だ。早く妻のところへ案内してくれ。娘は芹が見ているから問題ないだろう」

「わ……分かりました」


 父の言うままに、医師は母の元へ父を案内しに行ってしまった。

 そしてこの場には、ただ1人、芹だけが残された。


お読みいただきありがとうございます。

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