第24話:『心』
第24話です。
モニターの中を透明な槍のような物を持って歩く死霊は、目に見えるほどの憎悪を浮かべながら病院のエントランスを見渡した。
しかし、綺麗に清掃されたエントランスには誰もいない。病院はまるでただの抜け殻のようで、死霊は困惑した。
『………………?』
「よう」
『!?』
彼にやや陽気に声掛けをしたのは、副院長である御形だった。
「何の用だ?」
『………っ!!!!』
「なるほど……思考できなくなってるのか。可哀想にな」
『ぐわっ!?』
死霊は一瞬にして負のエネルギーを御形に吸収される。死霊は浄化され、生物として復活した。
「少し寝ていてくれ」
***
「……嫌な囲い方だな」
俺が昼食を食べようと控え室に向かったくらいのときに、仕掛けていたセンサーが作動した。どうやらこの病院は襲われそうになっているらしい。
しかし、こんなことをしようとするのは……。
「全員退避だな」
俺は迷いなく、全従業員を極秘シェルターの中に避難させることにした。
『カエデ、頼んだ』
『承知致しました、代理』
カエデら情報科のバックアップにより、職員全員の転送は一瞬にして達成された。
「……さて。じゃあ、ここからは俺の腕の見せ所だな」
この病院に今このように攻め入ってくる可能性がある勢力など、奴ら以外いない。
これももしかしたら、また奴らの得意の嫌がらせかもしれない。
「……そろそろか」
どうやら、大軍の内、第一陣がエントランス付近に到着したらしい。
俺は転移でエントランスへと降り立った。
「よう」
『……っ!?』
「何の用だ?」
俺はエントランスに入ってきた霊体に話しかけるが、思った通りの返答はない。おそらくこの霊体はまともな思考ができる状態ではない。
ならば、と思い俺はこの霊体を一旦生きた命に変換することにした。
「少し寝ていてくれ」
作業は単純であり、すぐに終わる。
生きた命となった彼を抱き抱えると、そのままベッドへと転送した。
「さて」
俺は外の様子を確認する。
ざっと全体を認識したが、どうも全員俺たちへ敵意むき出しのようで少し笑ってしまった。
「おっと」
一瞬、俺の体を紫色の謎の光が通過しそうになった。
「流石に光は速いな」
一応避けることができたが、この光は良くない。体に当たっていたら、当たった場所にある細胞が死滅していただろう。
目を凝らしコンクリートを透視すると、病院の入り口から50mほどの位置にいる1人の少年が確認できた。彼の仕業だろう。
「大したもんだな」
俺は少し迷ったが、面倒なので自分から外に出ることにした。
「よし、かかってこい」
少し挑発をする。
普段ならしないが、今日だけはこの方が手っ取り早い。
「それで良い」
狙い通り、病院を囲む者たちは一斉に俺に向かって突撃してきた。
***
「ようこそ。『友人』、田平子」
「ここは………」
360度真っ白な空間に縦と横の黒い線が無数に入った謎の場所に、『友人』と田平子は転送された。
「ここは『心の部屋』。ここにはね、生き物の『心』のみが入ることができる。ほら、君たちも今、肉体を持っていないだろう?ここに今あるのは、君たちが知恵のある生命体であるために必要な『心』だけ」
田平子たちの目の前にいる女郎花にも実体はない。田平子たちはお互いに存在を認識できるが、この場に存在するのはその『心』だけだった。
「……こんなところに私たちを呼んで、何をする気なの?」
「そうだね。本当なら、この『心の部屋』の真価を発揮したいところなんだけど、芹の采配が上手くてさ」
「……?」
「せっかくだから、一から説明するね」
「時間はたっぷりあるから」と、女郎花はゆっくり語り始めた。
「まず、この部屋がどういうものなのかだけど、簡単に言えば心を持った者を完全に操ることができる部屋だよ」
「…………?」
「ちなみにこれは、洗脳魔法とか、そういうレベルのものじゃない。もっと根本的に、心を書き換えてしまうものだ。生まれ持ったものも、育った価値観も、すべて0にして、勝手に能力値のように心の中身を設定することができる、というものだよ」
「……は?」
「この権限は、現在の最高神である芹くんは保有していない。先代の最高神が殺されてしまったときに、一度失われた権限だ」
女郎花は天を仰ぐように白と黒の空間を眺める。
「僕たちはずっと、最高神としての権限と、そしてこの力を求め続けていた。そして最近、ついに見つかった。僕たちは、まだ少々扱いきれてはないけれど、手に入れることには成功したんだよ」
彼の表情は輝いていた。
まるで世界の全てを手に入れたかのように。
「……先ほどから言っていることがよく分かりませんが、貴方がまともでないことは分かりますね」
「ははっ。面白いことを言うね。僕たちはまともだよ。最高神を殺した芹くんよりはよっぽどね」
「……最高神を、殺した?」
一瞬、田平子の思考が止まった。
「君は知らないだろうけど、そこにいる『友人』や、今ごろ病院にいる御形くんとかは知っているだろうね。いやほんと、芹くんほどの極悪人はこの世にいないんじゃない?」
女郎花は、ただ笑う。
本心と冗談が混じったような口調だった。
「まぁ、それはそれとして。僕たちは芹くんの敵だし、いずれ倒したいと思っているんだけど、これはそのための力でもあるね。そして、僕たちは新しい世界の秩序──正確に言えば元の世界の秩序を取り戻す」
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