第2話:分解
第2話です。
芹が小学6年生、菘が小学3年生になったある日のこと。
「ああ、そう言えば、芹がまた優秀な成績を収めたらしいな。なんでも、この前の発表が表彰されたらしいじゃないか」
普段特に会話のないリビングで、突然父がそう切り出した。
この場では今まさに家族4人全員が集まって食事をとっており、芹もその言葉を聞いていたが、芹が反応することはない。
「なんでも、近くの私立中高一貫がうちに来てくれないか、と、芹の学校に連絡してきたらしい。迷惑な話だ」
父は1人で話を続ける。
「子どもにこれ以上払う金などないというのに。芹、お前も優秀なら、これ以上私に迷惑をかけたくないと、そう思うだろう?」
「……そうですね。父上は僕にこれ以上お金をかける必要はありません。もしも万が一、何か余ったお金があるならば、是非菘に使って下さい」
「そうか」
父はもう興味がなくなったのか話をやめた。
と思ったら、今度は母親が話し始める。
「ああ、でも、芹にはとにかく勉強させて、⚪︎⚪︎大に行かせて、⚪︎⚪︎社に就職させるのも良いんじゃない?そうすれば、私たち、もう働かなくても良いじゃない」
「……何?」
母は唐突に半笑いをしながらそんなことを言う。
それを聞いて、再び父が口を開いた。
「せっかく産んで育ててあげてるんだから、稼いでもらわないと割に合わないわよ」
「それもそうか」
「その中学が学費安くしてくれるなら、考えても良いんじゃない」
「なんなら向こうから言ってきてるんだから、ただにしてもらわないとな」
下品にゲラゲラと笑う父と、下品にニヤニヤとした笑みを浮かべた母の姿は、芹の隣に小さく座っていた菘には少し恐ろしく思えた。
「………」
そして芹はその父と母の姿を見て、ただニコニコと笑っていた。
それもまた、菘には不気味に思えた。
***
芹は受験を経て、菘が通う小学校から15分ほどの、地元で有名な中高一貫校へとの入学が決まった。彼は勉強が得意であったため、特に問題なく入試を突破した。父母が学費は一切出さないと学校側に言ったところ、芹レベルであれば入試で特待生になることができるから問題ないと言って、無理やり説得した。学校側は、最近他校への優秀な学生の流出を危惧していたために必死だった。
「……お兄ちゃん、私と遊んでて大丈夫なの?」
「どういうことだい?」
「勉強忙しいでしょ」
「入学前の課題なら出たけれど、もう終わったから問題ないよ」
「……そ」
「それよりも、そうだね。確かに、僕と遊んでいてはダメかもしれないね。菘はもっと同学年の友達がいないと」
「……いるよ。少しは」
「この辺、一緒に通える子が菘の同学年にいなかったからね。いるなら、僕は後ろからそっと見守っていたんだけれど」
「それもそれでキモいよ」
「そうだね、そうかもしれない」
菘が小学3年になるまでは、芹は毎日菘と共に小学校へ向かっていた。芹は菘に一緒に登校する友達ができたら後ろで見守ろうと思っていたが、思ったよりもクラスメートが同じ地区にいなかったために結局1年間一緒に登校することになった。
そして今年、来年芹が中学校へ進学することもあって菘1人で登校する機会が増えた。
「僕がいなくなった後も、何かあったら、いじめられたり、怪我したり、何かあったら、ちゃんと言うんだよ」
「分かってるよ」
***
学校が始まって早3ヶ月。芹は親と中学校の言うままに、特待生として入学し、そして勉学に励んでいた。
「……ただいま」
誰もいない玄関を通り過ぎて、芹はリビングに入った。
時刻は午後6時で、親2人はまだ家に帰らない。そして菘もまだ家に戻っていなかった。
「少し遅いか」
芹は曜日ごとの菘の時間割を思い出したが、本来今日は遅くなる予定の日ではない。
「何か楽しいことでもあったかな」
きっと友達と遊んでいるのだろう、と芹は考えた。菘はもう大きくなってきており、これ以上干渉すべきではないと思っていた。
「夕ご飯を作ろう」
荷物を置いて今日の献立を考える。考えるとは言っても、前に買っておいた食材を使うだけなのでレシピは限られるが。
夕ご飯は毎日、芹が作っていた。
「よし」
7時ごろ全ての準備が整い、芹はポリエチレンを料理の上にかけるとそのまま自室へと向かった。芹の部屋は6畳の洋室を2段ベッドで2分割した空間の片方であった。
「………」
この空間には誰もおらず、芹は表情を作ることはない。ただ黙々と学校に出された課題をこなし、必要であれば教科書と参考書を見て知識を付け足して学習していた。
そしてしばらくすると、家のチャイムが鳴った。時刻は午後8時だった。
「帰ってきたかな?」
芹は椅子から降りると、玄関へと向かった。
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